第六章 世界は割れ響く耳鳴りの様だ②

 あれから6日が経過した。そして時刻は23時を過ぎたところだ。後1時間もすれば期日の1週間がやってくる。方々をあたってみたが、成果はかんばしくなかった。ホールデンはくたくたになりながらりようの自室の扉を開ける。


「お疲れ様、ホールデン君。そっちは何かわかった?」


 サリーも部屋に戻ってきており、しんちよくを聞いてくる。


「いや……そっちは何かわかったか?」


 ホールデンはベッドにたおれ込むと、特に期待せずに聞いた。


「うん。わかったよ」


 予想外の言葉にホールデンはとびおきる。


「一体何がわかったんだ!?」


「何も手がかりを得られないということがわかっ……」


 スパーン!

 そのしゆんかん、全力でサリーの頭をたたいた。


「いたたた……本気で叩くんだからなぁ」


じようだんを言ってる場合じゃねーよ!」


「うーん。冗談のつもりはないんだけどね」


 サリーは頭をさすりながら非難の色をにじませた。


「何もわからない事がわかるっていうのも大事だよ。この6日間、色々な可能性をこうりよして様々な職業ジヨブ転職ジヨブチエンジして色々なスキルで探したけど、どれにも引っかからなかったんだ」


「色々なスキルって、どんなスキルだよ?」


 ホールデンは自分が転職ジヨブチエンジできないので、若干のひがみを交えつつたずねた。


「主にサーチ系のスキルだね。ただ、ほか職業ジヨブだと熟練度が低いからあまり高難度のサーチ系ではためせなかったんだ。ただ、他の人に1度強力なサーチ系スキルを使って調べてもらったけど引っかからなかったよ……おそらく、強力なぼうがいスキルを持っていると思う」


 2人に沈黙が落ちる。


「……?」


 と、そこでホールデンは気がつく。むしろなぜ今まで気がつかなかったのか不思議であった。【遊び人】のスキル《探し物グリーデイー》の事を。メグがいなくなった日に、ホールデンがけに負けて買わされた指輪。あれがもし、ホールデンの所有物と見なされれば、このスキルに引っかかる。そしてそれが指し示す場所は……。一筋のわずかな光明にすがるように、ホールデンはじゆもんえいしようした。


《俺の物は俺の物》


「ホールデン君、詠唱なんてしてどうしたの?」


「いや、ものは試しって言うだろ。《探し物グリーデイー》!」


「まぁそうだね。やってみるといいよ」


 サリーはだと言わんばかりの様子であった。

 ホールデンはスキル名を発動すると履歴書ウオークオブライフの空ページにクートヴァス全域の地図が表示される。次いで点が表示される。当たり前だが今いる第1区画の寮にその点が集中している。拡大するまでもなくそれは今この部屋にあるものだということは明白であった。


「……!」


 第4区画に1つ点がかび上がっていた。ホールデンは期待に胸をふくらませその点を拡大させた。が、すぐにらくたんすることになった。それはミルドー山にたんさくに行った時に落としたと思われる、1ルードであった。ホールデンはためいきくと、その1ルードは今度拾いに行こうかと思い履歴書ウオークオブライフを閉じようとした。そこで気がつく。クートヴァス第10区画の外れ、エスディメリとの国境線沿いの場所にあるガヌーブという小さな街に点がある事を。ホールデンはガヌーブに行ったことはなかったので首をかしげた。その点を拡大するとホールデンはみをこぼす。


「……やったぞ」


「何がやったの?」


 ホールデンは履歴書ウオークオブライフをサリーに見せる。すると、サリーは信じられない物を見たと言わんばかりの表情になった。


「この点が指し示すのは俺がフラワーズに買った指輪だ。何で俺がアイツに指輪を買ったのかは省かせてもらう。この場所にフラワーズがいるはずだ」


 サリーはいつもの笑顔をじやつかんこわらせている様に見えた。


「どうしたんだ、サリー?」


「……僕があれだけ色々調べてわからなかったから、ちょっとびっくりしてね」


「まぁそれだけ俺の力がすごいってことだな」


「うん……。本当にそう思うよ……」


 サリーは履歴書ウオークオブライフの点を見つめ、ボソリとつぶやいた。


「どうしたんだ?」


 その様子がおかしかったのでホールデンはサリーにたずねる。


「いや、なんで指輪なんてメグさんにプレゼントしたのかなぁと思ってね」


「プ、プレゼントじゃねーよ! あれは単純に俺の運が悪かっただけというか……」


ずかしがらなくてもいいって」


「おいっ! 何かんちがいしてんだ!」


 先ほどのサリーのおかしな雰囲気はいつの間にか消え、いつも通りになっていた。


「それで、どうするつもりだい? 今日はもうおそいから明日助けに行く?」


「今すぐ助けに向かうさ」


「そう……だよね……」


「お前も来てくれるだろ?」


「それはもちろんさ。メグさんは大事な仲間なんだからね」


「……先に言っておくが、報酬額インセンテイブは俺が8でお前が2だぞ」


 相も変わらずがめつい顔でサリーに言った。サリーはそれに対していやな顔1つするどころか、満面の笑顔になる。


「お金なんていらないから、代わりにティアさんをさそって、僕の報酬を割り当ててよ。相手は何人いるかわからないし、強力な職業ジヨブの可能性もあるから3人は必要だよ。それにティアさんの【裁判官】は悪人には非常に効果的だしね」


「……確かにな。けど、お前は本当にそれでいいのかよ?」


「僕はお金よりメグさんを助けたいと思っているんだからね」


「お前がいいって言うならいいけど……」


「それなら僕がティアさんにれんらくするよ」


 サリーは履歴書ウオークオブライフを取り出した。


「同じ寮なんだから直接行った方が早いんじゃないか?」


「そうだけど、この時間にいきなり女性の部屋に行くのはマナーはんだと思うよ。だから行くにしても僕が一報連絡を入れておくね」


「……そういうモンなのか。じゃあたのむ」


「うん。やっておくよ」


 サリーはそう言うと指を走らせ、履歴書ウオークオブライフに文字を刻む。

 何を書いているのか、送るのに少し時間がかかっていた。


「送ったよ」


「女に連絡するからって時間かけすぎだろ」


「事情を説明するのに少し時間がかかったんだよ」


「そんなの来てから言えばいいのに」


 それに困った様な笑顔を浮かべるサリー。


「僕の性格的な問題だからごめんね」


 そんなやり取りをしていると、勢いよくとびらが開いた。


「……ぐずぐずしてないで早く行こう」


 そこにはティアが立っており、いつも通りたんたんとした口調でホールデン達をかした。が、その格好を見てホールデンは力がけてしまった。なぜなら、あわいブルーのねこを全面に配したパジャマを着て、同じがらのナイトキャップをかぶっていたからだ。


「すぐに行くのはいいけど、えてこい……」


 ティアは自分の格好を見ると、顔を赤らめ部屋にもどって行った。

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