第13話 十四歳4
明確な答えを返せないまま夕食になり、スープとパンの夕飯をいただく。
手伝うにもあまりにも速い動きに手を出す隙がない。食べるのも速く、思わず「速い」と呟いてしまった。
兄弟は私の方をチラッと見て黙々と食べている。
母は「口に合わないかもしれしれいけど」と言いながら苦笑した。
確かに初めて食べる庶民の食事は口に合わなかった。なるべく普通の顔をしていようと努力したけど、石のように固いパンはいつまでも口の中にある。噛めば噛むほど味がでるわけでもないただ固いだけのパンは、飲み込んだりしたら窒息死間違いなしだ。
口の中から出すなんて行儀の悪い真似は出来ないので顎が痛くなるまでずっとカミカミしていた。
どうすればいいのか悩んでいるとアニーがスープにパンを浸しているのに気付いた。アニーの歯では噛みきれないのだろう。六歳の子供と一緒なのは悲しいけど仕方がない。スープを口に含んでパンを柔らかくして飲み込む。
『ふー、死ぬかと思った…大袈裟じゃなく本当に危なかった。庶民の食事がこんなに危険だなんて…』
『顎の力が弱いんだな。何を食べるにしても口に入れる前に確認したほうがいい』
パンを喉に詰まらせて死んだら笑い者になってしまう。クリューの言うように口に入れる前に確認しながら食べる。アニーを参考にするのが良さそうだ。
その後はアニーと同じようにパンを小さく千切ってスープに浸して食べた。悲しいことに食後の後かたずけも私が食べ終える頃には終わっていた。このままでは役立たずだと思われてしまう。
食後に案内された部屋には大きな箱が三つあった。
「その箱は貴女の物よ。貴女が来る前に侯爵家の方が運んできたの」
母の言葉に「そうですか」とだけ返事をする。
「服装だけどここで暮らすのならアネットの服を着たほうがいいわ。サイズも同じみたいだから直しも必要なさそうね」
「やっぱりこの服は目立ちますか?」
できれば自分の服を着ていたい。
「そのままだと誘拐されるかもしれないわね」
冗談かと思ったら母の目は真剣だった。外出の時に護衛がいた理由を初めて知ったような気がする。
母が何か聞いてくるのではないかと思っていたけど、何も言わずに部屋を出て行った。十四年ぶりに再会した娘に何も聞くことはないのだろうか…。
『箱開けないのか?』
『いろいろあって疲れたから明日にするわ』
『そうだよな。でも宿に泊まるよりは良かっと思うぞ』
『そうね。家族として認められたわけじゃないけど、一人よりはいいわ』
クリューはあっちの家族のことは話さない。そのことにホッとしていた。できるなら今は考えたくない。両親のことも兄のことも。
今の家族に冷たくされるのは仕方ないですませるけど、前の家族に冷たくされるのは考えていたよりずっとこたえた。
生活魔法のクリーン魔法で部屋を奇麗に掃除する。目に見えないものまで除去してくれるこの魔法は今の私に一番必要なものだ。ベッドは藁の上にシーツを敷いたものだから、小さな虫がいてもおかしくない。この魔法のおかげでこのベッドでもゆっくり眠ることができる。
全身にも魔法をかける。汗でべたついた身体もすっきりした。この家にはやっぱりお風呂はなさそう。明日は兄弟にもこの魔法を使おうかしら。なんか薄汚れていた気がするもの。でも話の持っていきかたが悪いと不機嫌になりそうよね。うつらうつら考えていたらいつの間にか眠っていた。
私は思っていたよりずっと神経が図太かったようだ。
夜中に目を覚ました私は顔が濡れていることに驚いた。すごく嫌な夢を見たわとベッドから起きようとして、ここが今まで暮らしていた場所ではないことに気づく。
悲しい夢は本当にあったことだった。両親にも兄にも見捨てられてしまった。セネット家が血統第一だってことは知っていたのに、それでも期待していた。ずっと仲良く暮らしていたから、もしかしたらとどこかで考えていた。でもこれで良かったのよね。きっぱりと別れた方が未練もなくなるもの。
クリューは私の足元で丸くなって寝ている。妖精でも眠るのねと思った。いつもは寝る頃には隠れていたから知らなかった。
今日は私のことを心配してくれて一緒に眠ってくれたのかな。
アネットは今頃眠れているだろうか。彼女も慣れないベッドに戸惑っているのではないかしら。
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