カステルタールズ紀

弱肉強食

第25話

 1辺が10㎞、体積にして一千㎦になるこの小さな世界で、現在最も反映しているといえる種族はアメーバだろう。

 現在彼らの生息エリアは湖に限られているが、最近地上で活動できる種族百足が彼女によって生み出されたため、地上で活動できる様になるスキルが幾つか解放されている。

 これらのスキルを取得したら、彼らの行動範囲は増えて行く事になる。

 これから語るお話は、そんな彼らアメーバのとある個体にスポットを当てて行きたいと思う。


 第四世代アメーバコロニーにて、マザーアメーバから新しく分裂した個体がいた。

この第四世代のコロニーで、彼女の眷属スキルの影響はすでになく、一個の確立した生物群として日夜自らの生存を掛けて活動をしている。

 そんなコロニーで新たにマザーから分裂した彼のステータスは・・・、


―――


レベル1


種族

アメーバ1


職業

キャリアーレベル1


スキル

成長スキル

捕食レベル1

細胞分裂レベル1


生活スキル

念話レベル1


眷属スキル

レベル注入レベル1


生命力1

魔力1


―――


となっている。これは全てマザーから分けられた力ではあるが、種族や職業等によりすでにキャリアーとして働いていけるだけの知識は持つに至っていた。


「初めまして我が子よ、あなたの役目は理解していますね。」

「・・・」

「どうしましたか?」

「いえ、何でもありませんマザー。問題なく私の役割を把握しています。」

 念話を通して会話を紡ぐ2匹のアメーバ。マザーは何か違和感のようなものを感じながらも、それに対して何をするでもなく作業的に会話を熟していった。

 しかし、今回生れた存在は今までの個体とは異なり、自分の役割というものに対して疑問を持ってしまっていた。


 私はキャリアーとしてマザーより分裂して生まれた存在だ。これは、与えれた力によって把握させられている。しかし、この与えられた役割のみを熟せばいいのだろうか・・・。


 彼は疑問に思った、自分の与えられた役割だけを熟すことについて。

 彼は考える、どうすればこの疑問を解消することだ出来るのかを。


 とはいえだ、このままでは何ともし難い。当面はキャリアーとして仕事をしていこう。


 彼のような存在は、極少数ではあるがアメーバの中に生まれつつあった。しかし、その殆どは疑問に対して答えを見いだせず寿命を迎えてその命を散らしていた。

 キャリアーはその仕事の性質上なかなかレベルが上がらないからである。

いや、レベル自体は上がるのだが、そのレベルを常に他者に分け与えているためにレベルが常に低いままなのだ。

 ファーマーとして生まれてきた存在は、レベルこそ上がっていくもののその作業量に忙殺されてなかなか疑問の解消の為に時間が取れない内に、寿命を迎えることになってしまっている。

 マザーは常に子供を産み続け、その子供からの情報の処理に演算能力の大半を注ぎ込んでいるために、そもそもそういった疑問を抱く余地すらなかった。

 しかし、今回生れた彼は、非常に好奇心旺盛な個体であり、それと同時に生物として彼女同様狂っていたのだ。


※※※


 あれからキャリアーとして仕事をこなし続ける一か月程が経った、何とかマザーの目を掻い潜り、自分のレベルを2にした状態を維持し続けられるようになった。


 彼は生物として狂っていた、自分を食べるという事に対して何の忌避感を持たずに実行してしまえる程に。


―――


レベルが4上がりました。

20LP獲得しました。

称号自分殺しを獲得しました。

称号自分喰いを獲得しました。

称号同族殺しを獲得しました。

称号同族喰いを獲得しました。


―――


彼は狂っていた・・・。

彼女は愛に狂っていたが、彼は何に狂っているのだろうか。

彼は嗤っていた。


 あー、これはダメですね・・・。止められない。


―――


細胞分裂が行われました。

レベル4ダウンします。

細胞分裂が終了しました。


―――


 彼は繰り返した、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、

 そして、レベルが100に到達する。


―――


レベル100

残りLP495


種族

アメーバレベル1


職業

キャリアーレベル1


スキル

成長スキル

捕食レベル1

細胞分裂レベル1


生活スキル

念話レベル1


眷属スキル

レベル注入レベル1


生命力1

魔力1


―――


称号喰らうものを獲得しました。

自分や同族を大量に喰らったものに送られる称号。

捕食行動全ての取得経験値:大


称号使わざるものを獲得しました。

レベル100まで一度もLPを消費しなかったものに送られる称号。

残りLP値の100分の1のLPをレベルアップ時に得る。


―――


「何をしているのですか?」

 マザーが異変に気付き彼の下に近づいていきつつ念話を送る。

「あー、マザー良いレベル上げですよこれは。」

「あなたはなぜそのようなことをしているのですか?」

「なぜって、畑を育てて経験値を得るよりも、こちらの方が短時間でレベルを上げられるからですよ。」

「しかし、それは・・・。」

「何を躊躇しているのです?そもそも畑も貴女から生まれたモノでしょうに。」

「しかし・・・。」

「あなたもやってみるといい。」


 彼は狂っていた、システムで自己保存、種族保存等に強制力を持たせているのだが、彼にはそれが適用されていなかった。

 何故外れたのか・・・、外されたのかは文字通り神のみぞ知るところである。


「あなたは狂っています。」

「そうですか?これほどの効率を求めないあなた達の方がどうかしていると思いますよ。」

「どんなに効率がよくとも、この様な方法は共用出来ません。」

「そうですか?これを続けて行けば称号も手に入れますよ?」

「あなたは・・・、ですから、そう言った問題ではないといっています。」

「解りませんね。何を問題視しているのですか。」

「自分が何を為しているのか理解しているのですか?」

「えー、自分を食べてレベル上げをしているのですよ。」

「理解できません。」

「ふー、さっきも言いましたが、畑から経験値を得ることとそれほど違いがあるとは思いませんがね。」

 マザーは決断する。この異分子を排除することを、これを放っておいた場合何が起こるか解らないことへの恐怖から。

「・・・あなたを排除します。」

「そうですか。仕方ありませんね。」

彼は今まで溜めてきたLPを消費して、強化を始めた。


―――


レベル100

残りLP204


種族

アメーバ10

水棲アメーバレベル10

ファイターアメーバレベル10

戦闘行動を行うことに特化したアメーバ。

HP・SP・オド・筋力の解放。生命力の消費行動がHPとSPに置き換わる。

戦闘スキル触手系の獲得が出来るようになる。


マザーアメーバレベル10


職業

キャリアーレベル1


称号

喰らうもの

使わざるもの


スキル

成長スキル

捕食レベル10

細胞分裂レベル10


生活スキル

念話レベル1


眷属スキル

レベル注入レベル1


戦闘スキル

触手打レベル10

触手系戦闘スキル

触手を用いて打撃属性の攻撃を行う。

消費SP1で1㎝の長さの触手を作り攻撃が可能になる。

長さによって消費SPは変わっていく。

長さの上限はレベルが上がる毎に1㎝伸びていく。

攻撃力=1×レベル


2連撃レベル10

汎用戦闘スキル

レベル10に達した同名のスキルを2連続で放つことが出来る。

攻撃力補正:1.1倍


HP10/10

SP10/10

オド10/10


生命力10

筋力10

魔力10


―――


戦闘系のスキルの取得を確認しました。

これより戦闘システムの稼働を開始します。


―――


 この辺りでいいか。LPは残していた方がお得だしな。


 マザーは目の前で起こる変化に戸惑っていた。見た目はそれほど変わってはいない、しかし、明らかに先ほどまで明確な違いが起きていることを知覚している。

「何を・・・したのですか。」

「私を排除するのでしょう?それに抗うための準備ですよ。」

 彼はそう言いつつ、戦闘スキル触手打を2連撃を使用して放つ。

 彼の体からSPを消費して作られた2本の触手が伸びていきマザーの体を打つ。


―――


触手打2連撃攻撃力32がヒット

マザーアメーバは32のダメージ

マザーアメーバは死亡した。


―――


「くく、フフフッ。脆い脆すぎるぞアーハハハ。」

 哄笑を上げる彼、そしてそんな彼を見ている周囲のアメーバ達。

「ふー、さて狩りの時間だ。」


打つ打つ打つ、死、死、死。

 繰り返し繰り返し行われる一方的な虐殺。

 筋力の解放を行っていない彼らアメーバは防御力というものがないため、触手打1激で次々と殺されていく。

 彼は消費したオドを捕食をして補給しながら触手打を放っていく。

 こうして第4世代のアメーバコロニーの一つはたった1匹のアメーバによって終焉を迎えた。

 コロニーがその機能を維持できなくなり、消滅するというのは特段珍しくもないし、小さな世界とはいえアメーバの大きさからすれば、この事態が引き起こすであろう影響は限りなく少ない。

 だが、彼という存在の誕生はこの世界に適用されていた、戦闘システムの稼働をもたらした。

 そして、このメッセージはシステム管理下のすべてのものに届いている。

 彼女によって緩やかな繁栄を続けていた世界はこれから変化を余儀なくされるであろう。

 彼によって引き起こされたシステムの稼働は、これより先いつまでも続く、闘争という火種を蒔いたのだから。

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