第9話

 周囲は木々に覆われていて、蝉の声が聞こえる。

暑さは感じないけど、夏なんだろうな。日差しが燦々。やっぱ眩しい。物凄くリアル。


「何だか良く分かんねぇけど、ここでも何か起こんのかぁ? 俺に何しろってのぉ、」


 確か、村があったよな。行ってみっか。何と無く、道すがら。

真っ直ぐ進むと、三階建ての木造の建物が見え出す。


「学校? っぽい?」


 俺が良く知る佇まいとは違って、昔し懐かし木造校舎。


「山奥の田舎だし、木造校舎も残っちゃいるだろうけど、珍しぃ。

 それに、校庭もデコボコじゃん。走れないって。

 朝礼台も鉄棒の支えも、木だよ、木! 時代を感じちゃうなぁ」


 【じゃない方の夢】は、殆どのケース、俺に自由は無い。

誰かの体の中に入っていたりするのが要因なんだろうと思う。

でも、たまに、俺が俺として存在する事がある。

そうゆう時は決まって、幽霊みたいな存在で、誰にも目視されないって言う、

透明人間のような体験が出来る。


(どうせ起きるには時間がかかる。見回って時間潰しだな)


 古すぎる様式の学校に興味が沸いてる。

透明人間の俺は、学校の中に入った所で部外者扱いされやしないから気楽だ。


「ホント、マジでココ何処よ? 現代には程遠いなぁ。もしかして、過去?」


 過去だと思うと、普段以上に緊張する。

だって、過去に来るのは初めてだし、歴史を変えちゃうような事はしちゃいけないよな?

まぁ、そう簡単に変える事は出来ないだろうから、取り越し苦労なんだろうけど。


(念の為、痕跡を残さないようにしよ)


 校舎の中は誰もいない。日曜日なのかな? 静かで、蝉の声だけが響いてる。

窓ガラスは波打ってって、気泡が入ってて、温かみが感じられた。

木造の内装も傷んじゃいるけど、キレイに使われてる。

ここに通う生徒達のマジメさが想像できた。


【1-1】と書かれたプレートが ぶら下がる教室を覗き込むと、

ザラ版紙の様な質素な用紙に、毛筆で書かれた不恰好な『希望』って文字が壁に並んでた。

並んでる机も小さいし、ここは小学校なんだろうな。


「ハハハハ。小1にしちゃ上手いじゃね~の♪」


 風に煽られる窓の桟が、ガシャガシャって小気味の良い音を立ててる。


「イイ風だなぁ」

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