第一章 偶像少女は夢を見させない②

 会社インクに戻り、2人は社長室を目指す。


「やばいやばい超やばいって! 実物初めて見たけど、可愛かわいすぎてやばい!」


「いいなー俺も生で見たい! すげーファンなんだよ!」


「顔すっごい小さくて、お人形さんみたいに整ってる。私もあんな顔に生まれたかったな」


 行き交う社員達はみようにテンションが高かった。

 社長室にたどり着くと、社長室の前に人だかりができている。


「なんだなんだ?」


 ホールデンとメグが近づくと、その人だかりは波を割ったように開けた。2人はいぶかしむように社長室に入る。

 社長室の中にはヴィンセントとカースティ、先に着いていたティア、それに見慣れない人物が3人応接ソファーに座っていた。

 一人はチャラチャラした格好に好色そうなふんの30代後半くらいの男性で、全体的にきっちりとした服装で、角ばった眼鏡がそうな印象を、眼鏡を直す仕草が神経質そうな印象をあたえる20代後半の男性。そして、2人の男性の真ん中に座っているのは、大きなマスクをつけた女の子だった。雰囲気からして、ホールデン達と近いねんれいだろう。


「うん? あの女の子どこかで見た気が……」


 その女の子を見たホールデンは声をらした。


「おう! きたかお前ら!」


 ヴィンセントは来客中にもかかわらず、くわえ煙草たばこのまま2人をむかえた。ホールデンとメグはティアが立っているところに移動する。


「お待たせして申し訳ございません」


 メグはれい正しく、一礼した。


「人の昼飯をじやするなよな」


「あれが昼ごはんなんてよくずかしげもなく言えるわね」


きゆうけい中にすまない。先方がいそがしい方々で、時間があまり取れないので、この時間になってしまった。まずはしようかいを」


 そう言うと座っていた3人は立ち上がり履歴書ウォークオブライフを開く。

 メグとティアもすぐに履歴書ウォークオブライフを開く。

 ホールデンものろのろと履歴書ウォークオブライフを展開した。

 ホールデンはず、チャラチャラした男とこうかんする。

 送られてきためいのページを開く。


□ 会社インク バージェス・インク

  氏名 ジェフ・バージェス

  年齢 46歳

  職業 【社長The Spearhead


「よろしくたのみますわ」


 おうへいな感じであいさつをするジェフ。ホールデンは軽くえしやくを返した。

 続いて眼鏡の男と交換する。


会社インク バージェス・インク

  氏名 ノーマン・ベルフォート

  年齢 25歳

  職業 【管理者The Manager


「ホールデン・ドハー……」


 ホールデンが挨拶をしようとすると、手を前に出され静止させられる。


「あっ、すみません」


「えっ?」


「私はノーマン・ベルフォートです。〝ベイビーメイカー〟のマネージャーをしております」


 ノーマンは何事もなかったかのように手を差し出してくる。

 ホールデンはまどいつつもその手をにぎる。


「えっと……ホールデン・ドハーティです……」


 ノーマンは手をはなすと、眼鏡の位置を直す。


「すみません。予定では私から名乗って挨拶をする、、、、、、、、、、、、、、、、って事になっていましたので」


「はぁ……」


おどろかしてしまい申し訳ないです。自分が決めた予定をくずす事が何よりもきらいなのですよ」


「そ、そうなんすね……」


 変な人だなとホールデンは思うが、それ以外はいったって真面目そうな人物であった。

 続いて、横にいた女の子とめいこうかんする。


□ 会社インク バージェス・インク

  氏名 チェルシー・アンダーハート

  年齢 15歳

  職業 【偶像The Idol


 となりにいた少女は名刺交換が終わると一歩前に出る。可愛らしい仕草で一礼し、マスクをとった。そのしゆんかんホールデンののうには一面の花畑が連想された。それほどまでに可愛い存在が目の前にいたのだ。大きなひとみは希少石のように輝いており、ふっくらとしたくちびるは遠目に見てもやわらかいというのは明白で、かみは今まで見てきたどんな花よりも目をうばわれてしまう美しい色であった。その子は満面のみをかべ、おをする。


「おはつにお目にかかります! 私は〝ベイビーメイカー〟のチェルシー・アンダーハートです! よろしくおねがいしますね!」


 ホールデンはきようがくした。先ほどの中にいたアイドルが目の前にいるのだからそれも当然だろう。映像で見るよりも、はるかに可愛いとホールデンは思った。


(なるほど、あのアホ3人組がイカれてしまうのも少しわかるな。顔はすげータイプだ)


 ボーっと見とれる形になると、両サイドにいたメグとティアに太ももをつねられる。


「いってぇ!」


 2人は冷めた目でホールデンを見ると、ポツリとつぶやく。


「何見とれてるのよ」


「……私以外に見とれるのはダメ」


 そんなやり取りをしていると、ホールデンをうわづかいで見ながら天使をほう彿ふつとさせる笑顔でチェルシーは楽しそうに笑った。


「ふふふ。ラロケット・インクの方々はみなさん仲がいいんですね」


 その笑顔がホールデンの心音を強制的に増大してしまう。


(あっ……やばい……《》が発動し……)


 内心でけいしようがなったと同時に意識はもう一人のホールデンジゴロいじようされる。

 ジゴロ・ホールデンは瞳をももいろにすると、自然な手つきでチェルシーのかたに手をまわす。


「僕は君とも仲が良くなりたいと思っているよねこちゃん。ああ……しかし僕はただ〝仲良く〟ではなくて、男女の〝仲良く〟になりたいと思っているけど、君はアイドル……このままいくとすぐに君はこいびと宣言をしなければならなくなるな……その恋人というのはもちろんこの僕さ。その服も最っ高にキュートだよ」


(うえぇぇぇぇぇぇ! や、やめてくれ!! なんつーことを言いやがるんだ俺は!)


 すると、社長であるジェフのけんにシワが寄る。

 チェルシーはジゴロ・ホールデンに回された手をすっとほどく。


「気持ちはうれしいですが、ホールデンさんのこと何も知らないのでまずはお友達から始めませんか?」


 アイドルらしく、当たりさわりのない返答をされる。


「もちろんさ、子猫ちゃん。僕の何を知りたいのかな?ああ、でも困ったな……僕の全ては君のものだから、何でも話してしまいそうだよ……まずは僕の……」


 そこで、メグとティアからきようれつなボディブローを食らう。


「うぼろぉ!」


「アンタには節操ってもんがないの!?」


「……そんな女口説くなら、私をベッドにさそう口説き文句を言って」


 ヴィンセントはその茶番劇をニヤニヤと笑って見て、カースティは頭が痛いと言わんばかりに片手で顔をおおう。

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