第64話 十七歳 17
「ま、待って。アネット様は何を言っているかわかっているの? ロックに犯罪者になれって言うの?」
私が驚いてアネットに詰め寄ると、アネットは冷たい目をしてきた。
「アンナは沢山の命より、ロックが犯罪者になることの方を心配するの?」
それは仕方がない事だ。私だって皆を助けたい。でも…、だからってロックを犯罪者にするのは嫌だ。せっかくサラと幸せに暮らせるようになったのに、プロポーズまでしたのにあんまりだ。
「わ、私がするわ。薬を盗むのは私がするからロックは見逃してあげて」
「アンナ、貴女には無理よ。姿隠しの魔法が使えるロックだからできることなの」
アンナが呆れた表情で私を見ている。
姿隠しの魔法。確かにロックはその魔法を使えると言っていた。アネットはそれを聞いて良い考えが浮かんだと言ったのか。
「姿隠しを使うってことは、ロックは犯罪者にはならないってこと?」
「上手くいけばね。失敗すれば犯罪者になってしまうし、下手をすれば命だってとられてしまうわ」
「そ、そんな…」
サラの顔は青を通り越して白くなっている。でもロックの方は違った。彼の顔には血の気が戻っていた。
「俺はやります。このまま見て見ぬふりなんてできません。俺は報酬に目がくらんで、よく調べもせずにあの男を捕まえて貴族に渡してしまった。あの時仲間だった冒険者は知っていたのかもしれない。今思えば俺とあの男が話させないようにしていた気がする」
「その冒険者とはもう会っていないの?」
「あの仕事が終わった後は会っていません。遠くの行くようなことを言っていました。俺も遠くに行った方が良いとしきりに勧められました」
その冒険者は黒だ。きっと全てを知っていて引き受けたのだろう。お金のために…。悲しいけれどよくあること。
「まあ、賢い選択ね。殺される前にお金を受け取って逃げたわけね」
クスクスとアネットは笑っている。でもロックのことは逃がしてくれそうにない。
「それでどうするつもりだ? ロックが姿隠しの魔法を使っただけではどうにもならないだろ」
「そうでもないわ。それより貴族の名前はガルマダール子爵家で間違いない?」
「どうしてそれを?」
ロックはずっと貴族の名前を言おうとはしなかった。守秘義務のようなものだったのだろう。だからアネットに言い当てられて驚いていた。
「セネット家で手に入れた薬はそこからなのよ。絶対に後ろ暗いところがあると思っていたの」
「だが証拠が掴めなかった。ガルマダール子爵はなかなかのやり手だ」
「でも冒険者であるロックだけの証言では彼を捕まえることは無理。ロックより詳しく知っていそうな冒険者がいればまだ何とかなったかもしれないけど、彼は遠くにいてどこにいるかもわからないのではどうしようもないわ。時間をかければ証拠も掴めそうだけど、そんなことをしていたら助かる命は減ってしまうでしょうね。だからロックには命を懸けてもらうわよ」
命を懸けてもらうと言いながらもアネットの表情は生き生きしている。彼女に任せていれば何とかなりそうな気さえしてくる。
やっぱり格が違うなと思わされた。
エドもアネットのことをなんだかんだ言って信頼しているようで、
「アネットに任せていれば大丈夫だから、心配しなくていいよ」
とボソリと呟いた。私にだけしか聞こえないような小声だったけど確かに聞こえた。
私はあえてエドを振り返らなかった。エドが小声でしか言わなかったのはアネットを気にしてのことだろうから。
アネットの計画を聞かされた私たちは、行き当たりばったりの計画な気もしたけど最終的には引き受けた。やる気になっているロックの気持ちを考えてのことだ。もしここで止めてもロックは薬を盗みに入るだろう。それならばアネットの計画に従った方が、成功率が上がる分良いと判断したのだ。
「じゃあ、後は兄さまをこの計画に引きずり込むだけだわ」
「大丈夫かしら」
「大丈夫よ。アンナが関わっているし、エドが上手に話してくれるわ」
私が関わっていることがどうして大丈夫に繋がるのかはわからない。でもエドとアネットに任せれば何とかなる気がする。
そう兄さまを引きずり込めなければこの計画は実行できない。もし実行しても失敗する未来しか描けない
そのくらい兄さまは重要なのだ。兄さまは妹に優しい人だから、アネットとエドが説得すればきっと大丈夫よね。
エドは帰り際、何か言いたそうな顔をしていたけど、私は気づかないふりでやり過ごした。
今はアネットとの婚約の話は聞きたくなかった。いつかは二人で話さなければならないのかもしれないけど、もう少しだけ引き伸ばしたかった……。
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