第8話

 小笠原との事は秘密だった。

だけど、俺はアイツが好きすぎて、アイツといたくて、話したくて…

学校にいる時間も、からかわずにはいられなかった。

ソレを良く思わない女子のグループがあったらしく…


(俺は何も気づいてやれなかった…)


 ソレ所か、助けを求めに来た小笠原を冷たく突き放していた。

そして、小笠原は卒業を待たずして学校を辞めた。

アレから10年、恩師の葬儀でも無ければ小笠原には会えなかった事だろう。


(先生…ごめん、、)


「ごめん!」


 俺は駆け出す。

本当なら、先生を偲ぶべき日である事は充分 解かっている。

だけど今日を逃したら、俺はまた千載一遇のチャンスを失うんだ。

だから先生、今日と言う日が先生から贈られた最高のタイミング何だと、俺に錯覚させて欲しい!!


 雨の中を走って、走って、もうズブ濡れで、クタクタで、


「小笠原!」

「?」


 黒い傘の女性が振り返る。


「間宮君?」


 濡れネズミの俺を見る小笠原の大きな目は、何度も瞬きを繰り返している。

いや、驚いたよ。だって、傘 持ってるから。


 俺はゼェゼェと息を荒げて腰を折る。


「ぁ、雨、降って来たから、傘、心配になって、、ハァハァ…」

「折り畳み傘、持って来ていたから大丈夫なんだけど…間宮君は、傘、無いみたいだね?」

「ぁ…忘れた…」


(何やっとんのだ、俺はぁ!?)


 情けない。あぁ情けない。

俺が自分自身に落胆していると、小笠原は傘を傾ける。

コレ以上 俺が濡れないように、自分の肩を濡らして。


「傘、どうぞ」

「ぁ、はぁ、、」


 ダサイ男だと思われている。絶対に。

小笠原が頬を赤らめて含み笑いしている、ソレが証拠だ。


「ごめん、、ありがと…」

「いいえ。駅、直ぐそこだから、傘は間宮君が使って?」

「そ、そうゆうわけにはいかないッ、」

「良いのよ、本当に。どうぞ」

「そうはいかない!」

「…」


 俺が強く言い返すと、小笠原は息を飲むように押し黙る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る