第二章 大胆は無知と卑劣の子であって、他の資格よりもはるかに劣る②

次の日朝起きると、ホールデンの履歴書ウォークオブライフにカースティから依頼書オーダーシートが送られてきた。ちなみに、すでに仕事に行ったかどうかはわからないがブライアンはホールデンが起きた時には部屋にいなかった。やはりき]たいの発明家の朝は早いらしい。

 コーヒーを飲み、目をさますと、依頼書オーダーシートに目を通す。


 依頼者いらいしや  バージェス・インク。

依頼内容 『新入社員とお仕事! チェルシーの職業体験!』かくためへいしや案件にチェルシー・アンダーハート様を同行。

がいよう   番組内企画のいつかんとして、様々な職業の体験をベイビーメイカー・メンバーであるチェルシー・アンダーハート様が同行し、弊社社員と共に依頼クエストすいこうする。依頼クエストに関しては別紙参照。

補足   その際降りかかる全ての危険リスクは弊社社員が負い、チェルシー・アンダーハート様には傷一つつけてはならない。期間は一週間。

 難易度クエストアツプ  5段階中1~相当。

 依頼額  1000万ルード。


 芸能系会社インクだけあって、依頼額がふとぱらだった。

 やはり今をときめくトップアイドルは違うなと思うホールデン。

 テンションを上げつつ2枚目に目をやる。


 依頼者  アンディ・ギャノン。

 依頼内容 アンディ・ギャノン氏が飼っている、アーカウリの搜索。

概要   昨日未明、アンディ・ギャノン氏が飼っていたアーカウリがだつそうしてしまう。方々さがし回ったが発見には至らず。弊社に搜索

を依頼された。傷をつけずにかくすることが絶対条件。

補足   アーカウリは夜行性の動物であり、昼の間は景色と同化し発見は困難。体長は1メートル。名前は『リンリン』。

夜間搜索すいしよう

 難易度クエストアツプ  5段階中1相当。

 依頼額  50万ルード。


 アーカウリとは、クートヴァスで人気のねこと犬を合わせたような四足歩行のあい]がん動物だ。

 搜索の時間は夜間推奨とさいがある。なので、ホールデンは夜に向けてもうひとねむりしようかと思ったのだが、カースティのメッセージに『昼からベイビーメイカーのライブがあるから、に行ってこい。クライアントからのおさそいなので無下にはできないし、仕事相手を知るのはいいことなので絶対に行くように。会場で社名と名前を言えば入れるようになっている。それまでは自由時間とする』とあるので、ねむるのをあきらめる。


「はぁ……チェルシーあの性悪のライブなんか全く興味ないけど、カースティさんが絶対っていってるから行かないとどやされるんだろーな……」


 ホールデンは深々とため息をつく。すると、扉の方からノックが聞こえてくる。

 履歴書ウォークオブライフを閉じるとホールデンは扉までのそのそと移動し、開けた。


「……ホールデンおはよう」


「なんだティアか。どした?」


 ティアはめずらしくもじもじとしていた。よく見ると、だんと格好が違い、可愛かわいらしい服装に身を包んでいた。どことなくチェルシーが着ていた服に似ていた。


「……専務のメール見た」


「ああ、ちょうど今見たとこだ」


「そう……」


「?」


 ティアは歯切れ悪く言うとそのままだまってしまう。


「なんか用があってきたんだよな?」


 ホールデンがそう言うと、ティアは自分の服のすそをぎゅっとにぎり、意を決する。


「……メールにあったライブの前に……ランチ……いつしよに行きたい」


「昼飯? あー……」


 ホールデンは言いよどんだ。

 一ヶ月の生活費は1ルード単位で計算されており、ここでランチにお金を使ってしまうと、計画したものがたんしてしまうからだ。

 ホールデンがしぶい顔をしていると、ティアは不安げな表情になる。


「……私とじゃ……イヤ?」


「いや、お前がどうとかじゃなくて金がなぁ……」


「……お店は予約してあるから、元々私が出そうと思ってたけど?」


「すぐにたくして出るから、りようの前で待っててくれ!」


 出す、という言葉が出たしゆんかんに食い気味に言葉をかぶせ、準備に取りかる。

 ホールデンはウキウキで準備を始めた。

 鼻歌まじりで外着にえていると、再度とびらが叩かれた。

 ティアかと思い、扉を開ける。そこにはメグが立っていた。


「アンタ、カースティさんのメール見た?」


「おう。見たけど、どした?」


「そ、そう……」


 ティアと同じように歯切れ悪く黙ってしまう。よく見ると、普段とは違い可愛らしい格好をしていた。こちらもどことなくチェルシーが着ていた服に似ていた。


「ちょっと急いでるからなんか用があったら手短にたのむわ」


 ホールデンがそう言うと、メグは自分の服の裾をぎゅっと握り意を決する。

 この光景、先ほども見たなとホールデンは思った。


「あ、アンタどうせ借金返済で全然お金ないんでしょ? だから、その……ライブの前に……私がご飯ごそうしてもいいわよ……?」


「昼飯? あー……」


 先ほどと全く同じリアクションをするホールデン。ただ、今回はお金がないからではなく、すでにティアと約束をしていたからだ。


(……まじかよっ! なぜ同じタイミングでおごって……はっ!)


 そこで、てんけいがホールデンにい降りてくる。


(食いめ……! このタイミングで明日の分までとってしまえば2日分の食費がく計算になる! 天才か俺は!)


 その計算は色々な意味で破綻しているのに気がつかないあたりがホールデンだ。


(しかし、どうやって2人と同時に飯を食うかだよな……)


「……ど、どうなのよ?」


 ホールデンは一つの答えにたどり着くと、ニヤリと口をゆがめる。


「もちろん行く! 申し訳ないけど、食いたい飯があるから店俺が決めていいか?」


 それを聞いたメグの顔はパッとはなやいだ。


「しょ、しょうがないわね。選ばせてあげるわ。どこのお店なの?」


「準備もあるからメールする! で、直接店で落ち合おう!」


「わかったわ。それじゃ後でね」


 そう言うとメグはじようきげんで部屋から去って行った。


「フハハハハ! まとめて二食分の飯が食えるぜ!」


 部屋の中で一人、ホールデンは笑いをひびかせた。

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