第13話 一月の結果…

俺が学園に入学してからあっという間だった。

これといった事件も起きずただ平穏に鍛錬と訓練、精錬を積み重ねる毎日…そして、基本的な情勢などのことを教えられるだけだった。


そして、気がつけば俺は…詩音以外の勇者とはどんどんと疎遠になっていった。


それは当然のことで不自然なことでは無い…。

明らかに違う目をしていて…本当に同じ世界から来たとは思えない俺を好き好んで関わりたいなんて思うわけがない、思える方が不自然だ。


詩音からは時々、態度には気を付けろと口を酸っぱくして言ってくれているのは助かる。

ああ見えて結構世話焼きでいい奴だ。


それでも、俺は孤独を感じていた…。


ガインッ!


と金属がぶつかり合う甲高い音を響かせる。

俺と詩音の剣がぶつかり合った音である。

単純な剣技が詩音も成長しており、一筋縄では勝てなくなってきている。

幻覚も前以上に精密に作ることができるようになったのか、度々騙されてしまう。

自分の力じゃ段々と解析が追いつかなくなり、現在は防戦一方である。


「チッ」


俺は舌打ちをしてからスキルを使用する。


キイィィィィン


と耳鳴りがする。

そして、俺は思い浮かんだ剣技のスキルを組み替えていく。


我流『二重剣撃』


その瞬間、俺は剣を振るう。

完璧な同時での左右から振られる斬撃。


「なっ!」


詩音は一瞬、止まるがすぐにやばいと悟り後ろへ飛び回避を成功させる。


「まだまだ!」


我流『重突(ラッシュ)』


無数に近い突きを繰り出す。

しかし、それは軽くいなされて俺に二本の剣が迫る。


速い、避けられない。


俺はそう考えて、すぐに剣を手から離す。

少しでも勝ち目を増やすためには剣を捨てて身軽になるしかない。

もちろん、冒険者カードに咄嗟に収納しており詩音に使われる心配はない。

でも、この状況ではそれを心配するより反撃のタイミングを作ることができるかを心配した方が良い気がする。


反応速度、認識速度などは明らかに上で俺が勝ってているのは技量くらいだろう…そろそろ追いつかれそうだが…。


俺は必死に二本の剣から繰り出される斬撃を躱し続けて隙を伺う。

そして、詩音が大振りで遅れた瞬間を狙って詰め寄る。


たしかにその判断は間違いではないだろう。

それは差がよっぽど無かったら効果はあった…。


「ガァッ!」


俺は詩音に蹴りを叩き込まれて吹き飛ばされる。

そして、そのまま意識を手放しそうになる。


それでも、俺は立ち上がりギルドカードから剣を取り出して構える。


「この辺で終わりにしようか」


詩音のその言葉と共に俺は構えた剣を下ろした。


「また負けたよ…最近負け続きだ」


「まぁ、加護の量とかも違うしな…」


詩音は少し言いにくそうにそういった。

聞いた話によると詩音はスキルが30近くに加護が13あるらしい。

いずれも強力でレベルアップなどに起こる成長の度合いなどが圧倒的に違ったりもする。


「そうなんだよなぁ〜俺なんて未だに加護とかスキルが全然増えないないし、そこら辺の差があるよな」


「今は覚えなくてもいずれ覚えるだろ?」


「そうだと良いがな…」


詩音の優しさが身に染みるようだ。


「とりあえず、俺は帰るけどお前は?」


「いいや、もうすこしここで素振りなりしてから帰るよ」


詩音の問いかけに俺はそう答えて剣を握りしめる。


「そうか、鍵の方は任せた。

ほどほどにな」


「わかった」


そうして、俺は詩音が出ていくのを見送った。

そして、詩音が見えなくなると同時に俺は思いっきり地面を殴る。


それだけで轟音が辺りに響き渡り、地面が抉れる。


「くそっ!何でだよ!

今まではまだよかった…」


俺は気が付けば涙を流していた。

俺はどこかで魔力さえ使われなければ負けることは無いと考えていた。

今の今までそうだった…でも、違った。

今日、詩音に敗北したのはスキルとかもあるだろう…しかし、あいつは魔力を一切使わずして俺に勝利した…。


(強く…なりたいかい?)


ああ、なりたいよ…強く…もっと…。


問われた…何にか分からない…たしかにその時、声が聞こえた。


(そうか、なら剣を取りたまえ…幻想を追い続けろ…幻影を問い続けろ…)


また、この声と幻だ。

一月前からずっと、誰もいなくなると聞こえ…俺に見せてくる。

数々の剣技などを…。


俺は戸惑いながらもいつも通りに剣を握り、幻と合わせて剣を振るう。

時には真似をして…時には切り掛かって…。


何度も何度も繰り返して練習を行う。


いつか…強くなることを願って…。


**


そして、翌日。


「さてと、全員実力も付いてきたことだし明日は野営も兼ねた3日ほどの遠征を行います。

三人以上六人以内のグールプを作って今日の放課後までに報告してください」


先生の言葉と共に朝の時間が終わる。

そして、今日はどうやら自習のようで各々好きなようにやっている。


俺は誰と組もうか考えていると裾を引っ張られる。

そちら方を見てみるとルミアネが俺は裾をクイクイと引っ張っていた。


「どうかしたのか?」


「よかったら組みませんか?」


ルミアネは小さくそう言うと俺をじっと見てくる。


「分かった組もうか」


俺がそう言うとルミアネは小さく頷いて周りを見る。


「おーい」


俺達が周りを見てると俺に向かって叫んでる人がいた。

俺はそこ見ると詩音が俺に呼びかけているようだ。

俺は一言ルミアネに断りを入れてから詩音の方に向かう。


「詩音、なんかあったのか?」


「いや、悪いな。

うちと同じとこから来たやつはどうやらお前を入れたくないようでな…」


「そのことか…大丈夫だ。

こっちも別グループになりそうだからな」


「助かる」


詩音は打ち合わせがあるようですぐにその場から去って行った。


「何だったんですか?」


いつの間にかルミアネがすぐ近くに来て、そう、俺に問いかける。


「いや、同じグループにならないそうだ」


「そうですか、このままだと人数も足りませんしサーナの辺りも誘って見ません?」


どうやら、元からそれを考えていたそうで俺が頷くと俺の手を引いてサーナのところに向かった。


「同じグループにですか?

いいですけど…私の許嫁とアニーアがいますので二人に聞かないと…」


サーナはそう言って二人の方を向くとアニーアは大丈夫ですと言わんばかりに頷く。


ルーガスはグッとサムズアップをする。

それを見てサーナは大きくため息をつく。


「…大丈夫なようです」


「何というか大変そうだな…」


「同情するくらいなら変わってほしいくらいです」


「悪い無理だわ」


俺はサーナの心労を僅かに悟り、冥福を祈る。


「あの、サーナはまだ死んでませんから冥福を祈らないでくださいね」


「あれ、声に出てた?」


「なんとなく察しました…」


まぁ、なんだかんだで一番いることが多いのはルミアネだから分かるのかな?


「というより、思いっきり顔に出てましたよ」


サーナからジト目で睨まれる。

どうやら、顔に出ているようだな。

今度から少し気をつけるか。


「あ、サーナちゃん達だ!」


直後、俺たちの方に向かって声が飛んでくる。

そして、サーナの後ろから一人の女子がサーナに向かって飛びかかる。

いきなりのことでサーナは動かずにその女子に抱きつかれる。


「なになに?私を置いてみんなでいくのかな?

私も入れて!」


そして、サーナに抱きつきながらそんなことを言った少女は吸血鬼のお姫様、クリアスだった。


「別にいいですけど、離れてください」


サーナはため息をつきながらそう言うとクリアスはおとなしく離れて上機嫌そうにサーナの横に立つ。


「おっ、君は無剣の勇者だっけ?最近はどうだい?双剣の勇者と訓練してるよね?」


「そうなんですか?」


クリアスの言葉にいち早くルミアネが反応する。

ほんの少し殺気立っているような…まぁ、気のせいだろう。


「ああ、そうだが最近は勝てなくなってきているな」


「そうなんですか…で…」


俺の話を聞いて、ルミアネが何かを言おうとした時だった。


「んじゃ、私とやってみよう!」

「それでしたら私も付き合います」


サーナとクリアス、二人の言葉が同時に飛んできた。


「あれ?サーナちゃん婚約者をほっといて他の男のところに行っていいの?」


「言い方が酷いですね。元々、私は勇者の育成を任されています。

先輩勇者としては当然の務めですが?」


「お堅いな〜、その中に一切の私情は挟まってないのかな?」


「いいえ、私情くらいならありますよ。

私の認めた勇者が他の勇者に負けるのが許せないだけです」


なんか二人が言い合いを始めた。

というか、クリアスは明らかにサーナをからかうつもりだ。


「あの…」


そうして見ているとルミアネが声をかけてきた。


「うん、どうした?」


「私も…」


「そうだ!二人で訓練をつけてあげればいいんだ!」


「はぁ、散々振り回した後にそれですか…、まぁ異議はありません」


ルミアネが何かを言う瞬間…とんでもない意見が出てきた。

サーナだけでも大変なのに実力が分からないけど明らかに強いクリアスを同時に相手にするとか無茶な意見が聞こえたんだが!

俺はハッと二人の方を向くと二人は笑顔でこちらを見ていた。


「決まりました。

少し明日に向けて今から訓練しましょうか」


サーナの笑顔が初めて怖いと思えた。

俺は話を逸らすためにルミアネを向く。


「えっと、さっき何を言おうとしたんだ?」


「いえ、なんでもありません…。

流石に私も鬼にはなりたくないので…」


なんで鬼?

いや、その前に何とかこの場を切り抜ける手段は…。


王女様は?


「怪我したら言ってくださいね…」


と言って目を逸らされた。

その瞬間、俺は悟った。


ーああ、これは無理なやつだわー


そうして、俺は訓練所に連れていかれて二人が満足するまでひたすら模擬戦を続けた。

唯一の救いは二人とも手加減してくれたことだが、それでも一方的にやられたことには変わりは無かった。

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