第12話

「幽霊君は、幽霊とは思えない顔をするね。この時代を哀れんでいるのかい?」

「!?」


 先生は俺の前の席に腰を下ろして、空を見上げた。

雲一つない、キレイな空を。


「僕は足を悪くして務めから戻ったんだけど、やぱり長く立っているのは辛い。

 キミも座ったらどうだい? それとも、幽霊は疲れ知らずなのかな?」

「……」


 先生の声は穏やかで、優しくて、だからかな、焦燥感ってもんが不思議と和らいだ。

夢の中で夢の中の人と話すのも初めてだったから、どうせ目が覚めるまで帰れないんだしって、

何と無く、言われるままに もっかい着席してみた。


「風が気持ち良いね」

「……先生は、幽霊が怖くないの?」

「僕にとっては、こうゆう出会いも珍しい事では無いんだよ」


 普段から幽霊を視てるって事なのかな? 霊感先生?


「幽霊君、キミの名前は何と言うんだい?」

「朔。本村朔。」

「サク。素敵な名前だね」

「幽霊に名前 聞くとか、変な先生だね?」

「そうだね。普段なら声をかけたりはしないよ。

 でも、キミがとても不安そうな顔をしていたから、反射的に」

「俺が、不安そう?」


 確かに夢と現実の狭間を行き来する、この如何わしい体質には困らされてるけど、

そうゆうの、見透かされないようにって気をつけてたつもり。

言い当てられちゃうと、何か……カッコ悪いな、俺。


「まさかぁ。俺、幽霊だよ? 不安も何も無い。全然ない。それなりに楽しんでるよ」

「何も恥ずかしがる事は無いんだよ。悩みや不安は人夫々なのだから」

「! ―― 解かったような事、言うなよ……」


(俺の悩みは、今、そんな次元には無いんだよ。

 自分が何処の誰かも疑わしいんだ。何処にも存在しないかも知れないんだ。

 全部、嘘かも知れないんだ。そんな事言ったって、アンタに解かりゃしないだろが)


 口に出して言うのも言い訳っぽくてカッコ悪いから、腹の底で不満タラタラ。

でも先生は、それも知ったかのように言うんだ。



「共有できない事を嘆いてはいけません。それを孤独として縛られてはいけません」


「……」



 不思議と、胸に響いた。

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