第四章 Time For Heroes⑥
次の日、
「……ホールデン」
すると声をかけられる。立ち止まり振り向くと、そこにはティアが立っていた。
「なんだ、ティアか。もう大丈夫か?」
「……
「おーそっかそっか! ホント、大した事なかったならよかった」
「……うん」
相づちを打つとそのまま
「えっと……俺、カースティさんに呼ばれているからもう行くな」
立ち去ろうとすると、ティアはホールデンの服の
「……待って」
「……昨日はありがとう」
「別に、そんな改まって言われる事じゃねーよ」
ホールデンはティアに礼を言われるのが恥ずかしく、視線を
「……それでも私が助かったのは
ティアは
「ま、まぁ、今度飯でもおごってくれよ……そ、それじゃ俺もう行くわ」
ホールデンはそそくさとカースティの部屋に向かっていった。
「失礼します」
ホールデンは9階にあるカースティの執務室に入室する。その部屋はカースティの性格を現しているかのように、細かいところまで整理
「そこに座れ」
言われるがままにカースティの机の前にあった
「えっと……何か用ですか?」
声をかけてもしばらくは書類から目を
「今日呼んだのは昨日お前達が担当した案件についてだ」
「アレに関しては昨日ずっと寝てたんで、今から報告書を作ろうと思ってたんですが……」
「それなら問題ない。ヒューイットとフラワーズが昨日の内に作成したからな」
「そうなんっすね」
「まずはよくやったと言っておこう」
険しい表情のまま
「あ、ありがとうございます」
「あの
カースティの普段の性格を考えると望外の
「今回
「えっ、まじっすか?? ちなみにいくらですか??」
ホールデンは前のめりになり、がっついた。
「金額は……1500万ルードだな」
「ヒャッハー!!!」
ホールデンは立ち上がるとガッツポーズをとった。
「うるさい、黙れ。
その
「ウチはこの間も言ったが、実力至上主義だ。結果を出した
ジョン・ドゥ・インクはルードワルド全域で活動する非合法の
「まあ、そんな大物を
「やっぱり逃げられたのか……」
「バーンズが追ったのだろう? どうやら見失ってしまったらしい」
「あいつ、戻ってるんですか?」
昨日部屋に戻ったが、サリーの姿が見当たらなかったので、若干心配していた。
「昨日夕方に戻って来たが、そのあと
「深追いするなって言ったのになぁ……そういえば
「リチャードが経営していた質店から見つかった。奴は部下に金品の
「……その手があったか」
「うん? 何か言ったか?」
「いやっ、何でもないです」
リチャードの経営
「で、だ。ドハーティ。新しいスキルがここ数日で発現したみたいだな」
カースティは自分の
「この《
「登録ですか?」
「今のおまえには必要な事だと思うぞ」
「そうなんですか?」
「登録する事によって、お前の価値は
スキルを登録するのは強制ではない。スキルを開示するというのはそれ相応のリスクが存在するからだ。同じ
「わかりました。それじゃ今から行って来ます!」
ホールデンは感謝の意を
「──社長も人が悪い……」
そんな言葉が聞こえた様な気がしたが、特に気に留めなかった。
◆◆◆
「このクソ
ホールデンは
ホールデンがここまでキレているのには相応の理由があった。
《
それに合わせてジョン・ドゥ・インクの、契約社員を
中でも最高の条件が移籍金1億ルード、年棒2000万ルードであった。ホールデンは一も二もなくその話に飛びつく。しかし、いざ契約書にサインをしようとしたのだが、何度サインをしようとしても契約が成立しなかった。相手の
『
この場合、甲はホールデン、乙はラロケット・インクとなる。
要は、ホールデンの意志では10年間ラロケット・インクを
そして社長室に
ホールデンの顔は世界中のあらゆる負の感情を一手に引き受けた様に
「のんきに煙草なんて吸ってんじゃねーよハゲ!!」
「おいおいどうしたんだ? えらい元気じゃねーかよ。それに俺はまだハゲてねーぞ」
プカプカと
「うるさい! なんなんだよこれは!!」
勢い良く
「なんなんだよって言われてもよぉ、なんなんだ?」
「この内容だと俺はラロケット・インクに10年間
「おお、だからどうした?」
テンションマックスのホールデンとは違い、ヴィンセントは朝の
「だからどうしたじゃねーよ! ふざけんな! これじゃ、他に条件が良い所があってもいけないじゃねーかよ!」
「おお。そうだな」
「あああああ!
ホールデンは
「そもそも、俺に言わせれば
「そんな話俺は聞いてなかった!」
「そんな事言われてもなぁ。ちゃんとこの契約書にはこうして書いてあるし。俺はちゃんと読んでサインしたものだと思ってたぜ?」
「あんな
「大人なら契約書読んでませんでした、なんて事がまかり通るわけないだろ」
ヴィンセントは
「聞いてなかったからこの契約書は無効ですって言うのは、借金して契約書を読んでなかったからチャラですって言ってる様なもンだぞ」
「うぐっ……」
ホールデンからはうぐという言葉は出たがソレ以外の反論は全く出なかった。それに、あの時仮にこの件を知っていても契約以外の選択の余地は
「わかったみてーだな。それに悪い事ばっかじゃねーぞ。お前のスキル目当てで依頼が増えればお前にも金が入る事になる。ウチは歩合制だから頑張れば頑張った分だけ給料は増える。だから頑張れや」
ヴィンセントの言う事は1つも間違っていない。それを理解した所からホールデンは何も言う事ができなかった。
「ちくしょう……だせぇな俺……」
ホールデンの言葉は誰に聞かれる訳でもなく
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