第22話 『決戦』(執筆者:横澤青葉)
そして、迎えた決戦の日。
まだ日は上がっていないどころか、深夜、と言ってもいいくらいだ。
「さぁ……いよいよね」
シェロは朝、全員を食堂に呼び寄せた。
「皆、作戦は分かっているわよね? 」
「もちろんですよ」
「当たり前だよなぁ?」
いろんな人の声が聞こえる。 どうやら、しっかりと覚えてくれたようだ。
「今は偵察部隊を各地に向かわせているわ。敵が着き次第、配置について」
「はいっ!」
「……そういえば、私たちの飛行機、この戦艦の中に艦載機としてあったのよ」
「あ、じゃあ安心だね」
「でも、燃料は抜かれてて」
「……」
ダメじゃん。
「……本当に大丈夫かしら」
いつも大丈夫、大丈夫と言っていたシェロの。
唯一の弱音だった。
「大丈夫。10日間で、こんなに強くなれたんだもの」
「……そうね」
シェロは微笑む。
すると。
「失礼します!」
食堂のドアを勢いよく蹴飛ばして来たのは。
偵察部隊であった。
「敵偵察機を発見しました!」
「俺達の出番だな……」
ある少年はそうつぶやく。
その少年率いる10人の手には散弾銃と──
石であった。
「なかなか、きつそうなにんむになりそうだなぁ」
「ああ、そうだな」
二本のサーベルを構え、木陰に潜んでいるのは──
リシュリュー率いる遊撃部隊。その数6名。
そして。
「戦艦を僕1人で操縦か……胸が熱いなんて言えないな」
と、言うのは。
リシュリューの魔法により、言葉だけで戦艦を操れるようになった──
シオンであった。
「頑張ってね」
と言うのがシェロである。いわゆる助手だ。
「さぁて……出撃だよ……揚陸艦を……撃ち落とせばいいんだ」
そして。
「……やるしかない!!」
少女はつぶやく。
そう、囮部隊。 総勢17名。
そして。
「霧発生まで、大体あと4時間です」
と言った、シオンの隣の天気の予測ができる人を1人。
この40名で、ここから脱出する──
「きたな……」
散弾銃と石を持った部隊が木陰に潜む。
そこは通路のような道の両端が大きく盛り上がっている地形であった。
「軍の部隊が必ずこの道を通ります。その部隊を出来るだけ足止めしてください」
シオンに告げられた作戦を、少年が心の中で復唱する。
「いけえええええ!」
そう、少年が率いるのは、足止め部隊であった。彼の声を合図に足止め部隊は、敵部隊へ一斉に、散弾銃や石を投げつける。
その隙である。
「いくっす……」
リシュリューはサーベルをしまった。
「
リシュリューは目をカッと開いて唱えた。
「擬似進化妖精王『オベロン』。 『憑依』!」
カーボベルがマシンガンを構える前に。
敵部隊は全滅していた。
赤い海を残して。
その残骸を踏むようにしてリシュリューは立っていた。
「このていどっすか……」
「とんでもねえ奴だぜ……」
カーボベルはマシンガンを構えるのをやめ、呆然とそのリシュリューの姿を見ているのであった──。
その頃、戦艦の方では。
「あっちの揚陸艦に砲撃! あ、やっぱあっち!」
シオンの指示に戦艦が困っていた。
「はっきりしなさいな……」
「いや、これ難しい!」
しかし、なんだかんだで当たっているのでビックリである。
リシュリューが戦艦にかけた魔法が凄いのか、シオンが凄いのかは分からないが。
やがて――
「……霧です」
「やっと、か」
やっと日が昇る。
そう、霧だ。
「集まる……皆、ここに集まる!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「1時間で、意外と集まったわね」
シェロは少し驚いたように言う。 シオンからしてもそれはびっくりである。
「わたし、だいぶやったよね」
「お前はすげえなぁ」
リシュリューの黒いセーラー服のような服は赤い液体がこびり付いていた。
「俺、頑張ったわ」
「私も……!」
みんなの顔には安堵の表情が浮かんでいた。
「さぁ、みんな乗り込んで。 早く、霧が出ているうちに出るわよ」
戦艦の音と霧に紛れて巡洋艦がまず脱出、その後戦艦も逃げ切る、という作戦である。
「では」
「うん」
シオンは巡洋艦を指揮する人に手を振る。シオンはそのまま戦艦に乗り込んで行くはず──であった。
霧が。
晴れたのであった。
晴れない霧は無いのだが、予想以上に晴れるのが早い。
「……どうするの?」
シェロがシオンに不安そうに聞く。
「……戻ろう」
そう、1度島に戻るのだ。 このままでは戦艦も逃げきれなくなってしまう。
それ即ち、巡洋艦を見捨てる、という事だ。
「……戻ろう」
シオンは戦艦の上で、俯きながら言った。
「帰ろう。……帰れば、また来れるんだから」
その後、巡洋艦が帰ってくることも、通信が来ることも、無かった──
「……英断だよ」
シオンは甲板でうずくまっていた。 24人を見殺しにしたのだもの。
「……ええ。あなたは悪くないわ。 大丈夫よ」
シェロの励ましも今は耳に入らない。 それほど、シオンの心は傷を負っていた。
「……あなたのはんだんは、にんげんてきには『ひじんどうてき』とののしられるかもっすが、わたしたち『ぐんじん』はちがいます」
リシュリューは言った。
とても、10代前半の女の子とは思えない言動である。
「……ひゃくにんの『つかえないにんげん』よりは『じゅうにんのつよいにんげん』をわたしはたすけます。 あなたはちがういみでにげたのはわかっていますが、わたしの『思考』はこんなかんじです」
「醜いけど、それが人間ね。かわいい自分の身だもの」
シェロはそう言った。
彼には重すぎたのかもしれない。
しかし、後々の事を考えれば、いい教訓になるのかもしれない──
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「今日……」
次の日も。
濃霧である。
「さぁ、今回は帰ろう」
「いや、俺達は残るぜ」
カーボベルとリシュリューはそう言った。
「な、なんでですか?」
「お前たちだけで逃げろ。 俺達には俺達なりの『落とし前』つけなきゃならんのさ」
「……そうですか」
シオンはそう言って、戦艦に戻り──
戦艦の外に銃用の弾薬を2キロほど置いていったのだった。
「……中々面白いやつだな。俺達を見捨てないとは」
「まぁ、わたしたちのぐんたいのもんだいですから、もらってももうしわけないっすけどね」
リシュリューもそう言う。
戦艦は霧に紛れて出発するのを見届けながら、カーボベルは言った。
「『落とし前』……つけないと」
「そうっすね」
敵部隊の残党が、カーボベル達を囲む。
彼らは武器を構えて、言うのだった。
「『ラ・カサエル王国』騎士団長、カーボベル」
「同じくリシュリュー」
「「 推して参る 」」
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