第4話

(知ってる…)


「小笠原…?」

「―― 間宮君?」

「ぁ、ああ…」

「…スッカリ大人びていて、気づかなかったわ」

「そっち、こそ…」


 小笠原弥由子。

高校時代、最も印象に残っている少女は俺の期待を裏切る事ない大人の女性に変わっていた。


(ぃゃ、あの頃のままだ。

 目の表情とか、遠慮がちな喋り方とか、声とか、すごくスマートな体系とか、全部)


 息を飲まされる。

あどけなさは微塵も残っていないのに、あの頃と何一つ変わらないと思わされる。

先生、こりゃどーゆー事でしょうか?


「ぁの、」


 俺が改めて声をかけると同時、告別式の開始が告げられる。


〈コレより、柿谷健三様の告別式を始めさせて頂きます。

 ご親族様、ご来賓の皆様、会場にお集まり頂き、ご着席ください。〉


 マイクアナウンスを聞くと、小笠原は小さく一礼をして俺に背を向ける。

そして、入れ替わりに早見が現れ、手近な椅子に腰を下ろす。


「間宮、さっき話してたの、小笠原だよな?」

「ぁ、、ああ」

「昔もそこそこ可愛かったけど、年くってイイ女になったよなぁ」

「オイ。ココでする話しじゃねぇだろ」

「なに言ってんだよ、短い期間だったみたいだけど、お前ら付き合ってただろ?」

「!」

「お? 何で知ってんだ? って顔だなぁ~、

 お前らがコッソリ会ってンの見かけた事あんだよ、俺はぁ。

 その内イジってやろって思ってたら、終わってたってオチだ。

 焼けぼっくりに火なんて事が無いよぉに気をつけろよな~、既婚者はぁ」

「…」


 早見に突っ込まれ、俺は言葉を無くした。

小笠原と俺は、ほんの僅かな期間だったが付き合っていた。ソレも秘密裏に。

ソレがまさかバレていたとは…俺が動揺している間に導師の読経が始まる。


「じょしがぶん いっしょうわきふねん せいしゅしゅしょう…」


 経を読み上げられても何を言っているのか解からない。

ただ、有り難い言葉なんだろうな、そんな気だけはする。


(先生、アンタだけかと思ってた。俺達の事を知ってるのは)




『見てれば分かる。

 先生はぁ、まぁ…口出したりするつもりは無いがなぁ、

 間宮、小笠原は真面目な子だ。フラフラ連れ回したりするんじゃないぞ?』




(俺は良く お巡りに補導されてたクチだから、先生はソレが心配だったんだろう。

 勿論、小笠原を巻き込むマネはしなかったし、彼女に合わせて付き合いは健全なもんだった。

 恐ろしく健全)


 手を握った事も無い。

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