第31話

 彼女はまず確認できるところから手を付けていく。彼女の保有する念話レベル50という、通常では到達しえない強力なスキルによって、この世界全域の彼女が直接生み出した、子供たち全員を繋げる。


「皆さっきのアナウンスは聞こえたかしら?」

「!はい、母様聞こえております!」

「聞こえています」

 凡そ100にも及ぶ思念が彼女に届く。

「それでね、皆に確認したいことがあるのよ、最近変な個体を見かけていないかしら?」

 彼女と繋がった個体の中で複数のマザーアメーバ達から報告が上がる。

 その情報を集めた結果・・・、「当たりね。」

「そう、ありがとう。」

「いえ、母様のお役に立てて何よりです。何かあればいつでも声を掛けてください。」

「えぇ、気兼ねなく頼むから頼りにしてるわ~。」

 この世界の一辺は10㎞に及ぶが、その距離もお構いなしに複数の個体と同時に情報をやり取りしていた彼女は、今回の念話にて得た情報を基に行動を開始する。

「2体とも~、そういうわけだからちょっと行ってくるわね。」

「母様、私たちも連れて行ってください。」

「それは無理かな。これから行くのは水中だから。」

「・・・。」

「でも、母様一人で行かせるのは・・・。」

 動を振るペスモルトゥム。

「あんたはそれでいいの?」

「邪魔になるだけだ。」

「・・・、それでも。」

「今回は気持ちだけ、また機会があったときに力がついていたら、一緒に行きましょう。」

「はい・・・、母様。」

 不承不承と肯定の言葉を紡ぐディプテラは、レベルを上げるために畑の近くに移動する。

「母様。」

「大丈夫、危なくなったらちゃんと逃げるから。」

「はい、お待ちしています。」

 ペスモルトゥムもレベルを上げるために移動していく。

「じゃ、行きましょうか。」

「はい、母様。」

 彼女はかつて自分が居た湖へと向かう。


※※※


「案内ありがとうね。」

「はい、ありがたきお言葉。」

「ここからは私だけで行くから、戻って頂戴。」

「はい、母様自身の身を第一にお考え下さい。」


※※※


「さて、あの子ね。」

「母様あれは何なんでしょうか?」

「さあ?とりあえず念を掛けてみましょう。」

 彼女達の前では、分裂しては捕食し分裂しては捕食を繰り返すアメーバが居た。

「初めまして。」

「あ?」

 彼は衝撃を受けた。目の前にいた自分よりも大きいスライムのそのうまそうな体を見て。


 これは・・・、見ただけで分かる、美味そうだ。


―――


触手打2連撃攻撃力80がヒット

完全魔物は12のダメージ


―――


 なに?

 彼は初めて一撃で死なない存在を前にして困惑の感情を抱く。

「結構痛いわね」

 今彼女のHPは20/32となっている。

(母様。)

(解っているわ、後2撃受ける前にこの子を殺します。)

「いきなり攻撃するなんてひどいわね!」


―――


触手打2連撃攻撃力108がヒット

マザーアメーバは68のダメージ

マザーアメーバは死亡した


―――


レベルが10上がりました。


―――


 困惑をした隙をつかれ彼女の触手打2連撃を受けた彼は、物言わぬ死体と化した。

「あら?一撃で死んじゃったわ。」

「正直拍子抜けです。この個体がほんとに今回の件に関わっていたのでしょうか?」

「う~ん、何とも言えないわね~。今までの子とは違って、私に攻撃を加えてきたのはこの子が初めてだけど・・・。」

「もう少し対話を試みた方がよかったのでしょうか。」

「う~ん、あまり長引かせて死ぬなんて嫌だし。これで良しとしましょ。」

「そうですね。今後も情報を集めていくしかないでしょう。」

「でも、レベルの上がり具合からするとそれなりに高レベルの筈なんだけどね~。」

「ふ~む、確証に至る情報はないが、限りなくそれらしい相手ではある、といったところですかね。」

「ま、とりあえず帰りましょう~。」

 彼女はこの結末に拍子抜けしてしまいながらも、安堵の感情を抱いた。

そして、何事もなく子供の下に帰れる事に喜びを感じながら、2体の下に帰っていった。

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