第一章 Despair Came Knocking④

「これより本年度の授職の儀レンダージヨブを開始する」


 全ての人間がそろうと職業庁長官が始まりを告げる。

 今年度の新卒者の人数は約8万人。平均6万人位なので今年は多いと言える。

 この授職の儀レンダージヨブにはクートヴァスにあるほとんどの会社インクのスカウトマン達が見に来ている。しかし人数が膨大なので1人1人見ていたら時間がかかりすぎてしまう。なので必ず最初に、その年のステータス値上位100名がその場の全員が見ている前で下位より順に職業ジヨブあたえられる。そうする事によって主要な人物の職業ジヨブあくする事が容易にできると共に、学生達はその上位100名の中に入るためせつたくする様になる。100位以下は、一斉に職業ジヨブを与えられる。

 授職の儀レンダージヨブが始まり、順調に5位まで終わる。やはり、10位に入るとスカウトマン達の視線も熱を帯びてくる。


「次は第4位メグ・フラワーズ」


「はい」


 せいれんな声を張り、メグ・フラワーズはとうだんする。

 長官がミネルバの羽根ペンで、メグの履歴書ウオークオブライフに最初の職業ジヨブを刻みだす。やがて書き終わると、とうえいにメグの天職ライズジヨブとステータスが映され、全員に公開される。



 職業ジヨブ魔術剣士The Dual

 ステータス 力 870 防 466 速 654 けん 545  1043

 通常スキル 《魔術剣技マジツクソード付随させるは炸裂エクスプロージヨン

 効果  斬撃に爆発系魔術を付与する

 発動条件 じゆもんえいしよう

 詠唱文[一のかいは悲しみをともなう、百万の破壊は道を切り開く]

 職業ジヨブ価値 AA



 公開されると会場がどよめいた。

【魔術剣士】は職業ジヨブ価値AAの上級職。本来であるならば【剣士】と【魔術師】をきわめてから初めて発現する職業ジヨブである。天職ライズジヨブとして上級職が発現するという事は今後、ほかの新卒者達に果てしないリードを得たという事だ。

 メグはその結果をみても特に表情をくずさず、静かに元の席にもどった。


「……上級職。さすがノア・フラワーズの血族」


「うん。そうだね。ノア・フラワーズの娘ならなつとくだ」


 サリーもティアと同じ様な意見だった。周りにいた全ての人がそんな内容を話していた。


「……つーか、だれの子とかって関係なくねーか。それってあの姫さん自身について誰も評価してない気がするけどな」


 ホールデンは2人の呟きにじやつかんいらつきながら否定的な意見を言う。


「ホールデン君の言わんとする事はわかるけど、やっぱりノア・フラワーズの娘として生まれたからには付きまとう宿命みたいなものだと思うよ」

 そうサリーはしようかべながら語る。


「それほどノア・フラワーズはクートヴァス内どころか、このルードワルド全域においてその名をとどろかせている。それは君も知っているだろう?」


国王The Subdue Persons】ノア・フラワーズ。その名を知らない者はこの世界に存在しないであろう。この世界では、王はしゆう制ではない。先代の王が死ぬと別の新たな者が【国王】の職業ジヨブを発現するのだ。その選別に関しては諸説あるが、だいな功績を上げ、たみの尊敬を集めた者がなるけいこうがあった。ノア・フラワーズもその例外にれず、数々のかがやかしい功績を挙げていた。最も知られているもので数十年前に起こったクートヴァスが北の国ヴェルセにめ込まれた時の話。第10から第2区画までせんきよされ、ちゆうすうである第1区画も落とされそうになった時、ノア・フラワーズは【勇者The Brave】の上位職業ジヨブ英雄The Matchless Warrior】を発現させ、1人でヴェルセ軍を退け、その後の勝利に大いにこうけんした。

 その時に救った命は万を優にえる。なのでクートヴァス内でのノア・フラワーズという名は特別視されている。


「だからって高名な親父おやじと、あの姫さんがあの立ち位置にいるのは関係ないだろ。あのステータスになるには相当な意志と、努力が必要なんだ。その全てを血筋の一言で片付けてしまうのは、俺ならじよくされたって思うね」


 不快をかくさないホールデンに2人はおどろく。


「確かにホールデン君の言う通りだ。さっきの発言は軽率だったかな。ごめんよ」


「俺に謝っても仕方ないだろ。まあ俺の事じゃないからどうでもいいけどさ」


「……じゃあなんでそんなにおこってるの?」


 ティアはごく当然の質問を投げかける。


「いや……まぁ……」


 ホールデン自身、親の事で苦労した過去があったのでつい熱くなってしまった。

 そんなホールデンの様子を見たサリーは気をかせて、じようだんめかした事を言う。


「あぁなるほど! ホールデン君、メグ姫みたいな子が好きなタイプだったんだね」


「はぁ!?」


 ホールデンは変な声を出してしまう。


「……そんな好みとか好みじゃないとかくだらない。男の子はせいよくの固まりでしょう? だったら私を好きにした方がはるかに効率的だと思う。もし、ホールデンが本気であのお姫様とどうこうなりたいのであれば、かなりの障害が待ち受けているのは確実。その点、私ならすぐにでもだいじようだから。なんならこの後、こんぜんこうしようする?」


 ティアはそういうと、自分の胸をホールデンのうでに押し当ててくる。


「そもそも、俺は一言も好きだなんていってないからな! そんでティア! 毎回毎回お前の話はやくしすぎなんだよ!」


「……飛躍? 全然そんな事ないと思うけど。みんな最終的には同じことをするんだから、間の行程を省くってすごく合理的じゃないかな」


 真顔でそんな事を言ってくるティアに、頭痛とため息が同時にこみ上げて来た。


「お前ってやつは……」


「次は第3位 サリー・バーンズ」


 そんなやり取りはサリーを呼ぶ声で中断される。


「よろしくおねがいします!」


 長官の前に立つと履歴書ウオークオブライフけんげんさせる。



 職業ジヨブ勇者The Brave

 ステータス 力 980 防 876 速 1098 賢 988 魔 590

 こうじようスキル 《天上の意思ゴツドブレス

 効果 対象者はあらゆる状態異常より復帰する

 職業ジヨブ価値 AAA



「──急いで会社インクれんらくしろ! サリー・バーンズを何が何でもとるぞ!」


「──金に糸目をつけるな。ちがいなくウチの会社インクに入れろ」


「──なにぃ! すでに決まっているだとぉぉ!」


 会場は先程よりも大きな声でさわがしくなった。

 天職ライズジヨブとして【勇者】を発現するのは非常にであった。以前に天職ライズジヨブとして発現した者は現【国王】の、ノア・フラワーズ。そう考えれば、今のこの騒ぎは当然と言えよう。


「いやぁ、なんかすごい騒ぎになっちゃったね」


 本人はそんなきようそうの場に似つかわしくないゆるやかなみを浮かべ、席に戻ってきた。


「早まった事したな。先に就職決めなければけいやく金、年棒ともに思うがままだったのに。だいぶ損してるぞ、お前」


 ホールデンは心底哀れむ様にサリーに声をかける。


「ははは。けどまぁ僕は自分の能力を、尊敬できる人の所で発揮して、それを評価してもらいたいんだ」


「返しがさすがすぎて何にも言えないわ」


 ホールデンはいつさい理解できないとでもいう表情と口調であった。

 場の熱が冷めないうちに、長官は次を呼んだ。


「第2位、ティア・ラブ・ヒューイット」


 ティアは無言で立ち上がり、静かにステージまで歩いて行く。



 職業ジヨブ裁判官The Adjudicators

 ステータス 力 490 防 435 速 678 賢 1590 魔 981

 通常スキル 《断罪の刻ジヤツジメント #1》

 効果 対象者1名の罪をばつする。罪状は罪に応じて術者の任意にて決定する事ができる。

 発動条件 呪文詠唱

 詠唱文[一の罪は、千の善行にてあがなう事ができるのだろうか]

 職業ジヨブ価値 AA



 先程のサリーの騒ぎよりは少ないものの、かんたんの声がそこかしこで上がった。

 今年度ここまで出た上級職は7つ。例年は3つ、多くても5つといったところだ。今年は非常に豊作といえる。スカウトマン達はうれしい悲鳴を上げている事だろう。


「……サリー・バーンズのせいで私の上級職がかすんでしまった」


 ティアは行った時と同じ様にゆっくりと自分の席に戻るとぐに、ホールデンしにサリーにじんこうの声をあげた。


「ティアさん、大丈夫だよ」


 そんな険のある声をサリーはいつもの笑顔で受け流した。


「何が大丈夫なの?」


「だって、この後はホールデン君がひかえているんだからね。僕なんかを軽々超える職業ジヨブを発現するに違いないよ」

 

 サリーはそういうとホールデンの方に顔を向けた。

 それについてはティアも否定はしないらしく、ホールデンの方に視線を向ける。


「まぁまぁ。期待しても、期待以上の結果がでてしまうと思うけどな」


 そういうとホールデンは立ち上がった。次はホールデンの番だがまだ呼ばれていない。実のところホールデンは待ちきれなかった。このしゆんかんの為に学生時代のすべてをけておのれきたえあげたのだから、それも当然と言えよう。

 ホールデンは必ず上級職が天職ライズジヨブになると確信していた。自分が上級職を顕現させたら、契約金もけたが変わるはずだ。想像するだけで表情筋が緩むのがわかる。


 その時はついにやってきた。

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