04.


 夕暮れどき、地平線に太陽が隠れていくのを眺めながら成美は小雪に頼んで"カクリヨ"へと導いてもらう。目の前には白い空間と一軒のコンビニ。最初こそ気づいていなかったが……というより視えなかったせいか、お客さんなんていないと思っていた。けれど、目を凝らしてみるといるのだ。うじゃうじゃとアヤカシ達が……。


「……よく入れてたものだよ」


「まぁ視えなければ、いないのと同じですわ」


「……そういうもん?」


「はい」


 もしかしたら、小さいものなら気づかないうちに踏んでしまっているかも。そう思うと今まで視えなかったことを申し訳なく思えてくる。成美は、心の中でどこの誰だかわからないアヤカシに謝りながら、コンビニの中へと入った。


 すみません、すみません、とアヤカシ達の間をくぐり抜け事務所の中へと入る。ホッと一息つくと土御門が悠々と座っていた。


「…………あの、お店混んでますけど」


「あぁ、成美。おつかれ」


「お疲れ様です……ってそうじゃなくてお店混んでますけど行かなくていいんですか?」


「…………俺は今ものすごく忙しい」


 そういう土御門のデスクには、PCも開いていないしプリンミルクとかかれた飲み物がそこに置いてある。


「あなたも飲むんですかソレ、それに忙しいそうには全然見えませんが?」


「……お前が早く着替えて行けばいいんじゃないか?」


「それもそうですね……」


 土御門に聞いたのが間違いだった彼が動くわけないのだと狭いロッカーを開け、荷物をムリヤリ押しこむ。

 白と黒の制服は今着ている服の上に着るだけなので、スカートで来なければ着替える心配はない。


(そういえば、この制服が白黒なのは何だっけ……たいいんそうきょくず? いや、たいきょくず……をモチーフにしてるとかどうとか)


 陰と陽がどうとか、六芒星がどうとかバイト初日に色々説明されたが成美には難しすぎてよくわからず、話の大半は聞き流していた。もし新しいバイトが来ても成美がソレを教えることは出来ないだろう。


(まぁ、知っててもなんの役にたつのかわからないけど)


 パタン、とロッカーを閉めて店内が見える防犯カメラの映像を眺める。いまだ溢れかえりそうなほど沢山のアヤカシ達の中にポツリと佇む見知った人物が見えて成美は驚いた。


「えっ!」


「なんだ、成美。お前もプリンミルクを飲みたいか?」


「飲みません! それよりカメラ見てください」


「……——客か」


 カメラを見て彼の瞳がキラリと輝き、口角がニヤリとあがる。土御門は蛇のようにスルスルと店内中央へ移動すると、パン、パン、と2回柏手を打った。


「客だ、それ以外はすみやかに立ち去れ」


 土御門の低く涼やかな声が響く。アヤカシ達のざわめきの中から「もう」とか「また」の言葉がきこえてきたが、彼らはゆっくりと消えていった。


 ポツリと残された人物は、呆然と辺りを見回している。


「いったい、なにが? さっきまでいた変なのは?」


 そのつぶやきに大きく目を開かせて成美はその人物を凝視した。


「視えてたんですか、りゅうやさん」


「…………成美ちゃん」


 佇む人物、りゅうやは成美の姿を見つけるとホッと安堵してみせたと同時に微かな不安に瞳を揺らせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る