第9話

「ご、ごめん、、」

「…いいえ」

「ぁ、あの、さ…駅まで一緒に行って良いかな…? そこで傘、買うから、俺…」

「…ええ。勿論」


 小笠原を怯えさせてしまっただろうか、本当に俺は やる事なす事 半人前だ。


「傘、持つよ」

「…そう? ありがとう」


 傘を預かり、小笠原に差し掛ける。10年ぶりに肩を並べて歩く。

横目に見下す小笠原の顔は少し困惑している様子で、俺は必死に話題を探す。


「ぁの、…久し振り」

「ええ。本当に」

「今日は…来てると思わなかった」

「先生には随分 良くして頂いたから、どうしても最期にお礼を言いたくて」

「…ぁぁ、俺も…」


 本題が切り出せない。何て言えば良いだろうか?

俺の所為でごめん? ソレとも、助けられなくてごめん?

いや、あの頃の事は思い出したくないかも知れない。

本当は俺とも話したくないのかも知れない。


 すっかり俺が黙ると小笠原は苦笑。気遣って、話をし出す。


「間宮君、結婚したのね?」

「え!?」

「指輪。はめてらっしゃるから」

「あ………ぁぁ、まぁ、一応、その…ご縁があって……その、小笠原は…?」

「私は ご縁が無くて」

「そっか…」


 不思議と、結婚指輪を外して歩きたがる男の気持ちが解かった。

何つーか、俺は本当に最低な男だ。

そんなどうしようもない俺に、小笠原はまるで花が咲くように笑うんだ。



「良かった。間宮君が幸せでいてくれて」


「…」



 息を飲まされる。

だって、小笠原が本当に嬉しそうだから。

俺の幸せを、心から喜んでくれているから。


「私、気になっていたの、間宮君の事…」

「え!?」

「もう、忘れてしまったと思うけど、少しの間だったけど、

 間宮君、とても仲良くしてくれたから…」

「ぁ、、仲…良く…ぁぁ…」


 交際していた…では無く、仲良く。

友達行儀な言われ方に、俺は肩を落とす。

互いに目を背け、けれど小笠原は続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る