第68話十七歳 20
バレットにルウルウ風邪の薬を渡してから数日して、ルウルウ風邪の薬が庶民でも手に入るようになった。
これによって多くの人が助かった。
ガルマダール子爵は歯ぎしりしているだろうけどセネット侯爵家に対しては何もできないだろう。
そして一番の問題はロックの存在だった。ガルマダール子爵が命を狙ってくるのではないかと疑っていたけど、意外となにもおこらない。最悪この国を出奔する覚悟もしていたサラとロックだったけど、ガルマダール子爵は夜会に出席した翌日に倒れルウルウ風邪をこじらせて亡くなった。そして曲がったことを嫌っている実直な三男が長男次男を押さえて子爵家を継いだ。あまりにもできすぎた話にセネット侯爵家の関与を疑ってしまうが、私たち庶民には関係のない話だ。
「取り敢えずもうガルマダール子爵のことは気にしなくてもよくなったな」
「そうね、ロックもこれからは自由に表を歩けるわね」
サラは今まで通り店をやっていくことになり、ロックは近くの宿屋を買い取り経営することになった。その宿屋には食事処は付いていないけどいつかは改築してサラと二人でやっていきたいと考えているらしい。
そして気になるのは二人の結婚についてだ。
「結婚式は質素にするつもり」
「役所に書類さえ出したらいいさ」
そういってロックが買った宿屋に自分たちの住処を作り一緒に住みだした。離れ離れになっていた分を取り戻したいかのように素早い行動だった。
「どうする?」
店からの帰り道でフリッツとマリーに尋ねる。
「なにを?」
「やっぱりお祝いぐらいした方が良くない?」
「そうよね。今度の休みにでもする?」
「宿屋を始める前の方が良いだろうからその日しかないな」
マリーとフリッツと相談してささやかなお祝いをすることにした。
二人の両親はもういないし、ここでの知り合いも多くはいない。それでも一つの区切りとして結婚のお祝いをしよう。
「エドはどうする? 一応この店を始めるときは共同経営者だったわけだし呼んだ方がいいかな」
「エドは忙しいから無理よ。共同経営も辞めてるんだし呼ばなくていいわ」
冷たい言い方かもしれないけどエドはもうこの店とは縁を切った人だ。この間は助けてもらったけどもう関わらない方が良いと思う。
「そうだよな。貴族がいるとロックさんも緊張するだろうし…」
エドとはあれきり会っていない。約束の二年も、もう過ぎてしまった。エドはもしかしたら約束したことを忘れているのかもしれない。だとしたらもう待つ必要はないことになる。
待つ必要がなくなったとしても、私に変わりはない。縁談がないわけではないけど、誰かと一緒にいる未来が描けないのに結婚しても幸せになれない気がする。
「何を言ってるの? そんなこと言ってたら結婚なんてできないわよ。多くの人は話したことがない相手に嫁いでも幸せになっているわよ」
私が理想の結婚について語った時のマリーの台詞だ。
マリーはフリッツと恋愛結婚する予定なのに意外とシビアなことを言う。
「そうかしら。でも会ったこともない人と結婚するのは賭けみたいなものでしょ? すごく嫌な相手だったらどうするの? 暴力男とか女癖が悪いとか」
「ああ、そういうのはよくある話だな。あと姑がすごく意地が悪かったりして苦労するんだ」
「そうね。私の従妹もそれで苦労しているわ。一度結婚すると離婚は難しいから我慢しているみたい」
「だろ? アンナの結婚相手が決まったら俺と兄さんが調査するからな。アンナは強いから暴力に屈することはないだろうけど女癖が悪かったり、自分の母親の言いなりな男は駄目だ。苦労するのが目に見えているよ」
「その時は私も一緒に調査するわ。女の方がそういう調査は得意なのよ」
マリーも結局のところ見合い結婚賛成派ではないらしい。ただ私がこのままいかず後家になってしまうのを心配しているだけだった。
フリッツは母であるベラの苦労も知っているので無理に結婚を勧めたりはしない。慎重に選んだ方がいいと思っているようだ。姉と認めていない私にもこれだから、アニーが結婚するときはもっと大変かもしれない。まあ、私もアニーの相手は徹底的に調査するつもりだけどね。かわいいアニーが結婚後に苦労するなんて許せないもの。
いつの間にかサラのお祝いの話から私の結婚話になって、家まであと少しのところになったとき肩を叩かれた。
振り向くとエドが立っていてびっくりだ。いつから後ろにいたのだろう。
もしかして今までの話を全部聞かれた?
どうしてクリューは何も言ってくれなかったの?
疑問だらけで固まってしまった私にエドはいつもとは違う、緊張した微笑を向けた。
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