第11話
「それじゃあ、リクは数日しかここにいないの?」
リリカに歩きながらいろいろと聞かれ、リクは数日後には旅に出なければならないことを話していた。
「ここへは旅の途中に寄っただけで、神の島リーンに行かなければならないんだ」
「神の島リーンですって? ここからだと結構遠いわよ。それに時期が悪いわね。リーン祭がある頃なら、ツアーも組まれていたから格安で安全に行けたのに…」
「リーン祭?」
「神の島を祝う祭りよ。島ではひと月くらい祭りが続くそうよ。ここからでも行く人がいるの。でも結構日にちもかかるから贅沢なのよね。貧乏人には無理ね」
「次はいつごろになるのかな」
「終わったばかりだから、一年近く先ね」
さすがにそんなには待てない。でもここからでも行く人がいると言うことは馬車を乗り継げば何とかなると言うことではないか。すこしだけ光が差してきたような気がして理玖はホッとした。
だが安心した理玖を見てリリカが首を振った。
「甘いわ、今、リーンまで結構簡単に行けそうとか考えていたでしょ」
その通りだったので理玖は戸惑いながらも頷いた。
「だって祭りのために行くくらいだから馬車が通っているってことでしょ?」
「そんなわけないでしょ。確かに乗合馬車が通っている所もあるけど、祭りの時は需要があるから走っている馬車も祭りが終わったら走らないのよ。儲けがないところに馬車を走らせる人はいないわ」
理玖は住んでいた日本でも過疎が進むと真っ先にバスや単線の電車が赤字を理由に撤退していたから仕方のない事かもしれないが、それだと日数がだいぶかかってしまう。かといって自分で馬車を用意するほどのお金はない。
「困ったなぁ」
「そうねぇ、でも神の島リーンに行く人が全くいないわけじゃないから乗り継いでいるうちに出会えるかもしれないわよ。そういう人たちで集まってお金を出し合って馬車を雇うこともあるらしいわよ」
落ち込んでしまった理玖をリリカが慰めてくれた。髪の島リーンに行く人を探しながらの旅しか方法はなさそうだった。
「確かこの辺りよ」
リリカが呟いた時、草むらから生き物が出てきた。なんとも言えない臭気をまき散らしている。
「!!!」
「ゴブリンよ」
初めて見る生き物に目を見開く。理玖が考えていたゴブリンよりずっとたくましい。
「私が魔法を使ってみるからよく見ていて。ゴブリンは炎と雷に弱いの」
杖を前に突き出したと思ったら、炎の塊がゴブリンに命中した。あっという間の出来事に理玖は声も出ない。
「無詠唱?」
「普通そうでしょ。リクは何か唱えるの? そんなことしている間にやられるわよ。早さが勝負を決めると言ってもいいわ」
リリカが注意している時にもう一匹ゴブリンが出てきた。
理玖は杖は持っていないので、頭の中で今の炎をイメージしながらで手を突き出した。
するとリリカと同じような炎が手から出る感じですごい速さでゴブリンに命中する。
「剣士っぽいからもうちょっとしょぼい魔法かと思っていたのにすごいじゃない」
どうやら無事にゴブリンを倒すことができた。頭の中ではゲームで敵を倒したときのようにファンファーレが鳴っている。
「さあ、耳をいただくわよ」
「耳?」
「討伐対象だったはずだから、耳を持っていけばお金になるのよ。ゴブリンの肉は食べられないから持って帰らないのよ」
倒した後のことは考えていなかった。もし肉が食べれる場合は持って帰るのか? それとも食べれるところだけ切り取るのだろうか。理玖は考えれば考えるほど憂鬱になって来た。
ゴブリンからは生焼けの匂いがする。恐ろしいほど臭かった。理玖は吐き気をこらえるのがやっとだった。
「さあ、私がやるみたいに耳を切り取るのよ」
リリカは短剣で耳を切り取っている。勇者だと理玖は思った。だがこれは冒険者の基本でしかないのだった。
さあ、と言われ仕方なくゴブリンに向き合う。腰に下げていた短剣を取り出す。
息を殺して近付き、耳を切り取る。短剣の性能が良いのか思っていたより容易く切れた。
リリカが用意してくれていた布の袋に入れる。
そしてリリカは残りのゴブリンを燃やした。その魔法でゴブリンは消滅した。
「土に埋めるか、焼くかしないと他の獣が寄ってくるの。これは大切な事よ」
理玖は冒険者になると軽く言った自分を呪いたくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます