05.
真っ白な光に包まれ、あまりの眩しさに目を瞑る。だんだんと光がおさまっていくのを感じながら、ゆっくりと成美は目を開いた。
目を開いて、成美は驚いた。視界にうつったのは、田んぼにポツリと建っているこの町に一軒しかない大手コンビニ。コンビニの後ろには愛宕山がみえる。
いままで地元から電車で30分はかかる場所にいたはずなのに成美がいまいるのはその地元だ。
「……どうして、夢だったんじゃ?」
「あら、夢だと思っていらっしゃったの」
どこからか声が聞こえたと思ったら、制服のポケットからひょこりとソレは顔を出した。
ダイヤモンドの瞳と目が合う。
「あなたは、さっきの」
「私、小雪と申します。これから少しばかりのお付き合いになると思いますのでよろしくお願いいたしますわ」
小雪はニコリと上品に笑うと器用にポケットから成美の肩へと移動する。着物の乱れをなおすと静かに座った。
「まだ幼いながらもアレの言葉をよく受け入れること、と関心しておりましたのに、夢だと検討違いなことを考えていただなんて……少しがっかりですわ」
手で頬をおおいながら、ふぅ、と小さくため息を吐くと彼女の小さな口からキラキラとした雪の結晶がうまれた。
少しの寒気に、成美はふるり、と体をふるわせる。
「普通の人なら、あんな出来事は夢だと思うよ。道端で寝てるなんてことなくてよかったとは思うけど」
「ふふふっ、人間にとってはそうなのかもしれませんわね」
「……夢じゃないことはわかったけれど、なんでアソコに入った場所と出てきた場所が違うの?」
「……それは、私にはわかりませんわ。アレに聞いてくださいません?」
くすくす、とおかしそうに小雪は笑う。なんとなくバカにされたような気がして、成美は彼女を掴むと元のポケットへと押し込んだ。
小雪はポケットの中でしばらくうごめくと、可愛らしい息をはいて顔を出す。
「なにをなさいますの!」
「家に帰るので、そこで大人しくしていてください」
「だからってこのような扱いをしてもいいと? 謝りなさい」
「あー、モウシワケゴザイマセン」
「少しも謝罪の気持ちが伝わってきませんわよ! あ、ちょっと聞いてますの成美」
わぁわぁと騒ぐ彼女を再びポケットの中に押し込み、ポケットのボタンを閉める。それでも歩いている間、彼女の声は止むことはなかった。
***
ネオンの光が流れていくのを車窓から眺めていた。見知った街の風景が見えてきて、あと少しで家に着くのだと結衣はホッと息をはいた。
「まだ、まっすぐ?」
「はい、今日はすみません」
「いやいや、妹に友人のこと頼まれたら助けないわけにいかないからね」
気にしないでと夏生は言う。優しい兄で気をきかせて2人っきりにしてくれた友人が少し羨ましいと結衣は思った。
(だって、わたしの兄は……)
結衣の脳裏に、彼女とは似ても似つかないほど暗い印象をもつ男性の後ろ姿が浮かぶ。
「……結衣ちゃん?」
「は、はい!」
ハッと我にかえり、隣にいる夏生を振り返る。彼は申し訳なさそうに笑うと前を指差した。
「驚かせてごめんね。あの信号もまっすぐ?」
「あ、あの信号は左です。すみません」
「いや、教えてくれてありがとう」
カチカチとウィンカーの音が車内に響く。その静けさを隠すように夏生は、ラジオをかける。明るいMCの声と流れるリクエストされた曲をBGMに2人を乗せた車は、夜の街を走った。
「今日はありがとうございました」
「いいえ、結衣ちゃんの役に少しでも立てたなら嬉しいから」
また何かあったら呼んでねと言い残し、夏生は車を走らせた。結衣は車が見えなくなるまで見送るとホッと息を吐いて玄関を開く。
「きゃあっ!?」
開いたその瞬間、暗いなか誰かが目の前に立っていて結衣は、つい悲鳴をあげてしまう。目を凝らしてみると、立っているのはボサボサの黒髪にメガネをかけ、灰色のスウェットを着た結衣の兄だった。
「なんだ、
「……いまのやつ、誰だ」
普段は抑揚のない声で喋る丞のわりには、その声に少しばかり怒りの感情がみえ、結衣は訝しげに見つめながらも答える。
「友達のお兄ちゃん。夜遅いからここまで送ってもらったの」
「……そうか。気をつけろよ」
そう言って丞は、階段をのぼり自分の部屋へと帰っていく。なにかブツブツと呟きながら、親指の爪を噛む彼の姿はとても異様なものにみえた。
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