第20話 『軍事大国』(執筆者:横澤青葉)

「よし、行くところ決めたわ!」

「え、どこですか?」


 2人になって少し、考えていた。

 彼にとっては、どこに行ってもあまり変わらない感じだとは思うが、シェロは手を叩いて言った。


「世界屈指の魔法力と軍事力を誇る、『ラ・カサエル王国』よ!」

「は、はぁ……」


 まぁ、色々言いたいのだが、とりあえず一つ言ってみると、『そこどこ』である。

 こちら的にはそんなに王国やらの国の名前を覚えているわけでは無いもの。


「そこは何か、世界で初めて『軍艦』っていう鉄の塊を作った国らしいのよね。 そこはやっぱり飛行機とかそういうものもたくさんあるらしいし、暇にはならないと思うわよ」


 まぁ、私は海よりも空なんだけどね、とシェロは付け加えて。

 そこからまた『ラ・カサエル王国』の飛行機について長々と語り始めてしまくシェロなので、本当に飛行機が好きなのだな、と思う。


「そこにはね、船は船なんだけど飛行機が飛んだり降りたり出来る船もあって──」


 そんな話をしながら、2人は飛行機に乗り込み、『ラ・カサエル王国』へと向かっていく──



「……っと。 着いたわよ」

「……僕の口が虹の始まりになりそうだから……」


 シオンは着陸した途端に飛行機を抜け出し、壁と壁の角に虹を作った。




「ちょっと整備するから、ここからはあんまり離れないでよね」

「あ、手伝う」

「メルシー。 じゃあ、そこの燃料タンクを整備して──」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ふぅ。 働いた後の汗は輝くなぁ」

「何言ってんのよ」


 全ての整備を終え、コテっと地面に尻をつくシオン。

 シオンは燃料タンクの整備だけでこの有様なのに、シェロはまだピンピンとしているので恐ろしい。


「じゃ、早く観光……いや違った、オウルニムスを探しに行きましょう!」

「え、今観光って……」

「ちっちゃいことは気にすんな、って言うでしょ?」


 それはワカチコワカチコ……と言いかけたが、って三世代位時代に遅れをとってるな、とシオンは思い、言わないでおいた。






「わぁ、すんごい軍事大国って感じ」


 見渡す限りは。

 産業革命のようなものが最近起こったのだろうか。色々な機械がそこかしこに置いてある。

 そこで働く人々や、指導をする人々の目にはかなり疲れが見える……気がした。

 また、兵器の製造をしているところもあった。


「そうね。 ここは世界屈指の魔法大国であり軍事大国。ここに戦争をふっかけてもコテンパンにされて終了でしょうね」


 シェロはそのまま黙りこんで、少し早足で町中を見ていった。


「ねぇ、どうしたの?」

「……いや、なんでもないわ。」


 シェロは少し意味深な笑みをシオンに振りかける。

 すると。


「キャー! やめて!!」


 まさにありきたり、というか、狙った様なタイミングで。

 女の人の叫び声が聞こえた。


 声のする方に、2人の身体は駆けていく。シェロは拳銃を構えていた。




 声が次第に大きく聞えてくる。女の人の声は……路地裏からだ。そこに向かうと、1人の女の人が3人の男に囲まれている光景が飛び込んだ。


「ちょっと! かよわい女の人を襲うなんて、人としてどうなの!?」


 シェロの、正義感を爆発させたような声が、男達を一斉に振り向かせる。その顔には、少しだけ恐怖の色がみえた。

 もう、やめてくれ、と言っているような。

 そんなものは問答無用でシェロはその男達の足元に銃を1発、放つ。


「次は足よ」


 シェロが鬼の形相でそう言うと、男性3人は怯えたように去っていった。

 そうしてあらわになったのは、ヒマリと同じくらいの年頃に見える少女だった――。




 少女は「何かお礼を」と、シオンとシェロの手を握り、家に案内しますという。

 半ば強引で、有無を言わせない感じが気になったが、親切心を裏切るのはどうか、と、2人は彼女の家にお邪魔することを決めた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 家に着くと早々、少女が「こちらにお座りください」と促すので、2人は言われるがまま、用意された席に腰掛けた。


「さっきは本当に、ありがとうございました!」

「いえいえ、当然のことをしたまでよ」


 深く頭を下げてお礼を言った少女に、シェロはドヤ顔で答えた。


「怪我とか、大丈夫でしたか?」

「ええ、お陰様で大丈夫ですよ」


 それを聞いたシオンは少し安心した。


「あの、もし宿に困っているようでしたら、ここに泊まっても大丈夫ですよ」

「本当? ……メルシー。お言葉に甘えてそうさせていただくわ」

「では色々と準備しますから――あ、飲み物お出ししないと。紅茶で良いですか?」


 2人が頷くと、少女はその場から離れていった。




 昼白色に照らされたこの部屋から、少し遠い所で音が聞こえてくる。かちゃかちゃと軽快な音から想像するに、紅茶用のポットやカップを取り出しているのだろう。

 目の前には食卓用のテーブルがあり、それを夕日の光が真っ直ぐに照らしている。

 光を取り込んでいる窓から見える景色は、高層ビルや工場の数々。ヒューマニーに来てから今まで、土地柄を活かした街や村を見てきたシオンにとっては、今見ている景色が新鮮にも、そして何故か、懐かしくも感じた。


「なぜかしら。何か引っかかる」


 唐突に聞こえた呟きにはっとする。

 シオンは、呟いたシェロへ視線を移す。シェロは、僅かに眉をひそめていた。


「どうしたの?」


 尋ねてみると、シェロは目線だけこちらに向けて、口を開いた。


「どうしてこんな軍事大国にする必要があったのかしら。戦争なんてあまりしない国なのに」

「何かやるんじゃないの? お国は何を考えてるかあまり分からないけれど」


 シオンが言い切る頃、シェロは既に目線を落としていた。


 辺りが急に、静まり返る。


「植民地……」


 シェロの口からやがて出た言葉だった。


「小さい頃に、絵本で見たわ。植民地にされた国に、した国の人達が押し寄せて、暮らしを変えてしまうの。ほとんどの、された国の人達は、今までの暮らしが出来なくなる。でも、それだけじゃないの。最悪、人間として扱わなくなることも……」


 そう言ったシェロは、未だに下を向いている。


「植民地取得、のため?」


 シオンがそう聞くと、少女が、


「紅茶、出来ましたよ」


 と、シェロの返答を遮るように言う。


「メルシー。……いいわね」

「ありがとうございます」


 2人は紅茶をすする。 息ぴったりなその姿はまるで姉弟であった。


「では、しばらく泊まらせて頂きます」


シオンがそう言うと、その少女は、


「りょうかいです」


 と、言った──のであろう。


 段々と意識が薄れていく。

 眠くなっていく。


 そのままシオンとシェロは。


 倒れた。

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