第一章 偶像少女は夢を見させない③

 そんなじようきように、ジェフがいかりを混ぜた口調で話す。


「ヴィンセントさん、おたくのすいせんした社員はだいじようぶなんですかね?」


 ヴィンセントはプカプカとけむりくゆらせる。


「ははは。バージェスさん。こいつらだったら貴社の条件である〝アイドルに興味がない〟〝新人〟〝強い〟を満たしている」


 その言葉にジェフはかい的な視線をホールデンに向ける。


「この色ガキが?」


「社長、彼は大逆無道の職イービルジヨブを持つ者をげき退たいした〝やとわれ遊び人〟のホールデン・ドハーティさんです。なのでうでに関しては問題ないかと思いますが」


 ノーマンがたんたんとジェフに進言する。せいのよかったジェフがその言葉で大人しくなる。


「……まぁ君がそういうのなら信じようじゃないか」


 ノーマンはこのごうまんそうな社長にずいぶん信用されているようだった。


「ンで、こっちのカワイコちゃん2人はメグ・フラワーズ、ティア・ラブ・ヒューイットで、こんなにれんだけど強さに関しちゃ、俺が保証すんぜ」


 ヴィンセントは短くなった煙草を空中にほうり、指を鳴らして消し炭にする。


「こちらのおじようさん方は心配してないですよ。何せノア国王のむすめさんとヒューイット・インクのご息女みたいだしねぇ……」


 ジェフはメグとティアを好色そうな瞳で、えんりよめ回す。

 2人を見るチェルシーの笑顔にかげりが見えると思ったホールデン。だが、気のせいだろうとヴィンセントに問いかける。


「で、社長。俺らを呼んだ用件はなんだよ?」


「ああ、それはティーちゃんから説明してくれ」


 ティーちゃんと呼ばれ、いつしゆん顔をしかめたが、来客中だったのでおさえ込む。


「ここにいるアンダーハート嬢が、ある番組のかくで様々な職を体験するというものに、ウチが選ばれた。今回、お前たちにやってもらいたいクエストは、アンダーハート嬢を同行させて仕事をするということだ。なぜ、お前たちかというと先ほど社長が言っていたアイドルに興味がない新人で強いやつということだからだ」


「なんで、アイドルに興味がない新人なんですか?」


 すると、カースティは一枚のかくしよを出す。


「『新入社員とお仕事! チェルシーの職業体験!』?」


 そこに書いてある企画名を読み上げるホールデン。


「そうだ。なので新人ってことが条件で、強くないといけないのはいざという時に対処できないとアンダーハート嬢を守れないだろう」


「ああ、確かにそうですね。けど、アイドルに興味がないっていうのは?」


 そこまで言うとジェフがあらい口調で話す。


「ウチの看板であるチェルシーに手を出させないようにするためだよ!」


「まぁまぁ社長。あのヴィンセント・ラロケット様がすすめる社員の方ですよ?問題があるはずないじゃないですか」


 ノーマンがジェフをなだめる。


「……ふん」


 短気だがノーマンの事はかなり認めているらしく、何か言われるとすぐに大人しくなる。

 話が中断していたので、カースティは一つせきをする。


「……話をもどすぞ。この案件はお前達以外、当てはまらん。なぜなら……」


 カースティはつかつかととびらまで行くと勢いよく開けた。


「うわっ!」


 すると、何人もの男性社員が社長室にれ込んだ。


「おい……」


 ふんの形相に変わるカースティ。


「ひぃぃぃ!」


 その社員のほとんどはカースティの表情を見るとの子を散らすように去って行った。


「ああいう奴らにこの仕事は任せられないからだ」


 ため息をくカースティ。


「ああ、そういうことですね」


 ホールデンは理解した。確かにあんなミーハーな社員にこの仕事を任せられないと。


「いててて……」


 一番下でつぶれていた者はおくれたのか、ゆっくりと立ち上がる。


「ジェンキンソン……貴様……何をしている」


「あはは!姉さん、そんな表情してるとまたシワが増えちゃうよ!」


 その社員はとんでもないことを言う。すぐさまぶんなぐられるかと思いきや、カースティはプルプルとこぶしにぎるだけで、えていた。さすがに来客中に手は出さない様だ。

 ジェンキンソンと呼ばれた社員は、チェルシーのそばまでやってくる。


「ひゃ~! 実物はで見るよりも断然かわいいな~」


「ありがとうございます。ブライアン・ジェンキンソンさん」


 名前を呼ばれキョトンとするブライアン。


「あれ? 俺っちのこと知ってるの?」


「それはもちろんですよ」


「あはは~! さすが天才の俺っち! 今をときめくアイドルにも名が知られてるなんてなぁ~! ねぇねぇ、チェルシーちゃん! レイラたんも俺っちのこと知ってるかな? 俺っちベイビーメイカーの中でレイラたんが一番好きなんだよねぇ~」


 くねくねと気持ち悪い動きをするブライアン。しかも、他のメンバーが一番好きとのたまう。


「レイラさんですか? 今度聞いておきますね!」


 しかし、そんな失礼なブライアンに気を悪くした様子はない。


「ジェンキンソン、そこまでにしておけよ……」


 後ろにはれつごとく怒りのオーラをまとうカースティ。


「おっとと~! こいつはまずいねぇ! それじゃ、チェルシーちゃんまったねぇ~」


 あらしのように去っていく。


「な、なんなんだ……あの人」


 ブライアンの勢いに面食らうホールデン。


「あれがうわさに名高い〝神の頭脳〟のブライアン・ジェンキンソン氏ですか」


 ノーマンは興味深いといったふんだ。


「お見苦しいところをお見せして申し訳ない。ジェンキンソンの方には私から強く言っておきますので」


 カースティはため息まじりでノーマンに謝罪をする。


「いえいえ、お会いできて光栄ですよ。『じゆうき』や『スキル探知機』など、独創的な発明品を世に送り出しているジェンキンソン氏は想像通りの方だったので、安心しました」


 ブライアン・ジェンキンソンは〝神の頭脳〟と呼ばれる【発明家The Invention】である。彼の祖父が発明したは、

今やルードワルドで一家に一台以上ふきゆうしている。父も著名な発明家だ。そんなエリート一家に生まれた彼はその中でもせんとうに特化した発明を世に送り出していた。『銃器』などはその最たる例であろう。しかし、彼はこれを自分の固有武器として他者に絶対わたそうとしないが。


「はぁ、想像通りとおっしゃいますと?」


「何かにひいでた人間は必ずこわれているというのが私の持論なんですよ。常人に理解できないからこそ、何かにとつしゆつできる。そうは思いませんか? ロレンスさん」


 淡々と語るその口調には妙な説得力がある。


「……そうかもしれませんね」


 カースティは自社のゆうしゆうな社員を思いかべた。確かにことごく変人が多い事に気づかされる。


「すみません。また話がそれてしまいましたね。要するに、ウチのチェルシーをドハーティさん達の班に入れていただき、いつしよに仕事を回らせてもらうということですね」


 ノーマンはホールデン達3人にがおを向ける。


「……ってことは仕事をしつつ、この依頼もあるわけだから2倍もうかるってことか! ちなみにこの依頼のギャラはどんなもんで?」


 ホールデンが目をルードマークにしてノーマンにいやしく聞く。


「この鹿もの! 失礼だろうが!」


 カースティはさすがに耐え切れず、ホールデンの頭をたたいた。


「ははは、ラロケット・インクさんは優秀な方々が多そうで何よりです」


「これが優秀ですか……」


 メグはゴミを見るような目でホールデンを見ながらつぶやく。


「ドハーティさんは中々に壊れていそうなので、私からしたら優秀だと思いますよ」


「こりゃまいったね。やはり見る人が見たら、俺の有能さがばれちまったか!」


「壊れているって言われて喜んでんじゃないわよ!」


 メグはホールデンの頭をカースティと同じ位の力で叩いた。

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