第三章 Absolute Beginners⑤

 依頼書オーダーシートにはこうさいしてある。




依頼者  ダリア・アルジェント。ねんれい27。職業ジヨブ主婦The Serve

依頼内容 盗賊団に奪われた指輪のだつかん

がいよう   昨日、第4区画にあるミルドー山の林道を通行中、依頼者であるアルジェント夫人が盗賊団におそわれ金品をごうだつされる。その中に結婚指輪もふくまれており、他の物は諦めるので、思い入れが強い指輪だけ奪還して欲しいとの事

補足   以下アルジェント夫人の情報を元に推測されるであろう情報を記載。

   第4区画を根城としている新興の盗賊団『あんきよの宿』である可能性が高い。

   構成員数約40名。頭領不明。構成員の職業ジヨブ価値平均D

難易度クエストアツプ  5段階中1~相当

依頼額  85万ルード




「お前ら読んだか? ウチの外注受注クエスト課の基本的な事を説明する。めんどうだから1度しか言わねーぞ。だからちゃんと聞いとけー」


 ヴィンセントはふところからくしゃくしゃの煙草を取り出し、火を付けた。


「まずお前らが得られる報酬額インセンテイブについてだが」


 ホールデンは待ってましたとばかりに身を乗り出し、その話にくいついた。


すべての社員共通で依頼額の10%だ。今回の様に小隊チームを組んで依頼にのぞむ場合はその10%を個々のかつやくによって分配する事になる」


「って事は有力な情報や、敵のげき数で給料が変わってくるって事だよな?」


「そういうこった。なんだホールデン、金の話になったらぜん目の色が変わったな」


「当たり前だ。俺はなんとしてもかせがないといけないんだからな」


 力強く熱弁をるうホールデンにメグは冷ややかな目線を送る。


「話を続けるぞ。外注受注クエスト課がある会社インクには必ず依頼達成難易度クエストアツプが設定されている。例外はあるにしてもほとんどの会社インクは5段階で設定してあるはずだ。ラロケット・インクもその例にれず5段階で設定してある。ただし、5段階っていっても、それぞれの会社インクの力は同じじゃない。そうなってくると5段階評価でも各会社インク依頼達成難易度クエストアツプが変わる。大げさに言っちまうと、ラロケット・インクウチでレベル1の案件でも他社では5になるつーこともあり得る訳だな。これはどういう事かわかるかホールデン」


「……え、えっと……」


 元々ステータス値のけんすさまじく高かった訳でもないが、今は1という最低のステータスなので元々アレな頭がきわってアレな感じになっていた。


「そうか。ならメグちゃんどうだ?」


 ヴィンセントは別段それに失望するでもなくメグに話を投げる。


「はい。これはリスクのちがいからくるものでしょう。力がない会社インクだと他では簡単に達成できる案件でも、命をかけざるを得ない事になるかもしれません。だからといって金額をつり上げると仕事が来なくなるおそれがあるので、他社にたいこうするためにレベルが高くとも金額が安くなっていくと考えます」


 メグはよどみなく答える。


「流石はメグちゃん。その通りだ。で、そうなるとどういう事になる、サリー?」


「単価が上がらず会社インクの総力が上がらないという事が起きます」


 サリーも優等生然とした受け答えだ。

 ヴィンセントはうまそうにけむりを吸い、えんを勢いよくいた。


「そうだそうだ。で、そこから導きだされることがらはなんだ、ティア?」


「……結果的に良い人材がそのような会社インクに入る訳も無く、ずっと弱小のまま。ずっと弱小のままならまだいいかもしれない。ゆるやかにすい退たいして行き、最後にはたんしてしまう所が出てくる。なので今私たちが見せられたこの達成が容易な案件1つでもすみやかにかつ、確実にすいこうしなければ会社インクの信用にかかわるってこと」


かんぺきだ。伊達だてにおっぱいが大きいわけじゃねーな」


 ヴィンセントのセクハラ発言に対してティアは「下品なおっさん」とつぶやいた。


「今からお前らにやってもらおうとしているらいラロケット・インクウチ依頼達成難易度クエストアツプでいったら下位のものだ。だがお前らが思っている通り、この簡単な依頼1つでもラロケット・インクの看板を背負っている」


 ヴィンセントのふざけた調子はなりをひそめ、ごくに言い放つ。

『ラロケット・インクの看板を背負っている』その言葉は先ほどカースティも言っていた言葉だ。それほどまでに会社インクの信用が大事ということだろう。一同はしんけんにヴィンセントの話に耳をかたむけた。


「だからと言って命を簡単にけるなよ。依頼には想定外イレギユラーな事が往々にして起こる。自分達で無理だと判断したられんらくを必ずしろ。言っておくがこれはカースティが言っていた敵前とうぼうじゃねーからな。『ゆうもう』と『ぼう』を絶対にはき違えるな」


 ニカッと満面の笑みを浮かべるヴィンセント。

 短くなった煙草を灰皿にじ込むと、ゆるく1つ手を叩く。


「んじゃあ、装備品を武具管理課にいって受け取ったら早速仕事にでてくれ」


 それに一同しゆこうすると部屋を後にした。



    ◆◆◆



「こ、こんなじんな事ってあるかよ……」


 ホールデンはおのれの手にある装備品と格好を見て、気が重くなる。

 なぜ気が重いのかというと、理由は2つあった。

 それを説明するには時間を数十分前にもどさなければならない。

 4人は武具管理課に足を運んでいた。武具管理課はラロケット・インクに所属する全ての社員の武具を一堂に管理している課だ。武具はそれぞれの職業ジヨブによって装備できるものとできない物がある。例えば【剣士】は剣やナイフの近接武具を。【魔術師】であるならば武器の装備などできない。その代わり防具で魔力を高めるローブ等を装備する事ができる。それらをきわめて貸し出しするのが武具管理課の仕事だ。

 武具管理課のスタッフはティアにダガーナイフとローブを。サリーとメグに剣とよろいたいする。そしてホールデンの番になるとたんにスタッフはこんわくする。それはそうだろう。【遊び人】などという職業ジヨブに対して、何を支給したらいいのかわからないからだ。

 様々な形状の武器をわたされたが、どれも使用不可であった。最終的に使用可能になった装備は2つ。それを装備するとティアは無表情ながおという器用な笑い方をした。


「……ホールデン、あまり笑わせないで」


 サリーもいつものさわやかな笑みではなく、笑いをこらえられないといった笑みであった。


「ご、ごめん……ふふふっ……別に鹿にしている訳じゃないんだけどあまりにもその格好がおもしろくて」


「アンタにはしゆうしんとかきようってものがないのね。可哀かわいそうに……」


 メグは心の底からあわれみをめたこわいろで言う。

 そんな己の姿を鏡で見ると、そこには【遊び人】というか、道化師と言った方がしっくりくる男の姿が映し出されていた。上半身は男のあらあらしさを表現するかのようにはだか。下半身はあざやかなブルーのストライプがらのステテコパンツ。手に持つのは鉄でできたハリセン。どう見てもれつしん者でしかなかった。

 これならば私服の方がぼうぎよ力が上がりそうなものなのだが、どういった原理かこちらの方がステータスはじようしようするのであった。


「こ、これで外にでないといけないとか……ばつゲームじゃねーかよ……」


 三者三様の笑いをとった【遊び人】は、ある意味ではその職業ジヨブの職務を全うしていると言えなくもなかった。

 この格好でいる事が、気が重い理由の1つで、残りの1つはというと……

 時間は現在に戻る。

 その理由のげんきようが現在進行形で目の前にいるのである。

 メグ元凶はスタスタと第1区画の時計台広場をえて、国式会社インククートヴァスが運営している長距離移動技術ポータルを提供する店〝風の住処すみか〟に向かう。


「見ろよおい。あれは確か役立たずな固有職【遊び人】のホールデン・ドハーティじゃねーか? あいつ正気じゃないだろ。よくあんな格好で外を歩けるもんだな」


「ねぇねぇお母さん、あのお兄ちゃんなんであんな大きなパンツ穿いてるの?」


「しっ! 見ちゃいけません。いいぼうや? 坊やがいい子にしていないと将来あの変なお兄さんみたいになっちゃうから、いい子にしてなさいね」


 そんな社会の声を聞き、ホールデンの心は折れ、き進むメグに声をかけ会社インクに戻るとハリセンだけ残し、ステータスは下がるがいつもの格好に戻した。


「……何見てんだよ」


「…………」


 冷ややかな目線でホールデンをくメグに文句を言った。

 そもそもなぜ2人で行動を共にする事になったかというと、先ほど会社インクから出ようとした時にヴィンセントが現れ、「4人で同時に動くよりも、2人1組ツーマンセルで行動した方が効率的だ」という事で強制的にティアとサリー、ホールデンとメグの組み合わせになった。この組み合わせにティアは静かだが強いこうをヴィンセントにした。

 いわく「私にはホールデンをかんする任務がある。なのでへんこうを要求する」との事。

 しかし、ヴィンセントは「これは決定こうだ。異論は認めねぇ」と断固たる発言をするが、なおも食ってかるティアにこの組み合わせの意図を説明した。前衛、中衛である【勇者】のサリーと後衛の【裁判官】はせんとうになった時に良い組み合わせらしい。対して【魔術剣士】は全てのレンジに対応している非常にバランスのいい職業ジヨブなので、全くの未知数である【遊び人】と組ませるのがベストという非常に理にかなった組み合わせだそうだ。それを聞いたティアはぐぬぬといったなぞの声をあげると、それ以上何も言わなくなった。

 そうして二手に分かれて依頼を開始したのである。

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