第11話 模擬戦

俺達は自己紹介を終えて移動をしていた。

どこに行くかは聞かされていない。

周りの奴らが聞いてもはぐらかす一方だった。


「着きましたよ」


そうして、先生はある扉の前で足を止める。

その扉は大きく頑丈な鉄の扉…。

簡単には開きそうにない。


バタンッ


その扉は光り出して勢いよく開く。

おそらく、魔法か何かだろう。


「今からあなた方には自分達の強さの基準を知るために模擬戦をしてもらいます」


先生はそう言うとニヤリと笑う。

全員、それぞれ中に入り勇者の男子達は見せ場だと思い張り切っていた。

反対に女子達は周りを見て誰と戦うことになるのか不安そうだ。


因みに俺は勇者と戦ってみたいと思っている。

勝てるとはあまり思ってはいないがどこまで自分の実力が通じるのか気になっていた。


「まぁ、不安になる気持ちも分かる。

まずはそうだな…エキシビションマッチとして勇者君達から戦ってもらおうかな?」


その言葉でリーダー格だと思われる三人の勇者が少しニヤリとしたのは見なかったことにしよう。

おそらく、身体能力などもしっかりと高くて魔力もある本物の勇者が相手でも戦闘未経験なら何とか互角に持ち込める自信はある。

それでも能力によるが勝てはしないと思う。


「では、千剣の勇者、一ノ瀬 日景君と魔剣の勇者、琴吹 大介君にお願いしよう」


何か二つ名的なものがあったがそれは勇者の持つ能力から付けられた二つ名らしい。

多分、俺も持ってるけどサーナやアニーアが気を遣って教えてくれなかった。


そんなことを考えている間に二人は前にで出て来ていた。


気迫は充分と言わんばかりのオーラを漂わせた二人は今にでも一触即発しそうな感じだ。


「では、始めてください」


そう、先生が言った瞬間にそれは起きた。


スドドドドドドドドドドド


と一ノ瀬から何かが放たれていく。

あれはなんだ?

どっかで見たことあるような技だぞ?


俺はよくよく目を凝らすと放たれている一本一本が剣だった。

それら一つ一つが特殊な能力を持っており、炎、氷、風、雷などが迸っている。


しかし、凄いのは何も一ノ瀬だけでは無い。

琴吹も化け物級だ。

それらの強力な剣の数々をたった一枚の障壁でずっと守っているのだ。

それは桁違いの魔力を最低でも要する行いだと経験上分かるが魔法に関して使えない分どれだけ常識外れか分からない。

それでも、ルミアネと同等の魔力量や操作能力を持ってる人外レベルだということは俺にでも分かる。


それにしても…。


「勇者にしてはレベルが低いなぁ」


突如として横から聞こえた声に俺は頷く。

そして相手を見ると…。


「って、仮にも一国の王女がその発言は大丈夫なのか?」


クリアスがそこにはいた。

彼女は心底つまらなそうにダラリとしながら見ていた。


「だって、エキシビションマッチというからもっとど迫力なものを期待していたのにとんだ期待外れだよ」


「いや、どうやらまだ何かあるみたいだぞ」


二人の動きが一瞬止まる。

俺の見立てによればここまでは準備運動といったところだろう。


「どうやら、そのようだね」


クリアスは新しいオモチャを見つけたような表情で二人を見始める。

さっきから思っていたがこいつは強者というものが好きなのかもな…。


ガキンッ


と金属のぶつかり音が響き渡る。

二人が一瞬、打ち合いに持ち込んだのだ。

しかし、すぐに一ノ瀬が立て直して距離を取る。

そして、次の瞬間上下左右、360度全方位に剣が展開されていた。


「ここから俺の全魔力を注ぎ込んで叩き潰してやるよ魔剣の勇者様よ!」


ズドドドドドッ


一ノ瀬の声と共に再びとんでもない音が響き渡る。


しかし、それを全て琴吹は避けていく。

そして、とんでもない魔力が琴吹の剣に流れているのが分かる。


「磁力の展開…」


瞬間、何かの力が働くかのように飛んでいく剣が逸れていく。


「あれは…」


俺はすかさず鑑定を行いそれぞれの能力の解析をしていく。

仮にも相手が勇者でも、ステータスの鑑定は出来ないが、起きている現象の正体くらいなら掴める。


一ノ瀬はどうやら『剣召喚』というスキルの使用のようだ。

しかし、この能力のネックは剣しか召喚できない。

魔力に応じた剣しか召喚できないという二つの点だ。

要するに、彼は最低限の魔力で脆くて強力な剣を作り続けているのだ。

要するに最初から放出すること、それだけを考えて剣を召喚しているのだ。

使用魔力は少なく、威力は最大限に…。

考えているな…。


そして、琴吹が行なっていることは魔力による磁場の発生である。

彼の魔法はどんな能力でも瞬時に少ない魔力で発生させることが出来るようだ。

そのかわりと言っては何だが剣を中心とした魔法の使用しかできないという厄介な制約があるみたいだな。それでも通常より少ない魔力で強力な魔法を使用できるという利点が大きそうだな。

スキル名は『剣創魔法』か…これはまた厨二心がくすぐられるな。


キイィィィィィン


その瞬間、耳鳴りがする。

これはスキルの使用ができる合図…。

でも、俺には魔力が…。


そうしていく間に試合をしている二人はお互いに一撃たりとも当たらない攻防を繰り返していく。


「ふーん、鍛えれば意外と強くなるかな?」


「それはそうだろ…俺とは違ってスキルや加護、魔力だって沢山ありそうだしな…」


「それもそうだね」


何故かクリアスは機嫌良さそうに呟く。

そうして、より苛烈が極めたところで先生が止めに入る。


「二人とも、今回はこの辺でいいでしょう」


その言葉に二人は若干、不服そうだが渋々とやめる。


「では、次に無剣の勇者のそこの君と、双剣の勇者の詩音 忍君の二人の勝負としましょう」


どうやら、俺の番のようだ。

今のを見る限りだとあれだけ激しい攻防と同じだけの強さに持ち込まれたら一溜まりも無いから初手決着にしよう。


俺達はお互いに前に出て向き合う。

どうやら、詩音は二つ名の通り、二本の剣を扱うらしい。

二本の長剣を構えて構えている。

俺の方は敢えて武器は取り出さずに立つ。


「どうやら、両者共に準備はできているようですね。

始めてください」


その瞬間、武器を取り出していないと油断していたのか詩音の出だしは遅れた。

いや、正確には驚いていて遅れたというべきか…。

なぜなら、始まった瞬間には俺が距離を詰めていたからだ。


俺はすぐに剣を取り出して切り掛かる。


ガキンッ


と剣同士がぶつかる。

詩音は俺の剣を二本の剣を交差させて受け止めたのだ。

すぐにバックステップをされて距離を取られる。

しかし、甘い。


そこは俺の最も得意とする距離だ…。


すぐに俺は剣を両手で握り振るう。

大きな剣だからこそ許されたリーチの長さを活かして俺は詩音に近づけさせない。


しかし、その読みも少し甘かったらしい。

再び詩音が剣を交差させて受け止める。

そして、次の攻撃をしてくる前に俺の剣を捉える。


すぐに間合いを詰めてくる。


そして、詩音は跳ぶ。

その跳んだ反動を生かして剣を振るってくる。

しかし、俺もその程度でやられる程、弱くない。

寧ろこの技を俺は知っている。

レアなスキルはではあるが双剣のスキルくらいならある。

相手が二刀流とかだったら違うかもしれないがこの初動のスキルは俺の知る中では一つしかない。


キイィィィィィン


耳鳴りが響く。

すぐさま樋の部分を握り、思いっきり詩音の横から打撃を食らわせる。

しかし、流石は勇者といったところだろう。

恐ろしいほどの動体視力で技の対象を俺から俺の剣に変えた。


ガガガキンッ


瞬間、叩きつけられる三撃の斬撃は俺の腕を痺れさせる。

しかし、その程度で止められると思ったなら愚策だ。


俺は痺れた腕は気にせずに体全体で動く。

先程から見ていて思ったが、勇者達には決定的に足りない点がある。

剣を腕だけで振るってる節が多々、見受けられるのだ。

要するに、技量上は俺の方が圧倒的に上であり下手な魔法なしの戦いの場合は負けるはずがない。


ドンッ


と鈍い音が響き、詩音は吹き飛ばされる。


「グッ、ゴボッゴホッ。

ハァハァ、まだだ」


一瞬、むせた後すぐに立ち上がり構え直す。


何度やっても…。


瞬間、言い知れない恐怖が支配した。

たしかに今、剣が俺の首元を通過した…。


キイィィィィィン


それを知ってか知らずかその正体を耳鳴りと共に知る。


「これまた、厄介な相手だ…」


スキル『幻想乱舞』これは幻を作り出しどんな相手にもそれを本物と同等の質量として一時的に感じさせるスキルだ。

要するに、触れたから分かるのでなく…触れて結果が起きるその瞬間までそれが幻かわからなくするスキルだ。


ただでさえ手数の多い双剣のフェイクができるということは対処がとても難しい。

これは…技量をも簡単に上回る実力だ。


詩音が踏み込む。


「なっ!」


俺は絶句した。

方向感覚や視覚情報その他諸々に違和感を感じた。

先程までどこに立っていたのか分からなくなったのだ。

そして、相手は四方から来ている。

周りは歪んで見える。

その方向が本当に正しいのかすら分からない。


俺はとりあえず、走り出す。

前ではなくて後ろへ…。

瞬間、相手に驚愕の表情が浮かんだ。

幻を見極めた訳ではない…。

必ずこっちは幻であると考えて走ったのだ。

剣で切られる感触がリアルに伝わる。

しかし、血が出るという次の瞬間にはその感触が無くなる。


傷がないのだ。

これは後ろの詩音が幻である証拠である。

これで一歩でも下がってしまえば本物の思うツボだったのだ。

なぜなら、一瞬でも本物と認識してしまったら必然的に距離を取ろうとしてしまう。

この幻の怖いところはリアルに感覚が伝わらせてしまう分、一瞬でも本物だと錯覚してしまう。

例え、剣で本来は切られていなくても…。


それでも、この考えは博打に近い…今度は対策を取ってくる可能性が高い。

なら、どうする…考えろ。

四分の一の確率で負け…かなり有利に見えるがそれを何度もやり続ければそのうち負けることは確実だ。


ならばこの幻を攻略しなくては話にならない。

一ノ瀬や琴吹なら範囲攻撃で纏めて吹っ飛ばせばいい。

しかし、俺は違う。

互角に持ち込むのは無理だ。

これを攻略して勝つしか選択肢は無い…。

音の情報…匂い…気配…空気の感触…どれもが全て本物だと訴えているようだ。


なら、魔力は?


俺は使うことは出来ないが感じることはできる。

今回は目の前から一人だけだ。

何があるのか分からない走って向かって来ていることだけは確かだ…。


瞬間、この辺り一帯に魔力が充満していることが分かる…。

あとは魔力の動きを把握しろ…少しでもずらせば答えは見つかる…。


キイィィィィィン


『魔力解析』の実行が確認された…。

瞬間、見える。

前ではなくて後ろから向かってくる詩音の姿が…。


剣を握りなおして俺は後ろに振るう瞬間…。


「この辺りでやめとします」


先生の声が聞こえて俺と詩音は止まる。

しかし、詩音が止まったのは先生の声では無いような気がした。

何故なら詩音の目は見開かれており、動きは完全に止まっていたからだ。


この瞬間なら幻が解かれた瞬間に俺が動いたように見えなくも無い。

やはり、当事者には気付かれていたようだ。

俺がその幻の攻略に成功したことに…。


その後、俺達より簡単かつ短時間で他の模擬戦を行い今日は解散となったのだ。

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