第六章 世界は割れ響く耳鳴りの様だ⑧

 ティアは女の子達を外に逃がした後、戻って来てメグと合流した。


「……だいじよう?」


「……うん。大丈夫。ありがと」


力無き者リストリクシヨン》のえいきよう下から解放されたとはいえ、メグは長い間捕らわれていたので精神的もうが激しかった。が、心配そうに見つめてくるティアに努めて明るく返答する。


「……無事でよかった」


 ティアは微笑ほほえむ。


「あいつがさっき使ったスキル……」


 メグはホールデン達の戦いに視線をやると小さくつぶやいた。

 ティアは履歴書ウオークオブライフを開き、ホールデンのステータスをえつらんした。


「……!」


 そのひとみきようがくに見開かれる。


「……これ見て」


 ティアは履歴書ウオークオブライフをメグに見せる。そこに記載されているホールデンのステータス値と職業ジヨブどうもくした。


「何……これ……」


・ホールデン・ドハーティ

賢者The transcendental

 ステータス 力 3211 防 9888 速 8776 けん 19212  15432

 職業ジヨブ価値 SS



 失われた職業ジヨブである【賢者】に転職ジヨブチエンジげていた。

 それはにわかには信じられないことだった。ホールデンは《永久職パーマネンスジヨブ》というスキルがされている。なので転職ジヨブチエンジすることなどあり得ない。


「一体どうして賢者に……」


「このスキル……」


 あまり感情を表に出さないティアだが、そのスキルらんを見て驚愕する。

 特殊スキル 《転職ジヨブチエンジ


効果    とくしゆ職業ジヨブへの転職ジヨブチエンジ。このスキルは、《永久職パーマネンスジヨブ》の影響を受けない

発動条件  1《ものまねフエイカー》で他者の職業ジヨブ経験値を得、特定条件を満たす事で転職ジヨブチエンジが可能

      2 じゆもんえいしよう

制限    1 スキル《転職ジョブチェンジ》は、転職ジョブチェンジした職業ジョブのスキルを 行使する対象の職業価値+−1の職業ジョブにしかなれない

      2 転職ジヨブチエンジした職業ジヨブでいられる時間は1時間


 スキル欄を見たメグも驚きをかくせない。

 それもそうだろう。転職ジヨブチエンジがスキルとして現れたのだから。

 ホールデンが新たに発現したスキル《転職ジヨブチエンジ》は他の職業ジヨブ転職ジヨブチエンジをするスキルである。《永久職パーマネンスジヨブ》のホールデンだが、【遊び人】のスキルで転職ジヨブチエンジをするので《永久職パーマネンスジヨブ》に縛られることはない。《転職ジヨブチエンジ》というスキルは他の者には意味をなさないが、【遊び人ホールデン】だからこそ意味をなすスキルと言えよう。


「《ものまねフエイカー》……あれで様々な職業ジヨブのスキルをほうしたから……」

 

 メグはティアの言葉でハッとした。【賢者】が失われた職業ジヨブになってから百年ほどになる。失われているがゆえに、どの職業ジヨブきわめていけばその失われた職業ジヨブになるかわかっていない。発動条件にあるホールデンの《ものまねフエイカー》が、その職業ジヨブの経験値も得られるならば……知らぬ間に条件をクリアしたことになる。


「そんなすさまじいスキルなんて……」


 せんりつするメグの横でティアは微笑んだ。


「……ホールデンはやっぱりこうでないと」


 ティアは自分のことのようにホールデンのステータス値を見て喜んだ。



    ◆◆◆



「ハハッ!」


 とつぜん、殴り倒されていたサリーは立ち上がると不気味に笑う。


「【賢者】に転職ジヨブチエンジか面白い」


 サリーはおのれ履歴書ウオークオブライフを見ながらとした表情になる。


「……面白いだと?」


 ホールデンは目の前のの言葉が理解できない。


「面白いに決まってるだろ。さっきまでは、どう転んでも俺の圧勝だったが、今は俺が不利になってるかもしれない。後の展開が全くわからないんだ。たとえ俺が死ぬ事になっても、そこまでが1つの喜劇だろうな」


「……これだけ準備して計画を立て、実行したものをこわされて……何が楽しいんだ!」


「計画がくるってこその結果だろう。俺にとっては思い通りにいかない今が最高のしゆんかんだ」


「……イカれているなお前」


「俺がイカれてる? ハハッ! 俺は、俺こそが最もじゆんすいな人間の理想型だ。そもそも人間とは己のよくに正直な生き物。だが、法っていうかせを営みに加えることで、人が人としてのほんしようを殺してしまう。結果、くだらないやつがあふれ返ってき気をもよおす景色がうずいている。俺より真の人間性を保っている奴はそうはいない」


 その瞳はきようじんのそれとはちがい、純粋な色を映し出していた。しかし、その限りなくとうめいな純粋さは、狂気の純粋さだとホールデンには映る。


「……お前と問答をしてもなんの意味もない」


 ニヤリと口角をゆがめると、サリーはえいしようし、《力無き者リストリクシヨン》をホールデンではなく、ティアとメグに放った。

 再度、ティアとメグは《力無き者リストリクシヨン》にからられてしまう。動けないティアにりを浴びせき飛ばすと、メグをめにした。


「っっ……!」


力無き者リストリクシヨン》によりその声に力はなかった。メグは自分がホールデンの足手まといになっていることがたまらなく情けないと思う。


「こいつをお前の目の前で切り刻んだら、さぞお前はいかり狂うんだろうな」


「……だ。お前が何をやろうとも、フラワーズは傷つけられない」


 の距離は20メートル。一瞬で距離をめるにしては遠い。それなのに、ホールデンは顔色1つ変えなかった。


「ハハッ! お前の買った指輪の価値をなくしてやるよ」


 サリーはふところからナイフを取り出すと、メグの右薬指を切り落とそうとする。


「や、やめて……それは……」


 メグは必死に声をしぼり出すが、そのナイフが自分の指を切り落とすのを待つしかなかった。

 だがナイフよりも早く、ホールデンはじゆもんを詠唱した。


[方法はいくつかある。しかし、結局どれを選んでもそれは最終的に俺のやり方になる]


賢人の知恵ボーダーブレイカー──遊び人The Neet──不思議な踊りフリークスダンス


 スキル名を発音すると、どこからともなく場違いな音楽が流れてきた。


「はっ!」


 その音に合わせてホールデンの体はリズムを刻む。


「お、お、お、お、おおおおおお!」


 その瞬間、サリーはナイフを投げ捨て、強制的にホールデンと同じリズムをとる。

 サリーは己の体に起こった現象にひたすらきようらんみをかべる。


「この《不思議な踊りフリークスダンス》ってのは、強制的に指定した相手をいつしよに踊らせる事ができる、スキルだ。相手がどんな状態でもこの踊りが優先される。まぁその間俺も踊ることしかできないけどな」


 そう言いながら、じよじよにサリーをメグからはなして行く。そして、メグとティアをかばう位置関係で踊りは止まる。【遊び人】の時はステータスが低すぎて、せいぎよできていなかった《不思議な踊りフリークスダンス》だが、《賢人の知恵ボーダーブレイカー》によって、自分が今までいた職業ジヨブのスキルを【賢者】のステータスのまま使用することができるので制御可能だった。


「もう終わりだ。お前が何をしようと、俺は後の先を確実に取る事ができる」


「ハハッ! 最高だ! こんなに楽しいのは久しぶりだ!」


 本心からその言葉を吐いている笑みであった。


「もっと俺を笑わせてくれ!」


 サリーの履歴書ウオークオブライフまがまがしくかがやく。


[開け]


 サリーは指を鳴らす。

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