第五章 Wave Of Mutilation⑤
ホールデンはぬるくなった麦酒を飲み干すと視線を外し、小さく舌打ちをした。
「こんなしみったれた話なんかして悪かったな。口では大層な
「……やっぱりアンタはあんな
「あんな奴ら?」
メグはぼそりとつぶやくように言ったが、ホールデンは聞き
「……昔、私には
静かに語りだしたメグ。今度はホールデンが静かに聞く番だった。
「でも違ったの……。アイツらは私じゃなくて、後ろにいるお父さんのお金と力しか見ていなかった。私と仲良くなれば、将来
強い意志を感じさせる声と表情であった。その瞳の色には金への
「お金は嫌いよ。でも……お金がどうしても必要なの」
先ほどまでのメグの瞳には、嫌悪の色が
「探したい人がいるの」
「探したい人? それとお前が金を必要なのはどう関係してくるんだ?」
「……『
「10年くらい前の事件だな。確か……自殺者が1日で、すごい数でたって話だよな?」
「そう。アレを
ホールデンは
「どういうことだ? そもそもお前の兄貴って10年前に病死したって話じゃ……」
「私のお兄ちゃん……リアム・フラワーズは
「カースティさんが言ってた?」
「そう。具体的な話はわからないんだけど、あの日……お兄ちゃんは出て行く前に私に言ったの。一連の自殺
「そして、いつも
メグは視線を落とす。
「お父様とお母様に聞いても、『リアムの事は忘れなさい』と言ったきり
メグは視線を上げると、固い意志を表明するかのように静かだが強くつぶやいた。
「だから私は必ずお兄ちゃんを見つけ出す。そのためにお金を
「……だから、金が必要なのか。親に
実際、行方をくらませた人物を探すのはかなりの金が必要だ。特に国家を上げて探しても見つからない相手だ。一体いくらかかるのか見当もつかない。
ホールデンは、メグの
「……すげぇな。尊敬なんて簡単に言うべき言葉じゃないけど、今の俺の気持ちを言葉にするのであれば尊敬って言葉が一番しっくりくるよ」
「……気持ち悪いわね。アンタにそんなこと言われるなんて」
メグは目を丸くしながらも
「ひでーな。これでも真面目に俺は言ってんだぞ」
場の空気が
「フフフ……」
メグのその
ホールデンの瞳は
《
(押さえ込む余地すらなかったぞ今……
「ああ……なんて尊いんだ。まるで世界の終わりを
(なんなんだよそれ! そもそも俺の
「ええっと……あの、その……ありがと……」
メグはホールデンの
ホールデンは人差し指を立てると、左右に振った。
「ちっちっちっ! お礼を言うのはこちらの方さ! むしろ、今のその照れている顔もどんな宝石よりも価値がある。
そういうと、メグのあごを手で持ちクイッと持ち上げた。
「あ、アンタ……たまに性格ががらっと変わるけど、一体どういうことなの?」
「性格? そんな事は
メグの問いには一切答えず、問題のすり
「だ、誰が子猫ちゃんよ……」
メグはホールデンに褒め千切られ、
だが、ホールデンの次の言葉で空気が一変する。
「罪を
どこか
「……ごめん。今……なんていったのか良く聞こえなかったんだけど……もう1度言ってくれない?」
「もちろんさ! 君の頼みを
ホールデンはメグの冷えきった表情に全く気がついていないようだった。むしろ、気がついていたところでそれを
「お兄さんなんて早く忘れなよ。君の心は罪を犯した
「本気で……言ってるの?」
「当たり前さ。本気に決まっている。君の美しさに
その後の言葉はホールデンの口から出ることはなかった。
「いつつつつつ……」
ホールデンは《
「……最低ね。少しでもあなたを信頼しようとした私がバカだったわ」
「い、いや……今のは……」
ホールデンは
メグはその後、走って店から出て行ってしまう。
「お、おいちょっと待ってくれ……」
その呼びかけも、静まり返った店内に
一瞬、走り去るメグの横顔が見えた。
大きく
ホールデンは席に
「ウチの店には女を泣かせるような男に飲ませる酒はねぇ。とっとと追いかけて行ってやんな。金はつけといてやるから」
と、マスターに言われてしまう。
店内のあちこちから似たような声が上がると、ぼけっとしていたホールデンはその声に
「どこ行ったんだ……」
あちこち探し回って
ホールデンが走り回っていると、路地裏の地面に
「これは……!」
その剣を拾い上げる。その剣はメグのものであった。走り去る時に落としたのだろうか? ホールデンの胸に
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