第31話 遺跡探索・前編(執筆者:紙本臨夢)

 三人の周りには倒れている人がたくさんいる。




「はぁはぁはぁ……なんとか、なりましたね」


「あ……あぁ、そうだな……。はぁはぁ」


「無駄な……時間ロスを……しちまった……な……はぁはぁはぁ」




 三人は揃いも揃って疲れ果てている。思いっきり、ベッドに倒れこみたい気分だが、そうもしてはいられない。




 ボロボロだ。幸い傷は全て浅い。シオンたちを襲った者たちは傷が一切ない。あるとしても、タンコブくらいだろう。ただ、倒れているだけ。




 三人は倒れている人たちを踏まないように気をつけながらも遺跡の中に入っていく。




 少し歩くと息が整った。




「俺が先頭を切る。お前らは後ろに付いて来い。それと武器を持つのが負担にならないのなら、持っておけ。遺跡なんだから、森よりも何があるかわからないからな」


「確かにそうですね。侵入者阻止用のトラップがあるかもしれませんからね」




 そう言いながらもシオンは辺りを警戒する。もちろん、トウラもだ。二人の前にノアがいる。彼の手元には懐中電灯が一つ。遺跡は奥に入るに連れて、暗くなっていく。遺跡だけど、それは建物みたいなものだ。




 ノアは辺りに懐中電灯を照らしている。ここで昔は複数の人が過ごしていたんだなと思うと、目の前にある石だけの世界は宝の山だ。決して、何かを盗まないという思いも薄れてしまう。そもそも盗むものが一つもない。




 ただ、石の世界が広がっているだけ。でも、石の世界には昔の人の生活の跡が残っている。それも薄っすらとではなく色濃く。これを宝と言わず何と言う。




 一つの部屋がある。中に入ると、藁わらが敷いている部分がある。恐らくそこは部屋の住人のベッドだろう。他にも木で作られた石らしきものがある。そして、どういう仕組みなのか水洗便所らしきものがある。普通ならあり得ないと思うが、ローマ帝国の跡からも水洗便所が見つかったりしているから、おかしくはない。




 さらに進むと部屋が次々見つかっていく。一つ一つの部屋からは個性が出ているが、どの部屋にも必ずは水洗便所と藁がある。机はなく、代わりに本棚があったり、抽ひき出だしがあったり、タンスがあったりする。




 ホントに様々な部屋がある。おかげで昔の人の暮らしが目に浮かぶ。銛もりや弓矢を見つけたおかげで、どんな風にして狩りをして、木でできた食器や調理器具で、どんな風に食べていたのかもわかる。




 時々、今の世も見習わなければいけないものもある。




「三本の道が出てきたな」


「そうですね。どうします?」


「一つ一つ潰していくか?」


「時間がかかるだけだ。ちょうど三本なんだし、一人一本でいいだろ」


「危険だったら、どうするのですか?」


「すぐにこの場に戻ってこればいいだろ。それに時間制限も設けておけば何かあっても、すぐにわかる」




 ノアの言ったことは至極正論。そもそも遺跡は時間が経つと消えるのだ。いつ消えるかもわからない遺跡に時間をかけるとは馬鹿のすることだ。




「それではどうしますか?」


「俺は右。ガキは左。トウラは真ん中な」


「えっ? どうしてだ?」


「俺の勘の危険度順だ。当然だが、俺が一番危険なところ。トウラが次に危険なところ。そして、ガキが一番安全なところだ。だと言って、油断はするな。あくまで俺の勘だから、違う可能性だってあるしな」


「わかったよ。わかりましたよ。時間が惜しいんだろ。なら、その勘に従ってやるよ。ということでいいなシオン」


「うん。僕は別に構わないよ」


「よし。なら、危険を感じたらすぐにここに戻れ。それじゃあいくぞ!」


「おう!」「うん!」




 ノアの一声に二人が元気よく返事をすると、三人はそれぞれ別の道へと向かった。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








 ノアは一人で通路を奥へ奥へと進んでいく。所々部屋があるが、中は何もない。


 だから、淡々と進むのみ。一人が寂しいなんて思う性格じゃないので、自らの利益のためだけに進んでいく。




 遺跡には神に効果的なものがある時もある。もちろん、ない時もある。この世界から元の世界に帰る方法は神を殺すしかない。だからこそ、遺跡にあるものはとても大事だ。大事だからこそ、誰かに取られたくない。そのためシオンにもトウラにも教えなかったのだ。




 危険そうだと思った道を、自ら進んだのはその理由からだ。危険だからこそ、何かある可能性が高い。そのはずなのに何もなくていいと思ってしまっている。ただ、二人に何もなければと。




 どうして、そんな気持ちを抱いているか自分でもわからない。わからないからこそ自分が怖い。




(俺は一体どうしちまったんだ? キングの生まれ変わりであるガキを手助けするのが、俺の使命だから、ガキに何もないほうがいいと思うのは仕方がない。だが、何故トウラまで何もないほうがいいと思っているんだ? アイツに何かあった方がガキは成長する。俺も早く元の世界に戻れる。なのに……)




 考えるのをやめる。




「っ!? なんだこれ?」




 突然、足元に現れた岩につまずきそうになる。どうやらその岩は何かを象かたどっているようだ。




 顔は人間だ。しかし、体は鳥で手足は犬。尻尾なんてウナギだ。




 一切、これだという候補が出ない。ただの化け物にしか見えない。岩でわざわざ象かたどられるくらいだから、何か意味があるのだろう。




 次の瞬間、ガチャン! と鉄の何かが開いたのか閉まったかのような音が響く。






『アグギャァァァァァァァグワォォォォォォォッ!!』






 明らかに何かの鳴き声が聞こえた。




 マズイと感じたノアは慌てて、元来た道を戻る。しかし、背後に振り返った瞬間に目の前におじさんが笑っているような顔が現れた。いや、実際に笑っていた。強烈な匂いの粘液を口の中から垂らしている。


 四足歩行の割には顔がノアの頭上にある。




 ノアが相手を認識した瞬間に彼は吹き飛ばされていた。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








 時間は三人が分かれたところまで遡る。




 トウラが一人で暗闇の中を歩いている。




「ノアさん。灯りくらいくれよな。何も見えん」




 彼は独りごちた。でも、よく考えればシオンも同じ状況のはずだ。そのことに気づいたトウラは彼のもとに行きたいが、やめておいた方がいいという結論に至った。




「シオンは愚痴を言ってないはずだ。兄ちゃんである俺がこんなんでどうする!」




 ペチペチと両頬を同時に叩き、しっかりとする。




「それにしても、壁画だらけだな。後世に伝えようと必死だったんだな。まぁ、こんなにも書く必要はないだろうけどな」




 目が暗闇に慣れてきた彼は辺りを見回しながら呟く。




 実際に彼が今、歩いている通路は壁や天井にギッシリと絵が描かれている。ホントにそれだけだ。先ほどまで三人で歩いていた通路には部屋などもあったが、ここには一切ない。ホントに壁画だらけだ。




 通路の先に光を見つけた。気になった彼は慌てて通路を駆け抜ける。






「ん? 開けた場所に出たな」




 通路と暗闇が途絶えて、とても大きな広場に出た。そこには天井がなく明るい。




「そこまで長い時間、中にいたわけではないのに久々に日光を浴びた感じがする」




 光の下で上を見上げる。青空が広がっている。空を見て、彼の中にある可能性が生まれた。




「もしかして、ここは大浴場か? それが露天風呂とは豪勢だなぁ」




 呟くと、遠くからとても大きな声が響いてきた。彼は身構えたが一向に何も現れない。




「もしかして、ノアさんの勘が当たり、あの人のところか? 最悪な選択だけど、最悪中の最悪のシオンの方にはいないでくれ。頼む!」




 彼は祈るしかない。ノアならばなんとかできると知っているが、シオンはどうにもできない。できたとしても、遺跡の中なので自他共に甚大な被害が出る気がする。




『ニャ〜オ』


「っ!? この声はネコか? でもどこに?」




 トウラはネコを探す。すると、すぐに背後から生暖かい風が吹いた。彼は前進しながら反転する。そこにはネコがいた。しかし、ただのネコではない。白鳥を思わせるような羽根が背から生えている。もちろん、とてつもなく大きい。胴体だけでもとてつもなく大きい。背から生えている羽根は明らかに体よりも大きい。




 そして、ネコの本能で突然動いたトウラはネコパンチを受ける。体格差が圧倒的すぎるので、気がついた時には壁にめり込んでいた。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








 時間は三人が分かれたところまで遡る。




 シオンは一人でトボトボと歩いている。灯りがないので、とても歩きにくいが愚痴を言う暇も惜しいので、歩き続ける。






 次第に目が暗闇に慣れてくる。辺りはただの石しかない。どこを見たって石。ただただ、真っ直ぐに道があるのみ。




 さすがに退屈だ。でも、何もすることはない。だからこそ、思考するしかない。




 この遺跡のこと。この世界のこと。神のこと。仲間のこと。そして、妹ヒマリのこと。




 ただ悪い思考が堂々巡りするのみ。決して、良い方向の思考はしない。






 気がつくと、柱が無数に等間隔に並べられている場所にいた。暗闇の中。突然、青い光がシオンの目を刺す。その光はずっとあるのではなく、一定のリズムで現れたり消えたりする。暗闇よりも目を慣らすのに時間がかかったが、その光は一点のみから発せられている。




「なんだろう……」




 シオンは好奇心に負け、その光へ向かう。真っ直ぐ進んだところにあるから、進もうとしたが、とても広い池があった。光はその池を越えた先にある。




 さすがに着衣泳で越えられる自信は一切ない。仕方なく、迂回することにした。




 前を向くと天井から光が射し込んでいる一点がある。そこまでには特に何もなさそうなので、そこへ駆ける。








 数分かけて着くと太陽の光が射し込んでいた。




 右手側を見るとただの闇。左手側を見ると、ちょうど池の端があり、真っ直ぐ進むと青い光にたどり着くことができる。そのことを知った彼は向かう。




 たどり着くと一人の真っ白な肌の人間らしきものと、眠っている少女がいた。




 真っ白な肌の人間らしきものはシオンが近くにいることを気配で察知したのか、背後を見た。それと同時にとても長い前髪が動き、目の部分が見えた。




 眼球があるはずの部分は空洞だった。そして、よく見ると股間の部分から黒い血が流れている。そんな現実離れした存在にシオンは話しかけた。




「君は誰? 何をしているの?」




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