第14話 リベンジ

「懐かしいな…」


俺はついそんな言葉をぼやいてしまう。

たったの二月しか経っていないのにもう随分来てないような気がする。


「そういえば、あれから森には入ってませんね。

でも…大丈夫何ですか?」


「うん?何がだ」


ルミアネはそういえばと言った表情で問いかけて来る。

そういえば、何か忘れているような…。


瞬間、とんでもない咆哮が割と近くの茂みから聞こえてくる。


俺たち6人は顔を同時に見合わせる。

なぜかクリアスは楽しそうだが、今の咆哮は嫌な予感しかしないんだが…。

なんとなく、何がいるのかは俺は分かっている。


「なぁ、一度だけでいいんだ…俺だけでやらせてくれ」


「いえ、それは危ないです!」


「そうだ、あれは明らかに普通の咆哮ではなかった!」


その瞬間、アニーアとルーガスは俺を止めてくれる。


しかし、残り三人はお互いに顔を見合わせた。


「わかりました…別にいいですよ。

その代わり…もしも、ヘマをしたらこれからはそんな無謀な事を許しません」


「あぁ、分かってる」


サーナに釘を刺してもらってから俺は歩き出す。

その瞬間、大きな魔力が俺に向かって飛んでくる。


剣を取り出して魔力を霧散させると共に茂みを吹き飛ばす。


そこにいたのは大量のオーガの大群だった。

目算で百近くのオーガの群れ…そして、一番後ろには一際覇気の強いハイオーガの姿が見える。



「これは…いや、今は戦闘に集中しろ!」



俺はそう言い聞かせて敵陣に突っ込む。

魔王因子型オーガたちの群れに…。


まず、一撃を軽く振るう…しかしというべきかやはりというべきか…オーガは拳で俺の剣を弾く。


これくらいはまだ予想の範疇だ。


一番の問題はどうやってこいつらを殲滅させるかにある。

俺は悩みながらオーガの切れるポイントを探る。

拳、膝、足、肩、肘、腹などは硬かったが他の部分なら上手く刃を通せば切れそうだ。


俺はそう考えて剣を通すように正確にかつ速くそして、鋭く剣を振るう。


オーガの部位は首。


すると、呆気ないほど簡単に切れてオーガが一体絶命する。

反撃に繰り出すオーガ達の群れが押し寄せてくるが冒険者達の集団訓練や詩音との戦いに比べてはお粗末過ぎる隊列や技量、攻撃のタイミングに俺は的確に対処する。


時折、魔力波などの背中の魔力と瘴気を利用した攻撃が飛んできて対処に困るが、数は確実に減らせている。


「少し…数が多いかな?」


かなりの数に俺は苦い表情をしてしまう。

徐々に練度が高いオーガが現れ始めてそこで初めてオーガ達は連携を見せ始めた。


魔王因子による魔力運用というものをしっかりしており、俺は気が付けば魔力波により逃げ道や避けるためのポイントをふさがれていた。


「厄介だな…」


俺はそう呟くと戦い方を変えた。

自分の場所から一番近いオーガに向かって剣を盾にするように構える。

そして、他のオーガの様子を見ながら剣を盾にしながら前に進む。

他のオーガは接近して攻撃するにしても距離があり余裕がある。

そして、予想通りに目の前にいたオーガは盾にした剣を弾こうと殴りに来る。

連携などは強くなっているがどうやら、元の知能より高くなく罠の可能性を考えていないようだ。

俺は剣をうまく逸らしてオーガの懐に入り込み、樋の部分を持ち切る。

続いてすぐ近くに近付いてきたオーガ達に大振りで剣を振るいそれを見たオーガ達は軽々と避ける。

そして、反撃だと言わんばかりの拳が飛んでくる。

すぐに俺は身を屈めて先程と同じように懐に入る。

相手が拳を振り切った姿勢のおかげで他のオーガ達は攻撃をしようにもできない。


その結果、仲間のオーガを殺して俺を殺せるとは限らない、そして、逆にその隙を突いて反撃を喰らうかもと思考しているだろう。

いくら、オーガと言えでもそのくらいの学習能力があるようで攻撃に備える姿勢で俺の行動を見ていた。

懐に入ったオーガの首を切り落として俺は首のない身体を蹴る。

そこには俺を観察しているオーガ達があり、いきなりの狂行に思わずオーガ達はその死体を吹き飛ばさんと拳を突き出していた。


オーガに仲間の死体を尊ぶ感情はないことは聞いている。

しかし、この状況でその行動は無駄だと気付けたオーガはこの場にはいない。

俺は殴り飛ばされた死体の陰に潜り込み、奇襲を行う。

呆気なく隙だらけの三体のオーガの首が転がる。


そして、そのまま奇怪な手段で戦いを続けたのだが、よっぽどの危機を感じたのか何体かのオーガは後ろに下がり前のオーガが時間を稼ごうと俺に特攻してくる。


「わかりやすくなったな…」


状況の確認をして上手くいったと俺は笑みをこぼす。

後ろのオーガは俺の決め手とした魔力と瘴気のブレスを使おうとしているのだろう。


それをしっかりと確認した後、俺は特攻してくるオーガを軽くあしらって誘導していく。

そして、少し時間が経った瞬間、真っ黒なブレスが約10体のオーガから放たれる。


それは特攻していたオーガ達を吹き飛ばし、俺を…






「惜しかったな一月前ならギリギリで死んでたわ」


俺は特攻してきたオーガを盾に自分の正確な位置を確認させずにギリギリ、ブレスが余波だけしか来ないポイントになるように伏せていた。

そして、ブレスが吐き終えて安心したところに俺は剣を振るう。

呆気なく10対ものオーガの首は落ちる。


一部始終を見ていたハイオーガはゆっくり後退しようと足を引いていた。


「…判断は良かった…でも、それはもうすこし早くするべきだな」


俺はそう言うと逃がさないと言わんばかりにハイオーガに剣を振るう。

それに対してハイオーガは拳で迎撃してくる。

半ば反射的な行動だろうとハイオーガの動きから俺は考えて追い詰めるように剣を振るう。


魔力を使う暇を与えないほどに速く…反撃を許さない程過激に…。


ハイオーガは勇敢にもそれからは下がらずに俺と打ち合う。

お互いに決定打も何も出来ない。


ハイオーガは攻撃を出来ずに俺は破壊力が足らずに…。


確実にハイオーガは急所になる部分を守り、俺は極力止まらないように剣を振るい続ける。


そして、決着が着く。


ハイオーガはなんとか俺に反撃をしようと押し込み、俺を吹き飛ばす。


僅か1メートル。


その距離を取ったハイオーガは一瞬で魔力と瘴気を集める。


そして、放つ。


それが一瞬の出来事…、俺はそれに負けないほど速く剣を振るう。

そして、放つ瞬間と俺の剣が交わる。



爆音が鳴り響く。

ハイオーガは吹き飛び、何とか耐えてみせる。

そして、立ち上がろうともがくが決してハイオーガが立ち上がることはなかった。


「ルミアネの全力の魔法と比べたらやはり見劣りするな」


俺は一切吹き飛ばずに僅かに傷ができた程度で立っていた。

そして、ハイオーガの目の前に立ち俺は剣を振り上げる。


「ありがとう…おかげでリベンジができたよ」


そう言って俺はハイオーガの首を落とした。

しかし、俺の中には喜びも何もなく…終わった…それだけしか考えていなかった。



**



「どうにか終わったぞ!」



俺はルミアネ達のいる場所に戻ってそう言う。



「63点と言ったところでしょうか…。

オーガのところはまだよかったでしょう…でも、ハイオーガに押し込まれるくらいなら搦め手でやった方があなたの場合はよかったのでは?」



サーナの厳しい評価に俺は思わず肩をすくめてしまう。

ルミアネに関してはそれを聞いて自分はどうだろうかと明後日の方向を向いていた。

アニーアとルーガスに関しては先ほどの戦闘に関して何も言わなかった。

いや、顔を引きつらせていたことが答えであろう。



「あれ?クリアスは…」


「あぁ、あの人でしたら急に用事がとか私に言って…」



サーナはそう言ったところで目を見開く。

明後日の方を向いていたルミアネも同じタイミングで杖を取り出して警戒をしていた。

半放心状態と思われたアニーアとルーガスも僅かに反応を示していた。


勿論、俺も気づいた。


しかし、それが何なのか…そして、今までにない程嫌な予感がしていた。



「ルミアネは詠唱の準備をお願いします。

二人は私の後ろへ…あなたはとりあえず警戒してください」



サーナがそう言った瞬間にそれは現れた。



「おやおや、随分と警戒してくれていますね。

魔王様の力の一部が霧散したから何事かと思えば『勇者』でしたか」



そう、一人の男が降りてきたのだ。

悪魔のような黒い翼…魔王因子の象徴たる魔力と瘴気の翼…計四翼の翼を持つ男が俺たちを見下ろしていた。

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