第25話 十四歳 14
お肉屋さんで安い肉を買って(質より量にした)、家への道のりを歩いていた。
マルとフリッツは肉が嬉しいのかいつもより歩速度が速い。
サラさんから頼まれた手伝いは忙しい間だけだから、冬までに何か他の仕事を探さなければ肉がまた食べられなくなるだろう。
「冬は薪も買わないといけないし金がかかるんだ。アンナも無駄遣いはしないように。なるべく安いところで食材は買うように」
「安いところ?」
「市場をいろいろまわって一番安いところで買うようにするんだ」
お米を見た瞬間に手に入れたことを思い出して青くなる。しかも小麦粉もついでにと買ってしまった。全部の店で値段を確認するとか全く思いつかなかった。
「店によってそんなに値段が違うものなの?」
「産地で変わるのもあるし、品質が違う場合もある。僕たちが買うのは品質より安さで選ぶことにしている」
小麦粉ってどこで買っても同じものだと思っていた。品質が違うとは思わなかった。
今使っているのはセネット侯爵家で買ったものだから品質は最高ランクのはずだ。最低ランクの小麦粉で作るパンは味が違うのだろうか。庶民になって初めて食べたパンを思い出す。固くてスープに浸さないと食べられなかった。まさかあれって小麦粉が違うからじゃないわよね。
マルとフリッツに任せていたら、食生活は改善できない。
明日サラに尋ねてみよう。サラならきっと安くて良いものを売っている店を知っているはず。
そうだ。サラにお米のことを話すのを忘れていた。市場に普通に売っていたからサラも手に入れているかもしれない。でも一応話してみよう。そしてお米で作る料理を他にも知っていたら教えてもらわないと。
「アンナさん?」
私を呼ぶ声に振り向くとマリーが立っていた。
「マリーさんも市場に行くの?」
この道の先には市場があるのでそう尋ねると首を横に振った。
「市場の先にある古着屋に行くの」
「古着屋?」
「アンナさんは貴族だったから知らないかもしれないけど、入らなくなった服を買ってくれるのよ。そのお金に少し足して自分に合う服を買うの」
新しい服は仕立てることになるから買うことはないらしい。ということは今私が着ている服もアネットだけでなく誰か他の人が着ていたってことなのね。
「ねえ、私も一緒に行っていいかしら」
「いいけど、帰らなくても大丈夫なの?」
「うん、大丈夫」
今日はサラの手伝いで遅くなると言っているから大丈夫だ。
「アンナさんも古着に興味があるの?」
「ええ、とっても。やっぱり服を売っているところには惹かれるわ」
「そうよね。私も買うことができなくても見に行くことがあるのよ。見ているだけでも楽しいもの」
セネット侯爵家では服の注文は屋敷で行われるので、店に買いに行ったことはない。自分のドレスなのにメイドと母が沢山の中から生地を選び、型も決めていたので私が口をはさむ余地はなかった。だからとても楽しみだ。いったいどんな服があるのだろう。
うきうきしていた私は古着屋に入った瞬間に期待を裏切られた。
確かに服が沢山売られていた。でも、そこに私が求めていた華やかさはない。
「本当に普段着だけしかないのね」
「ここは普段着だけの店だからね。これを売ったら他の店にも案内するわ」
マリーの説明を聞いて納得した。マリーの売る服に合わせてこの店にしたようだ。男女問わず、年齢も問わない服がずらりと並んでいる。マルやフリッツやアニーの着ている服と似たような地味な色合いが多い。派手な色の服より需要があるので売る時のことも考えると地味な色の服を買った方がいいらしい。
それでも年頃の女の子は明るい色の服を着たいものだ。私くらいの年齢用には少しだけ明るい色の服も売っている。
「この服はマリーに似合いそうよ」
淡いピンクのワンピースを示して言うとマリーも目を輝かす。
「そうね。値段も手ごろだし着心地も良さそうね」
でもマリーは手に取って身体にあてたりしたけど買うことはなかった。
「買わないの?」
「ええ、他にもいいのがあるかもしれないからすぐには買わないの」
何枚も買えるわけではないからじっくりと選ぶそうだ。
マリーに連れられて次に入った店は私が着ていたことのあるドレスがいっぱい売られていた。店員は私たちを見ると少しだけ顔を顰める。
場違いだと目が言っていた。
「ねえ、マリー。この店って私たちが入っても構わないの?」
「実は初めて入るの。でも私の友達も入ったことがあるって言っていたから大丈夫なはずよ」
一応古着屋なので庶民でも入れる店のようだ。ただこの店の客は庶民でも富裕層の人たちで、貴族は下級貴族だということらしい。
服を選んでいる人たちを横目で眺めながら、私たちも奥へと入る。
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