位階上昇

第32話

「ひどくあっけない幕切れですね」

「確かにそうですね。というか、彼女の対処が迅速すぎですよ。」

 今回の件を観察していた儘とは、いつもの空間にて作業をしつつ横目で事の顛末を見ていた。

「確かに、魔術解放アナウンスがなってあのような考えに到り、情報を収集して行動に移す。言葉にするのは簡単ですが、実行するとなるとそう簡単なものではないですよ。」

「そうなんだよねー、彼女・・・、こちらに引き込むタイミングを早めようか。」

「いつ頃で?」

「今。」

「今ですか?」

「そそ、こちら側に引き込んで、生命創造業務に専念できる環境下に置こうかと。」

「随分と思い切った判断をしましたね。」

「そう?今の彼女の成長スピードなら、近いうちに同じ判断を下すことになっていたと思うよ。それが今回の件が切欠になったってだけだと思うんだよね。」

「確かに、彼女は私たちの予想を上回る速度で成長していました。」

「でしょ、だから、いいタイミングだと思うよ私は。それと話は代わるけど、ちょっと今回彼の登場で思うところがあってねー、システムに大規模な変更を加えようと思う。

 仕様に関してはすでにある程度形にしてあるから・・・、テスト用の空間に適用させておいて。それで、こちら側に引き込んだ彼女に、以前と同じようにテストをお願いしよう。」

「解りました。ではそのように動きますよ。」

「頼むね。」


※※※


「母様!」

 ディプテラは帰って来た彼女に向って突進する。

 ぷみょん、

「あ、ごめんなさい。」

「ふふ、良いのよ心配かけたのはこっちだしね。」

「ふふふ、母様~。」

 彼女の体にめり込む形になりつつ甘えるディプテラ。

「母様、お帰りないさい。」

「えぇ、ただ今。」

 ペスモルトゥムは、彼女が無事に帰ってきたことに安堵しつつ声を掛ける。

 そこに現れたのは黒髪の青年。創世者儘。

「いいかな?」

「なんでここに創世者が?」

 ディプテラは疑問の念を飛ばしつつ、彼女から離れていく。

「あー、私ね向こうの・・・、管理者側になることになったのよ。」

「そうなんですか、母様。」

 不安げな様子でペスモルトゥムがその言葉に対して声を出す。

「短い間だったけど、楽しかったわ。でもお別れよ。」

「いや、母様!私も一緒にいくっ。」

「それは無理だね、君たちでは足りなさすぎる。」

 儘は簡潔に答えを伝える。

「なら、一緒に行けるだけの力をつけるわ!」

「えぇ、そうねいつか一緒になれるといいわね。」

 その後、ぺスモルトゥムも交え短時間であるが、別れの言葉を交わしていく。

「母様、急な話であまり実感というものが無いのですが・・・、その、管理者への到達おめでとうございます。」

「母様っ、絶対にそちら側にいきますからねっ。」

「では、そろそろ行こうか。」

 儘の言葉を聞きディプテラは、意識を彼に飛ばす。

「母様に何かあったらただじゃ置かないから・・・。」

「解っていますよ、むしろこれから彼女は最も安全な場所に行くのです。安していいですよ。」

「2体とも、楽しかったわ・・・。さようなら。」

 彼女の言葉を合図にして、儘は彼女と自分を管理者用の空間に転移させた。


※※※


「では、これからあなたの魂の位階を第4位階光子から第3位階魂力で作られる魂に上昇させ。それと同時に君の中にいる存在を剥離し同様に位階を上昇させます。

 位階上昇時は意識を落とすので、痛みは感じないので安心してください。」

「あ、痛みってやっぱりあるんですか。」

「それはもちろんです。魂を構成しているエネルギーを変換するのですから、想像を絶する痛みですよ。なので、意識をこちらで制御して落とします。」

「解りました。やって下さい。」

(思い切りがいいですね。)

「では、始めますよ。」


※※※


 そこには、薄い青い色をした魔核のなくなった一体の体積が50㎤程になっているスライムと、赤みがかった褐色の肌、セミロングの緩く波打った真っ赤な髪、透明感のある空色の瞳、ほっそりとした体躯をもつ女性がいた。因みに裸である。

 その女性は徐にスライムを愛おし気に持ち上げる。

「あの~、私スライムのままなんですが・・・。」

「母様はそのお姿が一番かわいいです。」

 位階が上がっても姿が変わらなかった母様を抱きしめ、ニコニコ笑顔の彼女である。

「そりゃね~、変化させたのはあくまで魂のみだから。あ、因みにそっちの女性の身体は、剥離した後魂の状態だと不便だと思ったからね。私からのプレゼントってことで。」

 彼女は母様のすべすべの肌をその全身を使って堪能している。

「なるほど、それはいいでしょう。体は自分で用意します。」

「え~、母様そのままがいいですよ!」

「・・・、なんか精神年齢下がっている気がするのですが。」

「あー、それね。体にある程度引きづられてるね。」

「そうですか・・・。貴女はいつまで私で遊んでいるつもりですか?」

「遊んでるつもりなんてないですよ。魅力的な母様の我儘ボディがいけないのです。」

 フンスと、鼻息が荒く言葉を紡ぎながらも、フニフニし続ける彼女。

「早急に体を用意しないといけませんね。」

「まあまあ、体を持ったばかりなんだしね。」

「あなた、楽しんでるでしょ?」

「ソンナコトアリマセンヨ。」

 母様は深い溜息を吐く。

「それで、今後君たちには私たちと一緒にこの世界の管理に携わってもらうのですが、実際に管理を始めてもらう前に真名を授けます。」

「真名ですか?」

「そうです。真名です。私たちだけであるならば特に問題は無いのですが、この世界以外にも管理者権限を持つ存在は、沢山いますからね。その方たち向けの識別用です。この真名は、アダム様とエヴァ様に届け出ますので、あなた方の魂に刻むことになります。」

「アダムとエヴァって確か神様でしたよね、母様。」

「そうね、正確には最初の真なる人間よ。」

「君の母様の言う通り、正確には最初の真なる人間が正解だけど、その力は私たち管理者を遥かに凌ぐからね、神様という考え方でいいと思うよ。では、君たちに名前を刻もうか。」

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