第21話 『黒十字軍』(執筆者:横澤青葉)
冷たい、床。
黒い、床。
重層感のあるこの場所。
ここはどこだ?
「……ぅ」
硬い床で寝転がっていたからか。体が痛い。
シオンは、そんな重い体を起こす。
「……ここは?」
目の前には──
管制室のようなものが。
色々なボタンやらレバーやらが色々と組み込まれていて、『これは触っちゃイカンな』といった雰囲気を醸し出している。
壁や床は黒く塗られていて、 ロウソクやランプが灯されていた。
「……ぅぁ」
「シェロ? 大丈夫?」
「……少々の体の痛み以外は」
シェロはそう言うと、ヒョイっと飛び起きた。
「……何かの部屋かしら。 あのボタンとかは触っちゃダメそうね」
「……ここがどこか、分かる?」
シオンが聞くと、
「いいえ、全く」
とシェロは返した。
「……とりあえず、ここから出よう。 探検的なアレ、やろうよ」
「そうね。 行きましょう!」
シェロはそう言って管制室の所にかけてあった散弾銃を持ち、そしてシオンにも渡し、管制室からどこかへ繋がる扉を開けていく──
「ここが客室……っぽい」
「そうね。 それに床が安定してないから、ここが船であることも間違えないわね」
と、シェロは考察した。その後分かることであるが、シェロの考察は全て合っているのである。
「んじゃ、開けるよ……」
シオンが客室の一つに手を掛け、開けると──
「うわああああああ!」
「うわああああああ!」
「うわああああああ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「さっきは大声を出してすまなかった。俺の名前は『カーボベル・アヤナミ』だ。変な名前だけど、よろしくな」
客室には。
カーボベルと名乗る男がいた。
弾薬とマシンガンのようなものも肩から下げ、軍服を着た、いわゆる『おっさん』であった。
そりゃ、客室にいるとは思わなかったおっさんがいたら、シオンもシェロも驚く。
やがて、3人とも自己紹介を終えると、カーボベルは「あ、」と言ってどこかへ駆け出した。
シオンとシェロは顔を見合わせていたのだが、しばらくして帰ってきた。
「来てくれ」
カーボベルに言われてついて行った先は、多分食堂であった。そこには色んな男女が不安そうな顔をしながら待っていた。
え、人?
「……まさかこんなにいたとはね」
シェロも棒立ちのまま動かなくなる。
「はいはい、前に出て」
言われるがままシオンとシェロは食堂の前にある黒板のような場所の前に立った。
「シオン船長とシェロ副船長だ」
ん。
……ん?
「……いやあの」
「だってお前さんたち管制室にいたんだろ? じゃあそういうことだろ。みんな客室にいたんだもの」
「えぇ……」
シェロの方を見ても、困ったような顔をしていた。
とその時だった。
「……諸君。 捕ラワレシ諸君。 我ラハ『黒十字軍』」
電報だろうか、FAXみたいな機械は紙に段々と文字を打っていく。
「我、10日後ニ諸君等住ミシ島、即チ『ミシシッピ島』ヲ航空軍、海軍、陸軍ノ総攻撃ニヨリ攻撃セリ」
「……え」
シェロは多分1番早く状況を理解したのだろう、そんな声を出した。
「……嫌だよ」
「死にたくないよ……」
次々とそんな声が溢れる。
しかし、シェロは少し深呼吸をした後、言った。
「大丈夫。何とかするわ」
シェロは拳を強く握って言った。
「私達が」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「とは言っても、どうしましょうね」
「どうするか、ね……」
シェロとシオンは管制室の隣の会議室(と書いてある札があった)で、カーボベルと、金髪の小学6年生くらいの子、『リシュリュー・ライト』と会議をしていた。
その『リシュリュー・ライト』という金髪ツインテールの子はカーボベル曰く、『やべえぐらい強い』らしい。両腰にサーベルを備えている。
「ひゃくにんのてきなら私が『憑依』でたおせるっす。 それいこうはカーボベルさんにおねがいするっす」
リシュリューはペタンと椅子に座って言った。 小さくて顔が見えない。
「『憑依』って?」
「ああ、いっしゅの『まほう』っす。 私のまわりにいる、よくわかんないやつがわたしにちからをかしてくれるっす」
「なるほど……」
シオンは分からないけれど言っておく。 シェロも多分意味が分からなかったと信じたい。
「その他に戦力はないの?」
「多少戦えるやつはいるけど、それ以外のやつは戦闘力皆無ってとこかな」
シェロが聞くと、カーボベルは困ったように答えた。
そうしている間に、シオンは色々と紙に書き込んでいた。
「……何それ?」
「ああ、ちょっと整理中ですが、作戦はあります」
戦力が少ないのなら。
「作ればいいんですよ、戦力」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「じゃあ、今日のスケジュールを発表します!」
シオンが船長なので、こういったものも船長の役割である。
「地図かける人!」
「……多少」
シオンが聞くと、1人の男性が手を挙げた。
「ざっとでいいから、地図をお願いします!」
「……はい」
「次、土木関係の事ができる人は、海岸近くの3ヶ所に――適当でいいので、崩れないように見張り台を! 残った人は、食料をとっていく人と、僕達の開拓する人とで別れてもらいます! トイレはこの船の中にありました!」
「……トイレは必要?」
「うんうん」
シェロに突っ込まれたが、トイレは重要だと思う。
「日が暮れる前に帰ってきて下さい!」
こうして、客室にいた人たち全員が行動をし始めた。シオンとシェロも、カーボベルやリシュリュー等を引き連れ、外へと続く扉を開ける。
外に出ると、小型の巡洋艦が1隻、隣に置いてあった。今回は、その巡洋艦の中を調べてから、シオン達が乗っていた──そう、戦艦の中も調べることにしていた。
しかし、どうしたいのかがイマイチ分からない。 その『黒十字軍』だ。
「うーん……分からないわね」
聞いてみると、シェロにもそう言われた。
「たぶん、どこかのくにのえんしゅうとかっすかね?」
リシュリューはそう考えた。 幼いのに頭がよく回る子だ。
「確かに、あるかもな、それ」
カーボベルもそれには同感であった。
「それにしてはやりすぎじゃない? 最新鋭の兵器なんて持ち出しちゃって」
「うーん……そうなんっすよね」
リシュリューは船内の地図を書いているのだが、ペンが勝手に動いているようで怖い。
「……まさか──」
「シェロ? 心当たりとかあるの?」
「いや、大丈夫よ」
シオンの問にシェロはそう返した。
しかし、シェロの考えていたことが当たっていることなど、今は誰も知らない──
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
2日目から8日目は、戦闘力のない人たちのための射撃訓練である。
まぁ、その他諸々もあるが。
その間に、シオンは作戦を作り終わっていた。
「……誰も『死なない』ようにするのね。 あなたらしいような気もするわ」
シェロはシオンが作戦を見せると、クスッと笑っていた。
「頑張るから期待しててね、シオン船長」
「冷やかさないでよ……」
「ふふ、ごめんごめん」
シェロは完全に後衛任務である。シオンは戦艦の操縦である。燃料タンクには魔法がかかっていて、使うことが出来なかったのだが、作戦当日には使えるようになるらしい。
「と、いうことよ。気合い入れて行きましょう!」
9日目の夜。
シオンが作戦を告げた後、シェロはそう言った。
最初は弱音しか吐いていなかった40名は、今では盛り上がっていた。 建前だけかもしれないが。
シェロはシオンが決め台詞を言おうとする前に、決め台詞をシオンから奪い取るようにしっかりと吐いたのであった。
「全員、生きて帰りましょう」
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