第63話 十七歳16

 私は嫌な予感がしたので店へと急ぐ。何故かエドとアネットも付いてきた。

 ホッとしたことにロックもサラも無事だった。ロックは宿から荷物を引き上げていた。


「宿の方では何もありませんでしたか?」


 ロックはエドとアネットを気にしていたが、私が尋ねるとニヤッと笑った。


「ああ、大丈夫だった。まあ、姿隠しの魔法を使ったんだけどね。あまり使いたくなかったんだけどルウルウ風邪が治ったことを知られると厄介だからね」


 そんな便利な魔法が使えたのね。ルウルウ風邪になっていた事がロックを救ったのかもしれない。


「宿の周りに変な人とかいなかった?」

「そういえば数人宿を見張っているようなのがいたな。でもルウルウ風邪が怖いのかだいぶ離れた所から見ていたから、あれでは探している相手に逃げられるだろう」


 その人たちがロックを探しているかどうかはわからないけど、無事で本当に良かった。せっかく助けたのだから長生きして、サラと幸せになってほしい。

 私はロックとサラにどう話すべきか悩んでいた。危険から遠ざかるためにも話さなければならない。

 エドとアネットを見ると、二人は頷いた。話した方が良いってことよね。

 クリューは私の肩に乗っているけど、誰にも見えないように姿を隠している。


「そうか、あいつらは俺を探していたのか…」


 私が長い話を終えるとロックの笑顔は消えていた。


「まだそうと決まったわけではないけどおそらくは…」

「旅をしていたから今まで無事だったってことかしら。でもそれならどうして今になってロックの居場所が分かったのか不思議ね」


 サラが首を傾げている。


「それは俺が薬を貰えないか訪ねて行ったからだと思う」


 ロックも貴族がルウルウ風邪の薬を持っているという噂を聞いて、唯一の知り合いだったくだんの貴族に薬を分けてもらえないか訪ねたらしい。

 ダメもとだったので門前払いされた時もやっぱり駄目だったかと思っただけだったが、相手の方は勘違いしたのだろう。


「きっと強請られているように感じたのだろうな」

「悪いことをしていると変に勘ぐるのよね」


 エドとアネットはわかったような顔で頷いている。本当に仲が良い二人だ。


「この人たちは?」


 ロックに二人のことを尋ねられたが、なんとも説明しにくい。

 アネットはチェンジリングの相手で、エドは私の元婚約者であり今はアネットの婚約者。仕方がないので簡潔にまとめてそう言うとロックが決まずい顔になった。

 エドはそれを聞いても否定しなかった。やはり婚約したことは間違いではないらしい。


「私、良い考えを思いついたの」


 アネットがとてもいい笑顔でそう言いだしたとき、エドがそれはもう嫌な顔をした。


「またろくでもない事だろ」

「失礼ね。とても良い考えだって言ったでしょ」

「しりぬぐいするこっちの身にもなってくれ」

「あら、ほとんどは兄さまに押し付けているじゃないの。今回も兄さまを巻き込まないと上手くいかないでしょうから、上手に話を持ち掛けてね」

「また私が話すのか?」

「私よりエドモンドが話した方が上手くいくもの」


 ツンとしたアネットに仕方ないなぁって感じで引き受けるエドは本当に仲が良い恋人同士に見える。私がエドと話ができなかった二年の間に何があったのかはわからない。

 でもこれが本来ある姿なのだろう。私とアネットは妖精の気まぐれで入れ替わってしまった。そのために運命まで入れ替わってしまい、私とエドが婚約する間違いがおこってしまった。その間違いが正されただけのことだ。


「それは貴方たちが薬を持っている貴族を何とかしてくれるのですか?」

「それは無理ね。アンナにも説明したけど、私たちが表立って動くと証拠隠滅を行うと思うの。それでなくともロックさんを消そうとしているくらいだから、最終的にはもうけが少なくなったとしても薬を処分して自分たちの身の安全をとるでしょう」


 ロックとサラは薬を処分すると聞いて、青くなった。薬を処分されれば被害がもっと広がってしまう。


「それではアネット様の良い考えとは何ですか?」


 藁にも縋る思いだった。王都でも少しずつルウルウ風邪が流行ってきている。このままではどれだけの被害になるかわからない。薬を持っている貴族が薬を売りに出すのは、貴族たちに薬を高額で売って、恩を売ったあとになる。ひと月も待っていられない。


「そうね、ロック。あなたには薬を盗む主犯になってもらうわ。嫌とは言わないでよ。ルウルウ風邪の流行は貴方が原因でもあるのだから」

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