05.
「はじめまして、土御門秋晴と申します」
「はぁ……」
なにがなんだか説明もないまま、りゅうやは事務所の中へと通された。不安そうな彼の傍に立とうとすると、土御門の追い払うように手を振られる。
「西條さん、蒼が休憩に入れないので変わっていただけますか?」
「…………はい」
西條と彼にそう呼ばれて、なにやらゾワゾワしたものを感じる。成美は、腕をさすりながら事務所の外へと出る。
先程とは打って変わり、シンとした店内にレジに立つ蒼の元へと向かう。
「どうかされましたか?」
「蒼さん、休憩ですって」
「休憩……そうですか、わかりました」
休憩という言葉がまだ慣れないのか、蒼は微妙な表情をしながらも静かに事務所の奥へと消えていく。これは、成美の憶測にすぎないが、彼の場合休憩というのは言葉のみで事務所の中でも土御門に使われているようなそんな気がする。
土御門と蒼の二人にはオーナーと従業員以外の関係があるような気がするのだ。
「……さて、品出しでもしようかな」
先程の混みようでは、店内の品も減っているだろう。事務所にある品物が入っている箱——オリコンを取りにいこうと事務所の中へと入った。
「あなたの名は?」
普段より優しい口調の土御門の声が聞こえ、オリコンに触れていた成美の手はピタリと止まる。
「
ガラの悪そうな、いわゆる不良と呼ばれる人たちの中心となってまとめ、慕われているりゅうや……もとい龍也の悩みとやらがどうしても気になった。それはちょっとした好奇心、けれど聞いたことを少しだけ成美は後悔する。
「母親を……バイクで
「なるほど……見つけて、あなたはどうしたいのですか?」
土御門の質問にゴクリと成美は喉を鳴らす。いったい彼はなんと答えるのだろうか。成美の脳内にチラつくのは優しく手を差し伸べてくれた龍也の顔と不良達と一緒にいる時の楽しそうな表情だ。
「母親は今、病院で苦しんでいる。轢き逃げしていったやつらに同じかそれ以上の苦しみを与えたい」
地を這うように低い声で、成美は思わず振り返る。ここからでは、龍也の後ろ姿のみしか見ることができず彼が今、どんな顔をしているのかは、わからない。
反対に土御門の表情はよく見えた。ニコニコと営業スマイルから一転、険しい表情で龍也を見つめている。
「ここは、やってきた者たちの悩みを聞き解決へと導く仕事もしています。春日井さんが報復を望むのならそれも可能です……ただし」
「ただし?」
「人を呪わば穴2つ。他人を陥れたあなたは死後、地獄におちるでしょうし、こちらとしても依頼料はいただきます。あなたが失うものは大きいでしょう……それでもやりますか?」
「…………あぁ」
龍也は、ゆっくりと頷いた。
「俺自身が地獄に行こうがどうなろうが構わない。ただ、ヤツらだけはゆるせない」
「そうか」
龍也の言葉を聞いて、土御門の口調が冷めたものに変わった。営業用の態度ではなく、成美達に普段つかっているソレに成美も龍也も驚いていた。
「お前のようなものに、敬語を使う意味はない。いつもなら出ていってもらうのだが……アレの知り合いらしいからな特別に依頼は受けてやろう」
「…………アレって、成美ちゃん?」
いつから成美に気づいていたのか、土御門はオリコンを出している最中の成美を指差した。立ち聞きしていたのが2人にバレ、成美は気まずげに目をそらす。
「だからお前は趣味が悪いんだ」
「うっ…………すみません」
「聞いていたなら、成美。コイツにふさわしいと思うアヤカシ缶を3つほど持ってこい」
「へ?」
「ふさわしいものを1つ持ってこれたら、立ち聞きをしていた罰は与えんが、間違えたら……わかるな?」
後悔した。
悪い顔で笑う土御門を見て、成美は立ち聞きしていたことを酷く後悔した。
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