第五章 Wave Of Mutilation④
数十分後、メグは自分の右薬指にはめた指輪を
場所は、『36・5キッチン』という酒場である。マスターは元名うての【
ホールデンはジョッキに
「……同じモノ下さい」
「あっはーい! 少々お待ち下さい」
マスターの娘はいつも通りの快活で純真
確かに1万4000ルードはホールデンにとって今月の命に手をかけられたのと同義である。だが、あそこでメグを騙くらかして
「お待たせしましたー」
元気な声と共におかわりの麦酒がやってくる。その新しいグラスに口をつけるとホールデンはメグに話しかけた。
「気に入ってくれたみたいでなによりだ……」
メグは指輪から目を離し、ホールデンに移す。
「そうね。たまにはこういったギャンブルも
「俺の食費が無機物になっちまったな……」
「ほら、かわりに今日のここの
「……かわりにって、今日の夜飯は元々荷物を持った
「いつまでもウジウジしていたら男を落とすわよ」
メグはどこか
ホールデンはできるだけ栄養をたくさん
「すいませーん。このフードメニューで上から高いもの10品持って来て下さーい」
その雑
「……別にいいけど、節操がない頼み方ね。さもしい人間性が現れているわ」
「うっせ。ほっとけっての」
しばらくすると、料理がやってきた。
ジャガイモのスパイス
一通り料理に
「……ねぇ?」
ホールデンが満腹の
「なんだ? まだ食い足りないのか?」
「違うわよ!」
メグはそのデリカシーのない一言に
「あのさ……その……もし私が一連の
声は小さく頼り無さげにつぶやく。
「……お前までティアみたいな事を言うのかよ」
「い、いいから答えなさいよ! どうなの?」
メグは顔を真っ赤にすると声を張り上げる。
「そうだな……たぶん助けにいくさ」
「たぶん?」
「い、いや……たぶん、つーか……」
ホールデンは困った様に視線を
「この命にかえても必ず助ける!」
「ほ、本当?」
「ああ。もちろんさ。
「けど、さっきはたぶんって言ったけど、急にどうしたの?」
ジト目を向けてくるメグに、ホールデンは自信たっぷりの表情で返答する。
「気がついたんだ! お前が仮に誘拐されたらきっとお前のアノ
ホールデンのそのひど過ぎる理由を述べる
「どうせそんなことだろうと思ったわ!」
「今のは下手したら死んでたぞ!」
「男なんだからそれくらい
「
ホールデンはグラスが
「……ねぇ? アンタってどうしてそんなにお金に
メグは
「……なんでって金を求めるのにそんなご大層な理由が必要だとは俺は思わないけどな。なんと言っても金さえあれば
ヘラヘラとその質問に対する回答をしゃべる。
「……噓ね」
そうつぶやくメグの表情は全ての
「数ヶ月とはいえ、アンタと行動を共にしていればわかるわ……本物の金の亡者とそうじゃない人の」
「……」
そう語るメグの
「なあフラワーズ……前に金が
そういった他人のプライベートを
「……別に……何もないわ……」
視線を逸らし、新しいグラスに口を付ける。
「そうか。ならいいんだ……」
気まずい
しばしの沈黙のあと、ホールデンは一気にグラスの中身を飲み干すと口を開いた。
「……昔、俺には妹がいたんだ」
ホールデンがそう口火を切ると、メグは
「俺と妹の親父は本物のロクデナシだった。お
ホールデンは努めて明るく話すが、内容があまりにも
新しい飲み物が運ばれてきて、それを半分
「それで、俺とフィービーは……ああ、フィービーは妹の名前な。両親がいなくなり、頼れる親類もいなかった幼い俺らは、とある
「あの北の国のヴェルセ?」
「そう、あのヴェルセだ。当時はまだ国交していたが、革命が起こって独裁政権になっただろ? そこから
「それは……なんて言っていいいか……」
「ああ、気にすんなって。変に同情されてもイヤだからな」
ホールデンは
「俺はさ……親父がいなくなった時にフィービーと約束したんだ。これからはお前を俺が守ってやるってな。……だけど、あんな悲惨な革命があった国では生きているのか死んでいるのかもわからない。もちろん探すことはあきらめていないけどな。俺があの時フィービーの幸せを
ホールデンは最後の方はメグに聞かせるというよりは、独白に近かった。
先ほどの気まずい沈黙とはまた違う別種の
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