第11話
そうして自責の念に捕らわれている俺を見上げ、小笠原は小さく頭を振る。
そして、やっぱり笑うんだ。花のように。
「ありがとう。間宮君は昔と ちっとも変わらない。優しい人」
もう、駅は目の前だ。
小笠原は傘の下を飛び出す。
「やっぱり その傘、間宮君に上げる!」
「ォ、オイ、、」
「だって その傘、元々 間宮君のだもの!」
「!」
(ああ、あの日も雨が降っていた…)
放課後、昇降口の前で、傘を持たない小笠原が途方に暮れていた。
俺は小笠原を疎ましく思いながらも、何故か手に持っていた傘を小笠原の下駄箱に突っ込んだ。
(いや、好きだった。憎む程に好きだった…)
コレが、その時の傘だって? あぁ、言われてみれば この傘だ。
お袋が柄の部分にフルネーム書きやがって、マジギレしたのも一緒に思い出す。
こんなダサイ傘、10年間 持ち続けてくれたのか…
「小笠原! また、会えるか!?」
会ってどうしたいわけじゃない。
ただ、今度は友達としてコレまでの空白を埋められやしないか…いや、分からない。
もっと聞きたい事がある。
お前は どうしてそんなに ――
「ヤダ」
「へ…?」
「嫌」
「…、」
何で そんな楽しげに言うんだよ、お前は??
「さよなら」
蝶のように翻り、小笠原は駅へと駆け込む。
そして、俺を振り返る事無く、人混みに消えてしまう。俺の手に残ったのは、俺の傘。
その後、ズブ濡れで葬儀所に戻った俺を早見が散々 笑い、同級生達と思い出と共に先生を偲んだ。
同時に頭の中に浮かぶのは、悲し気で辛そうな高校生の頃の小笠原では無く、俺とは2度と会いたくないと言いたげに頬を赤らめた、大人になった小笠原の笑顔。
(先生、ありがとな。先生のお陰で過去が思い出になったよ)
先生は最期まで俺を熱血指導してくれていた。そう思う。
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