第30話 遺跡までの道中(執筆者:紙本臨夢)
「おい! ガキ! 朝だっ! さっさと起きやがれ!」
「ノアさん落ち着けって!」
シオンの部屋に突然、二人は騒がしくしながらも入って来る。ノアに至ってはシオンが使っている布団を剥ぎ取ったのだ。それがどれほどマズイことかノアは知らない。知っているトウラは震えることしかできない。
「おっ? 案外、起き上がるのが早ぇな」
「俺はもう知らないからな」
トウラそっと扉を閉じて、部屋の外に出る。その行動がわけわからなくて、ノアは思わず「あぁ?」と言ってしまう。
「よし、ガキよ。さっさと着替えろよ」
「俺に指図するな」
「はっ? グッ!!」
突然、シオンはかかと落としをノアに向けて放った。咄嗟に両腕を胸の前で交差して、なんとか防いだが重すぎて、思わず膝をついてしまう。そんな彼に追い打ちをかけるようにアッパーを繰り出す。紙一重のところで避けて、慌てて立ち上がる。さらに追い打ちが来る。そうノアは身構えていたが、来なかった。
「あれ? ノアさん。どうしたのですか? そんなにも身構えて。あっ、おはようございます」
「はぁあ?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまう。あまりにも予想外すぎた。さっきの彼と同一人物とは思えないほどに。
「いつ遺跡探検に行くのですか?」
「お、おう。そうだな……。昼前には行くつもりだ」
「昼食はどうするのですか?」
「キッチンに行けばわかる」
「急いで着替えますね」
着替え始める。それを見て、呆然としながらもノアは部屋の外に出る。出たらすぐにトウラが近くの壁に背を預けながら、腕を組んでいる。
「どうだった?」
「…………アイツは二重人格なのか?」
「そうなのかな? でも、なんとなく違う気がする」
「そもそもアイツはあんな力があったんだな」
「何があった?」
「まだ腕がヒリヒリする」
「なんとなく分かった。……これで分かっただろ? シオンの寝起きには気をつけた方がいいって」
「確かにな。今後アイツを起こす時は気をつける」
「えっ? 経験したのにまだ懲りないのか?」
「経験したからこそさ」
「はっ? どういうこと?」
二人がそんな会話をしていると話題に上がっている本人が出てきた。彼は二人を見た瞬間にビクついていた。
そんな彼を見た瞬間に二人は軽く微笑むと先にキッチンに行く。
「えっ? ちょっ!」
突然、二人が進み出したので、慌ててシオンもついて行く。
キッチンに着くと、シスターが何かを作っていた。司教も普段は手伝っているが、今回ばかりは手伝っていない。朝の祈りの時間なのでこの場にいない。それは普通ならシスターだってするはずだ。
だからこそシスターが、どうしてここにいるのかシオンにとっては不思議でしかない。
「おはようございます」
「はい。おはようございます」
返事がいつも通りだ。まるで自分はおかしなことは一切していないと言わんばかりに。でも、明らかにおかしい。おかしすぎるのだ。
「何をしているのですか?」
「お昼ご飯を作っているのです」
「こんな時間からですか?」
「はい。そうしないと間に合いませんからね」
「今日は何かありましたっけ?」
「何言っているのですか。シオンくんたちが遺跡に行くじゃないですか」
「えっ? そのためだけに朝のお祈りをせずに?」
「えぇ。司教様からも許可も得ましたし、主は寛大かんだいですから終わり次第、お祈りを捧げれば許されますからね」
「はぁ……。そんなものですか」
「はい。主は近くの人から愛しなさいとお教えくださいましたからね」
初めて聞いた教えに釈然としないが、ありがたいのには変わりない。
腹が減っては戦はできぬという。昼食を食べず、敵に襲われたら勝てる気がしない。
「シオンくんは早く朝食を食べてくださいね。片付きませんから」
「はい。わかりました」
シスターに言われた通りに彼は朝食を食べ始めた。そんなシオンを待つかのようにトウラとノアの二人も、それぞれのことをする。
ノアは何かの資料に目を通し、トウラは鉱石を魔鉱石に変える特訓をしている。
朝食を食べ終えると身だしなみを整えて、シオンも自分の部屋から鉱石を取ってきて、魔鉱石に変える特訓をし出す……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
数時間が経った。今は昼前だ。三人はそれぞれ準備をしてから、シスターからお弁当を受け取る。もちろん、箱ではない。でも、手間はかかっている。シスターが一つ作っているのだから。中身は何かわからないが、竹の皮の包みを渡されたので、恐らくはおにぎりだろう。
ヒューマニーには一応白米がある。海外産の米とさほど変わらない。むしろ、こちらの方が上質の可能性だってある。ただし、日本米には到底及ばない。仕方ないと言えば仕方ない。そもそも環境が違うのだから、及ばなくて当然だ。
「それでは、いってきます」
「無理はしないでくださいね」
「みんな無事で帰ってきてください。シスターの言う通り無理は禁物ですからね」
「分かってるって、司教。それに旅に出るわけではないから、そんなにも心配しないでくれ」
「シオンくんとトウラさんだけならそうなのですけど、ノアがいますからね」
「オイ。それはどういう意味だよ?」
「冗談ですよ」
「分かりづらい」
シオンとトウラは、司教とノア仲がいいんだなと実感する。まるで本当の親子のようだ。シオンもトウラも親の顔を思い出せないので、羨ましく思う。でも、邪魔する気にはなれない。むしろ、見ていて微笑ましい。
司教とトウラが冗談を言い終えると、三人はようやく出発した。教会の敷地外からも普通に出ることができた。
「さて、ガキ。方角はどっちだ?」
「あっ……」
「…………」
「…………」
「もしかして……」
「すみません! 近くにあるとしか聞いてませんでした!」
「はぁ……。初っ端からつまずいたな。一旦、教会に戻るか?」
「流石にそれは恥ずかしいです」
「ならどうする?」
「とりあえずはシャールの村を抜けて、高いところから見渡せばいいんじゃね?」
「それは名案だね」
「トウラにしては悪くない考えだ」
「ノアさんの中では俺はなんなんだ……」
「ただのバカ」
「オイッ!」
「だってそうだろ? ドラゴンの魔素を取り込むくらいなんだからさ」
「うっ! そう言われると何も言い返せません」
とりあえず三人はシャールの村を抜けることになった。
一時間近くかけて、ようやく抜けることができた。先には草原が広がっている。
村はそこまで大きくない。何もなければ十分もしないうちに抜けることができただろう。そう。何もなければだ。
彼ら三人は人気者だ。
トウラとノアは村の仲間を救ってくれたから。
シオンは昨日、色々と協力してくれたから。
だからこそ、少し進むたびに色んな人に話しかけられるのだ。根は真面目で優しい三人はそれを無視することはできなくて、自分たちが急いでいることを毎度伝えていた。すぐに引き下がる人もいるが、なかなか引き下がらない人もいるので、時間と体力を浪費したのだ。
「どうやら高いところを探さなくて済みそうだな」
突然、ノアが言い出したので彼の方を見ると、ある一点を双眼鏡で覗いていた。
「このまま真っ直ぐ進んだら、森が現れる。その森の中央に隠れるようにして、遺跡がある。まだ、消える気配はない」
「どれくらい時間がかかる?」
「何もなければ一時間。何かあれば、それ相応の時間がかかる」
「何かある確率はどれくらいですか?」
「森に入ることになるし、八割くらいだ」
「ほぼ確実だな」
「仕方ないさ。森は危険だ。それがどんな森でもな」
三人を意を決して、前に進む。お腹空くので、もちろんシスターが渡してくれた、おにぎりを食べながら。
数十分後に森の中に入った。森は奥に入っていくにつれて、深くなっていく。帰り道がわからなくなるので、等間隔で印を残していく。印は全てシスターがおにぎりを包んでくれていた竹の皮を使っている。
真っ直ぐ進んでいくと、木が倒れていて、どうあがいても通れない道に出た。
「迂回うかいするぞ」
「壊せばよくないですか?」
「壊せない。壊したとしたら、何が起きるかわからない。自然というのは障害物が何かのトラップになっている可能性があるからな」
「なら、俺から吸収したドラゴンの魔素を使えば」
「俺一人なら、そうしていたが今回は不幸なことにお前らもいる。置いていっていいなら、使うがどうする?」
「迂回しましょう」
迂回することにした。でも、またすぐに障害物が現れる。しかし、今度は通れそうだ。
それ以降も幾度となく同じことを繰り返して、ようやく遺跡が小さくだが見えてくる。ここから先は障害物がなさそうだ。
ノアが先行して一歩踏み込んだ。
「死ねぇ!!」
突然、現れた男に剣を振り下ろされる。
「
慌てて一言だけ唱える。そして、そのまま相手の剣を手の甲で弾き、握り砕いた。
「どうなってんだ?」
「少し待て」
ノアがそう言うと相手の後頭部をホントに軽く叩く。なのに相手は気絶した。
「ドラゴンの魔素を使った。恐らくお前はできなかっただろうが、一部だけ竜化させた」
「へぇぇ。そんなことができるのか」
「どうやら話している暇はないな」
苦笑を浮かべながら、ノアが言うと武器を持った人間が山ほど出てきた。
「お前らは得意な武器はあるか?」
「得意な武器? 俺はそもそもドラゴンの魔素があったから、ほとんどなしで戦ってたな」
「僕は武器なんて使ったことないです」
「はぁ、面倒クセェな。ガキは剣で、お前はメリケンサックな」
ノアがホントに面倒くさそうに言った。
『
呪文を唱えると彼の手に剣とメリケンサックが乗る。
「
一言だけ唱えると二人に向けて投げる。
二人は慌てて受け取った。
「「えっ?」」
二人同時に同じ声を出す。
なぜなら、思っていたよりも重さがないからだ。
シオンの持っている剣はただの軽い木の枝のよう。
トウラが持っているメリケンサックは空気のよう。
「これなら少しは戦えるだろ?」
不敵に笑いながらも言ったノアに二人はコクリと頷いた。
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