第3話

 祭壇の前には、柩。

焼香を済ませた来賓が柩の小窓を開けては合掌して、死者の冥福を祈っている。


(立派な葬儀っスね、先生)


 生前の徳と言うのが顕れるような盛大な葬儀。

遺影には、白髪交じりの恩師の笑顔。

当時はまだ髪は黒々としていたように思ったが、やっぱり時と言うのは容赦ない。


(今更 来ても遅ぇんだよって、キレてます?

 ソレとも、俺みたな白状な生徒の事なんか忘れちまったかな?

 どっちでもイイけど…何だろな、この感情は…)


 線香を立てて手を合わせるも、どうも恩師の顔を見る気になれない。

いや、顔向け出来ない。申し訳なくて。

俺がそうこう躊躇っていると、細い指先が柩の小窓を開ける。


「!」


 心の準備も整わない儘パッと視界に入って来るのは、恩師の顔。

眠るような安らいだ、恩師の顔。

早見が言っていた通り、当時より痩せている。でも、紛れも無い恩師だ。



「柿谷、先生…」



 担当科目は国語。健康だけが取り柄だと良く自慢していた。


 つか…


(柿谷、テメェ何で死んでんだよ?)




『間宮、今は どんなに辛い事でも、いつかは過去になる。

 思い出を懐かしめるようになったら いつでも来い。

 先生はココで お前が会いに来てくれるのを楽しみに待ってるから』




(俺が会いに行けるようなるまで死ぬんじゃねぇよ…そうゆう約束だったろぉが…)



 会いに行けるようになるまで…


「先生、綺麗な顔してますね」

「ぇ…?」


 過去を振り返っている俺を現実に引き戻す声。

顔を上げると そこには、大きな目を悲し気に細めた女性の姿。

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