第10話 入学

「ふわぁ、ねみい。

まさか、異世界に行ってもこんな規則正しい生活をすることになるとは…」


俺は一人で呟きながらベットから降りる。

今現在、俺は学園の寮にいる。

しかし、魔法が発展した異世界。

電気を使った生活用品がある訳もなく、魔法の代用品もあるがやはり、少し生活の快適さが下がってると言える。


「でも、これより酷い生活をしていたような気がするんだよな…。

考えても仕方ないか…」


俺は今、記憶喪失になっており異世界に来る前の記憶がない。

名前すら思い出せずに俺は今、学園にお世話になることになっている。


俺はササっと朝食を取り、弁当を作ってカバンを持ち寮を出る。


その時にふと俺は気が付いた。


「身体が…軽い?」


自分でも何を言っているか分からない。

しかし、普段と比べて格段に楽なのだ。

憑き物が取れたような…。

ふと、そこで夢の出来事(前話)がフラッシュバックされる。


そう、たしかにあの時の奴はずっと俺に付いていた亡者、要するに死者だった。

それらがどうやら今はいないようだ。


「理由を考えている暇はないな」


俺は気を取り直して通学路を歩き始める。


*************


既に校門には人だかりができており、その中心にはクラス表が貼られているらしい。

今すぐにでも確認したいが、あの人だかりをどうにか出来る自信がない。


そこには手を合わせて喜ぶ者、お互いに肩を組んで何か臭いセリフを言ってる人…といる。


「どうするか、このままだと遅刻するな」


俺は人混みを見ながらハァとため息を吐く。


「君は…イレギュラーな勇者君だね」


そうして悩んでいる後ろから少女が俺と思われる人を言っていた。

ゆっくりと振り返るとそこには漆黒があった。

いや、厨二病じゃなくてね本当にそう見える。

いや、この少女はそう見せているのか…。

何故ならこの黒は魔力の層と言って差し支えない。

おまけに目の部分が真紅に輝いてるのはポイントが高い。


俺は一度目を閉じる。


キイィィィィン


と耳鳴りがする。

スキル名『魔力解析』

どうやら対象の魔力を解析するスキルでこの高密度の魔力を回潜れるらしい。

素顔を見てみたい!


俺は直ぐにそのスキルを使用すると少しずつ黒い魔力は晴れて一人の美少女が目に映る。


学園の制服は一応着ており(大分着崩してる)、肌は綺麗と思えるほど白い。

そして、何よりもその整った顔と腰まで伸びる黒い髪、紅い目もチャームポイントの一つなのかもしれない。


「綺麗だ…」


俺は思わず見惚れてしまった。

可愛いとも綺麗とも見えるその容姿に俺はこれ以上の言葉は言えなかった。


「へぇ、サーナちゃんが初めて私の素顔を見た時と同じ反応するんだ。

と言うことは、私の素顔が見えてるのかな?」


俺は頷く。

その少女の圧倒的な存在感と容姿に圧倒されていた俺は深呼吸をして平静さを取り戻す。


「えっと、君は?」


「うーん、それはクラスの自己紹介までのお楽しみということで」


少女はそう言うと付いて来てと手招きをしてくる。


「悪いな」


「んー、何のこと?

私はただ、教室に行くついでに案内をしてるだけだよ」


そう、少女ははぐらかして教室に着く。


「おっと、教室に入る前に忠告しとくね。

君より優秀で召喚された勇者がいる教室だから調子に乗ってる奴が多いんだよね」


「その意味の無い情報を落ちこぼれ勇者に言ってどうしろと?」


「だから、君を見下してくると思うけどくれぐれも気をつけてね」


何に対して言ってるのだろうか?

まぁ、考えても仕方ないか…。


ガラガラガラ


と教室のドアを開いて俺は中に入るとそこには…。

勇者がいた(当たり前)。

じゃなくて、王子みたいなのがいた(当然)。

それも違った。

美男子やら美少女やらしかいなかった。

って、俺だけ何か普通じゃん!


俺は教室中を少し見回すとルミアネと目が合う。

ルミアネはそれと同時に笑顔になり俺を見る。


危うく勘違いしそうになる瞬間だな。

ルミアネは罪な子だな。


「席は自由だから遠慮なく堂々と座っていいんだよ」


少女に言われて俺はルミアネの隣に座る。


「よっす、元気にしてるか?」


挨拶をすると、ルミアネはコクリと頷く。


「おはよう、あなたの方は?」


「俺は平気だ」


俺とルミアネで軽く挨拶を済ますと先ほどの少女が俺の隣に座って来た。


「んじゃ、私はここで…。

そうだ、魔力層は切っとかないと」


そう言って少女の魔力は薄くなり、肉眼でも素顔が見えるようになった。


因みに席は三つの椅子が並んだ長机があり、そこに座るという形だ。

そして、一列ごとに段々と上がって行く。

そんな形になっている。


「この人は?」


ルミアネ何かむすっとしながら少女を見て呟く。


「さぁ、案内してくれたんだが、誰だかサッパリで」


俺がそう言うとルミアネはハハハと顔を引きつらせて笑う。


「全く、よくまぁ会ったばかりの人を信用できますね。

私なら無理ですね」


前の席からそんな声が聞こえる。

この声と口調は…。


「おはようございます。

お二人は相変わらず仲良しですね」


そこには妙にむすっとしたサーナが前の席に座っていた。


「おはようサーナ」


「サーナさん、おはようございます」


俺達二人は挨拶するとハァと溜息をサーナはつく。


「ルミアネはもう少し親しい感じでいいと言ったはずですよ」


「えっと、ごめんなさい」


「え、いやでも別に無理にとは言いません」


ルミアネがしゅんとしてしまい慌てるサーナに不覚にも可愛いと思ってしまった。


ガタンッ


直後、教室の扉が開かれて一人の先生が入ってくる。


あれは…。

確か俺の時の試験管だ。


「みんな、席に着いてくれ。

今日からこの特設クラスの担任となるこの学園の長。

アルティアマ=マステルだ。

よろしく」


アルティアマ先生はそう言って深々とお辞儀をした後、クラスをぐるりと見回す。


「それでは自己紹介をしていこうか。

まず、そこの君はどうだい?」


「え、俺ですか?」


この先生にいきなり俺が指されたんだが何かしたかな?

俺はとりあえず立ち上がり言葉を発しようとした瞬間で止まる。


名前が分からないから最初の言葉が思いつかない。

とりあえず…。


「えっと、一応勇者になるのかな?

名前は記憶が無くて分からないが…」


あ、やばい詰まった。

こういう時なんて言えばいいんだっけ…。

瞬間、頭の中にフラッシュバックされる。

ギスギスした教室で場を和ませようと笑いを取ろうと頑張った馬鹿の姿が…。

ああ、あいつのやってることと比べたら楽だろうな…。

そう思うと自然と言葉が出る。

覚えている訳では無い。

でも、懐かしい記憶…。


「得意な得物は剣で、魔法が使えない魔力無しの一人です。

よろしくお願いします」


瞬間、クラスの雰囲気が変わった。

勇者だと思われる数人の奴からは嘲笑の眼差し。

他の人達は見る気が無かった人が多かったがこれで本当に誰も見る気が無くなった。


数人を除いては…。

俺の両隣の二人は少し顔を緩めている。

というか、ルミアネは分かるけどなんでこの人まで…。

サーナも後ろ姿だから詳しくは分からないがご機嫌そうだ。

サーナのとなりに座っている王子と思われる人なんて笑い堪えてるけど大丈夫か?

ていうか、前の席に座ってるアニーアが必死に宥めている。

アルティアマ先生はやけに嬉しそうに頷いていた。


俺の不幸を喜んだ嘲笑…じゃなさそうだな。

だって、こいつらはおそらくこの場では普通伏せて言うけど…よく言った!という笑いかただもん。


「ありがとうございます。

では、続いてはそのとなりのルミアネさんですね」


そう言って、アルティアマ先生は次にルミアネを指す。


「はい、ルミアネ=ミストです。

体術が一切出来ませんが魔法なら誰にも負けるつもりはありません。

よろしくお願いします」


そつがなくルミアネは自己紹介を簡潔に済ませる。

そして、次に指されたのは前の王子と思われる人だった。


「ああ、俺はルーガス=デンロードだ。

一応、王子だがなんとも言えない立場だ。

よろしくな」


その言葉にサーナが少しむせる。

あ、この人って多分サーナの婚約者だわ。


それに続いてサーナ、アニーアと問題もなく終わる。

一々、一人一人覚えろなんて言われても俺は諦めて殆どの人を聞き流していた。

数人を除いては…。


「一ノ瀬 日景だ。

一応、勇者やってる。

自分では勇者の中で強いと自負している」


その発言に周りの奴らはうんうんと頷いているがその反対で遠くの席の勇者っぽい人達であるほど嫌悪の目や舐めきった目、そして呆れた目がある。

勇者の人達は怖いな。

本当に同じ日本から来たのかよ?

ていうか、男衆が特に怖いわ。


その後も勇者達の派閥争い的なノリが見えながらも無事、自己紹介は最後の一人までいった。


「では、そこの方」


最後に指されたのは俺の隣で座る謎の美少女である。

本当に謎である。


「コホン、では自己紹介といきますか」


そう言って少女は席を立つ。


「私はクリアス=ヴァント一応吸血鬼の王女だね」


瞬間、俺とルミアネと勇者達以外の動揺が走った。


「あれがあの吸血姫の素顔?」「バカなあんな可愛いなんて…」


というか、王子王女問わずに本音ダダ漏れですよ。

うちの国の王子達を…やばい二人とも凄い汗が出ている。

俺はサーナを見る。

一応あいつも素顔を知ってるはずだし…。


「白いとは分かっていたけどあそこまで白かったんだ」


何か別のことを考えている。


「なぁ、ルミアネ。

何でこんなに動揺が走ってるか分かるか?」


俺の問いにルミアネは首を傾げて分からないといった表情をする。


「ごめんなさい」


「いや、謝る必要はないだろ?」


「いや、役に立たなくて…」


「いや、少し知りたい程度だから安心してくれ」


「…うん」


俺は少し落ち着けてサーナの肩を叩く。

因みに当の本人はもう座ってるので本人に聞いてもいいのだが、サーナの方が聞きやすい。

更に先生は放心状態に入ってる。


「な、何ですか?」


「いや、何でクリアスの時にみんなに動揺が走ってるのか知りたくて」


「ああ、そのことですか…。

簡単に言えばクリアスの存在が特殊ですからね。

まず、吸血鬼という中立の立場である点と強大な威圧により隠していた姿が問題あると思えます」


要するに普段とは違う印象に動揺を受けたのか。


「フフフ、そうだね。

でも、そろそろ混乱状態を解かないと今日のすることは自己紹介だけで終わっちゃうからサーナちゃん頼める?」


「わかりました」


サーナは隣から入ってきたクリアスに頼まれてため息を吐きながら周りを落ち着かせる。

それに伴って勇者達も落ち着け始める。


でも、普段から鉄仮面を被る王族達を動揺させるのはある意味では天敵とは呼べなくもない。

そんなこんなで自己紹介は終えたのだった。

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