第二巻 第一章 偶像少女は夢を見させない

第一章 偶像少女は夢を見させない①

「暑い……それに腹減った……」


 4つある太陽の内、夏をつかさどる太陽がジリジリとホールデンの身をがす。


「はぁ……にしても1日23万301ルードはらうとか……どうしろってんだよ……」


 時間は昼時。いつも通り、定食屋のかん口からにおいだけたんのうしていた。しかし、外の気温が40度をえているため、とめどなくあせが流れる。


「だ、だめだ……暑すぎて匂いを嗅ぐランチすらままならないとは……」


 横には広告用のから様々な商品のコマーシャルが流れる。


『ベイビーメイカー、チェルシーも大満足! 多頭牛使用のにくどん! 新発売!』


 映像からももいろかみを持つ、非常に愛くるしい女の子がそうにあんかけ丼を食べていた。ホールデンはふらふらとそのに近づき物しそうにながめる。


「はぁはぁ……ジュルルルリ……」


 腹が減っているという事情を知らない人が見たら、に映るその女の子の危ないファンだとかんちがいされるだろう。


「おい貴様!」


 と、そんな状態のホールデンにせいがかかる。り返るとそこには小太りの男と、小さな男、ひょろひょろな長身の男がホールデンをにらんでいた。


「……なんだよ?」


 ホールデンは腹が減り、気が立っていたので雑な返事をする。


「貴様! 我々のチェルシーちゃんをイヤラしい目つきでけがすんじゃない!」


 小太りの男が息巻きながらこうの声を上げており、他の2人はそれにうんうんと、うなずく。

 そいつらの格好を見ると全員、先ほどコマーシャルに出ていた女の子の絵がプリントされた服を着ており、頭には『チェルシー命』と書かれたハチマキをつけていた。


「いや、俺はこの肉丼を……」


「だまらっしゃい!貴様のような気持ちの悪いチェルシーファンを許さないのだ!」


 会話が成り立たずイラつくホールデン。


「つか、だれなんだよ! そのチェルシーちゃんとやらはよ!」


 小太りの男は鼻息をあらくする。


「貴様、しらばっくれるつもりか! このクートヴァスにおいてチェルシーちゃんを知らぬ男などいないはずないだろぉ!」


「いや、俺はこの国に住んでる男だけど一切知らん!!」


 ホールデンはだんからあまりというかほとんどを見ないのだ。その大きな理由がを買う金がなく部屋にないからなのだが。

 するとその小太りの男はたたみかけるようにしやべり出す。


「そんなおろかな男が存在していたとは! いいかよく聞け! 貴様が今見とれていた天使は、ベイビーメイカーのトップメンバー! チェルシー・アンダーハートちゃんだ! 今年から加入した彼女はこの半年でクートヴァスのナンバーワンアイドルになった、アイドル界のリーサルウエポンなのだ!」


 鼻息荒く喋る小太りの男。カバンからそのアイドルの写真を取り出すとほおずりをする。


「この愛くるしいがおはまさに芸術品でござる!」


 流石のホールデンでもそいつの行動にじやつかん引き始めている。


「つか、愚かでも見とれてもいねーし」


「ふん。以後、貴様のじゆうよくにまみれた視線をチェルシーちゃんに向けるなよ! 我々は明日のベイビーメイカーのライブに向けて決起集会があるので、これで失敬する」


 言いたいことだけ言うとその3人はホールデンの前から去っていく。


「な、なんだったんだあのアホ3人は……」


 気をとりなおして匂いを嗅ぐランチを再開する。


「花よりだんだよなやっぱ……」


 匂いを嗅ぐ《ランチ》をしながらホールデンは履歴書ウォークオブライフを手にすると、とあるページを開く。


「高額のらいは……やっぱすぐにどうこうできるモンじゃねーよな……」


 ホールデンが開いたページは、クートヴァス・インクが公式に出しているちよう高額依頼をさいしている場所であった。


「第一級げんじゆうじよ100億ルード、第一級犯罪者のたい10億ルード」


 他にもいくつかの億えが記載されているが、億の依頼だけあって困難なものばかりだ。


「はぁ……ゆいいつチャンスがあるとすれば第一級犯罪者の逮捕か……」


 ため息混じりにつぶやくホールデン。第一級犯罪者となればジョン・ドゥ・インクの正社員クラスをたおさなければならない。そう考えると、ずいぶん確率が低い話だろう。


「この暑いのによくやるわねアンタ……」


 ホールデンが匂いを堪能しながら履歴書ウォークオブライフを見ていると、またしても後ろから声がかかる。それは何度も聞いた冷ややかな声であった。振り返ると、美しく金色にかがやきんぱつをツーサイドでわえている美少女があきれた顔で見ていた。


「……そう思うならこのあわれな遊び人に飯をおごってくれ。先週飯おごってやっただろぉ」


「……あれは勝手にアンタがおおばんいしただけでしょ」


「おごってくれないなら俺の行動に文句つけるなよな!」


 かん口に再び体をもどすと、汗をダクダクとかきながら引き続き匂いを堪能する。行きう人々が指をさし、ひそひそと何かを話していた。その様子を見たメグは再びためいきをつく。


「はぁ……アンタ、一応有名人なんだから自分の行動を考えなさい」


 ホールデンはクートヴァス美少女連続ゆうかい事件を解決した事で、いちやく有名になっていた。


「うっせ!お前は俺のかぁちゃんかっての!」


 メグはホールデンの頭を思いっきりなぐると、バガンと大きな音がひびいた。


「ってぇな! 文句があるなら口で言えよ!」


「うるさいわね! アンタにはデリカシーってものがけつじよしてるのよ!」


 思ったよりも強く殴られ、頭をさするホールデン。


「つーか、昼時に何の用だよ?」


「仕事じゃなきゃ、見すぼらしい行動をしているアンタに話しかけるわけないでしょ」


 ホールデンは見すぼらしいと言われ、小さく「大きなお世話だっての」とつぶやいた。


「メッセージ見てないわよね? 社長とカースティさんが呼んでいるわ」


「メッセージ?」


 ホールデンはそう言うと履歴書ウォークオブライフを開き、メッセージが見られるページを開く。そこにはカースティからこんなメッセージが届いていた。


『差出人 カースティ・ロレンス 内容 昼時にすまない。きんきゆうで用件ができたので、社長室に至急来てくれ』


「呼び出しか……俺、なんかやったっけかな……?」


「その理論で言うと、私も何かやった事になるからつうに呼ばれているだけよ」


「だよな。お前とティアが何かやるわけないし、それにしても一体なんの用なんだ?」


「私も今呼ばれてるんだから分かるわけないでしょ」


 メグはそう言うとホールデンを待たずに会社インクに向けて歩を進めた。

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