第三章 Absolute Beginners⑦

〝風のすみ〟に着いた2人は、第4区画ミルドー村きの長距離移動技術ポータルのチケットを買うために並んだ。

〝風の住処〟は長距離移動技術ポータルスキルが発現している【魔術師】が主に技術者として店を管理している。馬で何日もかかるような場所でも、数秒足らずでついてしまうという人類にとってまさに革新的なスキルになった。とてつもなく便利なスキルなだけあって初期には犯罪に使われる事が多発したので、今はそれぞれの国が厳しく規制しているのである。基本的にはクートヴァス内だけの移動になるが、国外にいける長距離移動技術ポータルも存在する。ただし、国外といっても友好国である西のキースデーン、南のエスディメリの2国だけだ。北のヴェルセは国交断絶状態なので長距離移動技術ポータルでの移動はできなかった。


「第4区画ミルドー村往きの料金は450ルードになります。往復で買うと850ルードとお得になりますよ」


 チケットはんばいのスタッフが親切にもそう告げて来た。


「それでは往復でもらいます」


 メグはさいから1000ルードへいを出すと窓口に置いた。


「あっ、領収書はラロケット・インクでお願いします」


 しっかりと領収書をもらうメグを見てホールデンは意外だと思った。


「……何見てるのよ?」


「いや、意外だと思って。フラワーズってちゃんと領収書とかもらうんだな。俺はてっきり一国のひめ様だから、あの程度の額とか気にしなさそうだと思ったよ」


「……鹿にしないでよ。領収書をもらうのは社会人として当然でしょ。それに私はなお金を使えるゆうはないの」


(そういえば、金が必要だって言ってたよな。それとなんか関係あんのか?)


 ホールデンはそう思い至るとすぐに口に出した。


「フラワーズも何か金をめないといけない理由があんのか?」


「あなたには関係のない事でしょう。さっきも言ったけど、別に許した訳じゃないから。あくまでもビジネスライクな関係よ」


 ホールデンは聞いてこうかいした。なんというにくたらしい態度か。元を辿たどればホールデンが悪いのだが、たび重なる悪態にさらされ、ホールデンの小さいかんにんぶくろがパンパンになる。


「あー、へいへいそれはどうもスミマセンでしたね」


 先ほどよりはマシになったが、やはりウマが合わないというのは非常にやりづらい。だが、こうして協力態勢をとれるだけいいと思う事にした。

 2人は長距離移動技術ポータルに入ると一瞬でミルドー村にある〝風の住処〟についた。

 ミルドー村はミルドー山のふもとにある人口3000人程度の村だ。ミルドー山はクートヴァス領域内にある山の中で第3位の高さをほこっており、ミルドー山に登山する客でかくてきにぎやかな村であった。2人はひとまず情報を集める為に村の中で一番栄えているミルドー中央商店街に足を運んだ。商店街は想像していたよりも賑わっている。様々な出店が出ておりせいきようきわめていた。行きう人の多くは観光客の様だ。辺りからはうまそうなにおいが漂う。ホールデンはその匂いにつられ、足が勝手にその方向に向かっていたが、メグにあきれ顔で「後にしてくれない」と言われしぶしぶあきらめた。

 2人は手分けして商店街の店に聞き込み調査を開始したが、どの店主も口をそろえて盗賊団『あんきよの宿』というあらくれ集団がここ最近になってミルドー山のどこかにきよてんを張り、登山客をねらっているという話以上の情報を持っていなかった。


「なかなか有力な手がかりはつかめないわね」


「まあ最悪4人でミルドー山をくまなく探すしかないよな」


「何言ってるの? ミルドー山の総面積を考えたら1000人位動員しないと探せないわ」


「ですよねー」


 言葉にされるとほうも無い気持ちになる。

 2人は商店街の外れまできており、この周辺にはほとんど店が無かった。すると路地裏の方に1けん、できたばかりだと思われる建物の質屋があった。商店街の外れで、なおかつ路地裏という立地の悪さにもかかわらず、店内は多くの人で賑わっている。

 2人は最後にこの店に聞き込みをする事にした。看板にはリチャード質店という屋号がかかげられている。

 中に入ると店主であろう人物が会計に追われているので、2人は店内を物色する。質屋なのだから当たり前だが、様々な物を売っていた。衣類、ほうしよくひん、武具、酒類。そのどれもが市場価格よりも安い価格で販売されている。どうやらこの価格が人気のけつなのだろう。会計から解放された店主をかくにんすると2人はさつそく聞き込みに入った。


「おいそがしい所すみません。私はラロケット・インク外注受注クエスト課所属メグ・フラワーズです」


「少しお話うかがえないでしょうか?」


「はぁ……ウチになんのようです?」


「実はですね……」


 メグは今回のらい内容をよどみなく話した。店主は最初、いぶかしげな表情だったがだいに話を聞いてくれる。店主の名はリチャード・ケリー。ねんれいは35歳。最近この店を開店させたばかりだという。メグの話を聞き終えたリチャードは何やら思案顔になる。


「そういえば、数日前にこの村の外れにあるはいおくあやしい人物達が出入りしているのを見かけました。だけど、それがその盗賊団なのかわかりませんけど……」


「本当ですか? その廃屋のくわしい場所を教えて頂いてもいいですか?」


「ご説明するより、地図をおわたしした方がわかりやすいと思うのでお渡しいたしますよ」


 そういうとリチャードは奥に地図を取りに行った。

 ホールデンとメグは初めて有力そうな情報を得たと、少しだけい上がった。


「ようやくそれらしい情報を摑めたな」


「そうね。だけど、目当ての盗賊団じゃない可能性も大きいし安易に喜べないわ」


「まぁ、ひとまず何の情報もないよかいいじゃん。情報だけもらって帰るのもアレだしここの商品なんか買っていくか。もちろん経費で」


 ホールデンは自分のポケットの中のぜにを取ろうとし、数枚ゆかに落としてしまった。


「50ルードこう1枚と5ルード1枚、1ルード2枚、計57ルード落としましたね」


 そんな事をいいながらリチャードは地図を片手に奥から戻ってくる。

 ホールデンは小銭を拾い確認すると、彼が言う様に57ルードであった。


「すげー! なんでわかったんですか?」


「いや、【商人wealth】をやっていますとお金にはびんかんになりまして、特に私はほかの【商人】の方々よりも敏感で、小銭が落ちる音で何ルード硬貨か聞き分けられるんですよ」


 リチャードはにゆうな笑みをかべながらみような特技の事を話す。


「変わった特技ですね」


 メグがそう言うと、リチャードは地図を渡してきた。


「いやはや、いやしい特技でおずかしい限りですよ」


「俺はなんか好きですね、その特技」


 ホールデンが本気で感心している中、メグはリチャードに地図の礼を言うと、ホールデンをおいて外に出て行く。ホールデンはその後をあわてて追いかける。店をでるぎわにホールデンが何気なくつぶやいた。


「このお店の商品全部安いんですね」


 するとリチャードはいつしゆんけいかいした目を向けるが、ぐに笑顔になった。


「ウチは特別な仕入れ方法を取り入れていますので……」

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