第二巻 第二章 大胆は無知と卑劣の子であって、他の資格よりもはるかに劣る

第二章 大胆は無知と卑劣の子であって、他の資格よりもはるかに劣る①

『え~本当ですか~♡』


 ホールデンは今までにないくらい必死で働いた。ヴィンセントが直接仕事をくれたのだがだんラロケット・インクが受けそうにもない建築系の肉体を使う仕事や、しや重いものを運ぶつらい仕事ばかりでヘトヘトになりながらもなんとか23万301ルードを稼ぎ、ヴィシャスまいに本日分の金をわたした。そしてまんしんそうりように戻ってきた。部屋に戻る途中、多目的室サロンに置いてあるから、チェルシーの甘ったるい声が響いてくる。の前には多くのせんぱい男性社員がくぎけになっていた。


『私プライベートでは男性とあんまりお話ししないので、よくわかんないです~!』


 ニヤニヤと気持ちの悪いみをかべる男共。


「いや~! それにしてもスーパー可愛かわいかったよな~チェルシーちゃん」


「一目見られただけで、明日からのえんせいも頑張れる気がしてきたわ~」


「おっぱいも大きかったし、文句のつけようがない子だよな~」


 ぼーっとに映るチェルシーを見る。


(それにしても、さっきの女と同一人物だとは信じられないな……)


「おっ、ホールデンじゃねーか」


 と、立っているホールデンに気がついた男たちは近づいてきた。


「なんてうらやましい奴なんだ!」


「なぁ、俺もお前のチームに入れてくれ~。だいじようぶ、全然アイドルなんかに興味ないから」


「はぁはぁ……チェ、チェルシーちゃん、ど、どんなにおいがした♡」


 その後ろからはチェルシーの笑い声が聞こえて来る。


『私様に話しかけていいのは年収1億以上ある男だけなんだからね』


 先ほどのチェルシーの言葉が思い起こされる。


(どう考えてもこの中に1億の稼ぎがある奴はいないよな)


「……知らない方が幸せって言葉だけ言っておきます」


「富のどくせんは犯罪に等しいぞ! 我らにも富の分配を!」


 その言葉を聞く限り、真意が伝わったものは一人もいなさそうだった。


(奴と仕事することが富だなんて俺はいつさい思わねーけどな!)


◆◆◆


 多目的室サロンを後にしたホールデンは部屋にもどる途中である考えが頭をよぎった。


「つーか、アイドルってすげーな。ここまでえいきよう力があんのか……芸能系会社インクもうかるのもうなずける。はっ! そうだ! 《ものまねフエイカー》で【偶像The idol】をほうすれば……」


 そこまで考えてホールデンは思い直した。


「何を鹿なことを考えてんだ俺は……」


 窓に反射するおのれつらを見て、こんな面のやつがアイドルになんかなってもだれも金を落とさないと気がついたからだ。

 そう考えるとチェルシーは、性格に大分問題はあるが、容姿だけ見たら申し分ない。やはり人間見た目がとつしゆつしていれば、金になるのかと己の顔を見て深々とため息をついた。

 無意味なことを考えているうちに自室の部屋に戻ってきた。

 すると部屋の中から物音が聞こえてくる。

 相部屋であったサリーがいなくなったので、今は一人で部屋を使っているホールデン。なので、部屋の中から音が聞こえるのはありえない。


(なんだ……どろぼうか? 俺の部屋に入ってもるもんなんてなんもないぞ)


 けいかいしながらとびらしんちように開け、中を見てきようがくする。

 見たことない何かの実験で使いそうな機材、なぞの部品の山、よう不明のガラクタにしか見えないものが部屋をせんりようしている。ホールデンの私物は部屋のすみに追いやられていた。


「な、な、な、何じゃこりゃああ!!!」


「おっかえり~! いや~ひつしに手間取っちまったな~! 今日からルームメイトになるブライアン・ジェンキンソンくんだよ~! よろ~」


「な、何すかこのさんじようは……」


 ホールデンがぼうぜんしつたたずんでいると、ブライアンはホールデンに近づいてくる。


「いや~、俺っちの部屋がぜまになってて、居住用にもう一つ空いてる部屋ないかなって相談したらここが空いてるってんで、引越してきちゃった☆」


 ブライアンは可愛らしく、舌を出して、コツンと自分の頭をく。


「いやいやいや! おかしいでしょ! 居住用に何実験道具全部持ってきてんすか! そのもう一つの部屋に置いてきてくださいよ!」


「全部じゃないって~。これは実験道具だけど、仕事用じゃなくてプライベート用さ~」


「この際、仕事用でもプライベート用でも関係ないから! 俺のスペースが……」


 ブライアンはホールデンのかたをポンポンとたたく。


「ど・ん・ま・い☆」


「『ど・ん・ま・い☆』じゃねーーーーーーー!!!!」


 しばらくするとホールデンも落ち着きを取り戻し、なんとかホールデンのどこは確保するということで落ち着いた。

 ブライアンが来たことにより、部屋にが置かれることになった。さすが【発明家】だけあって高性能のである。


『そんなことないですよ~♡』


 からはベイビーメイカーの番組が流れており、チェルシーがしやべっていた。

 ホールデンは初めてベイビーメイカーのメンバー全員を見る。

 全10人で、それぞれタイプがちがう美少女がフリフリのいしようを着ていた。

 全員美少女なのだが、その中においてもチェルシーの容姿は群をいていた。


『あはは~もう! チェルシーちゃんたら~』


「デンデンは羨ましいなぁ~」


 ブライアンはホールデンのことをデンデンと呼ぶ。最初呼ばれた時は誰を呼んでいるのかわからなかったが、数回目ですでになれた。


「ブライアンさんもアイドル好きなんですね」


「てか、男で美少女がきらいなやつは、男じゃないさぁ~。俺はカマろうじゃないからもちろん好きだねぇ~」


 ブライアンはホールデンの方を見ずに画面を見ながらしゃべる。


「特に今喋ってる、レイラたんが俺のしメンかな~」


 そう言われて、ホールデンは画面に視線を移す。

 そこにはがらで非常にあいきようがある笑顔の美少女が映っている。一見すると職業訓練学校ジユニアの下級生に見えてしまいそうだが。


「すげー幼く見えますが、いくつですかこの子?」


 そう聞くと、ブライアンの顔がじやつかんくもる。


「レイラたんにねんれいを聞くのは禁句だから絶対に本人の前で言うなよ!」


「……いや、会う機会なんてないから言いたくても言えないすよ」


「レイラたんはこの見た目でなんと26歳なのだよ! まぁレイラたんにとって年齢なんて意味のないがいねんではあるけどね~。みたまへ! このとしを感じさせない愛くるしい笑顔! おそらくいまだに男を知らないひとみ! 天使を具現化すればこのサイズになるであろうというミニマムさ! すべてが高次元でゆうごうしてせきの存在へとしようかさせている」


 きようきすら感じさせるブライアンのその演説に、ホールデンは若干引いてしまう。


「この見た目で26歳かよ……若作りしすぎだろ……」


 小声でつぶやくホールデン。しかし、ブライアンは聞きのがさなかった。


「コポォ! 貴様! レイラたんをろうするか! そこになおれー! 風穴あけてやる!」


 ふところからホールデンが見たことない武器を取り出すブライアン。

 そう思ったのもつかの間。パンっとかわいた音が聞こえると、ホールデンの耳元をにんできない何かがかすめていった。おそる恐る後ろをり向くと、かべに穴があいていた。その穴をのぞき込むと、なまり玉がめり込んでいた。

 背筋に冷たいものが走る。頭に食らっていたら、じゃなく本当に死んでいただろう。


「次、俺っちの前でレイラたんをバカにしたら……外さないぜい」


 目がマジだった。ホールデンは全力でコクコクと頷く。昼間会ったあの3人組といいブライアンといい、アイドル好き……いや、アイドルくるいのやつはぶっ飛びすぎているなと心底思うホールデンであった。そんな危険なファンを多く持つ、チェルシーと仕事をすることに、いまさらながらいやな予感しかしないホールデンだった。

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