第9話 会議(サーナ)

私は現在ある集まりに参加していた。

王族達による会議である。

主に今回参加するのは学園に入る予定の者達である。

他の国から来る王族は試験免除とされており、私などのこの国の所属の王族、または勇者はしっかりと試験を受ける必要があった。

これも体裁上の問題らしい。


「にしても、遅くないかしら?

吸血鬼の国のお姫様」


それを呟いたのは隣国の王女ミレニア=トーレイ。

ミレニアは第一王女であり、おまけに自国とは違って大変裕福な国でもある。

その事実を後で小突けばうちのところのお姫様(アニーア)が膨れ面で目に涙を溜めそうだな。


「そうですね。

約束時間から大分経ちますし…」


アニーアは心配そうになにかを考える。


「もう、これは僕達だけで始めてもいいのでは?」


ひとりの少年が発言する。

彼は少し遠い小国の第三王子のテルテリア=サルド。

私達よりも少し若くして学園の入学を希望した少年である。

どうやら、自国で召喚した勇者が心配のようだ。


「もう少し、待ってもいいんじゃないかな〜」


そこで獣の耳を持った少女が呟く。

彼女は獣人の集う国の王女ファンリア=ガモン。

特有能力の高さが売りの獣人だが、彼女は一味違う。

実力主義なだけはある強さを持っている。

ランクにするなら大体SSSS+くらいであろう。

少なくても私とは互角に見えるが、僅かにあちらの方が強い。


「それにしても、遅すぎるというのも問題では?」


次は一人の美青年が呟く。

彼はエルフの国の王子スィーナム=リィール。

エルフの国というのもあり、かなりの魔法の強さを持っている。


その瞬間、バタンッと扉が開かれる。


「あれ?私がビリ?

まぁ、どうせ遅れてるしごめんね」


そう言って入ってきたのは漆黒とも呼べてそれを覆い尽くしてるかのような赤色の少女。

圧倒的な存在感…わたしには一筋の汗が流れ落ちる。

いいや、私だけではない。

この場にいる全員が黙っていたのだ…。

私は二度目とは言えでも、この覇気とも言えない威圧感には気圧される。


吸血鬼の国の王女、クリアス=ヴァント。

強さは強さは折り紙付きで世界最強クラスと言われている。

とは言っても事実上の最強というわけではない。

彼女は推定ランクはS1ランクの化け物。

世界にはS10ランクにまで達した化け物がいるという話は聞くが、それでも私たちの中では今のところは決して勝てない領域…私や異界の勇者が強くなっても一対一で勝つには特化した力を待つしかない。

それなら、魔王はクリアスが倒せばいいと考えるだろうが、クリアス曰く、勝つには力が足りていないらしい。


「…」


「あれ?みんなどうしたの?

黙っちゃって?」


「クリアス様、自分と周りの実力をよく理解してください」


「そういうことね…。

とりあえず、サーナちゃんこんにちは。

少し勇者と言う人達を視察していたら遅れちゃった」


綺麗な作法でクリアスは頭を下げる。

彼女自身、とんでもない美少女である。

それに対して畏怖と同時に見惚れてしまっていた。


「…ま、まぁいいと思いますよ。

話し合うにしても勇者を知らなくては意味もありませんし…。

では、これより王族による王子、王女の会議を始めます。

皆様は席にお着きください」


沈黙を切り裂いたのはアニーアだった。

彼女はこういう時にかなりの度胸などを見せてくれる。

私と私と婚約している筈の王子はこの会議に参加する必要あるのかな?

そうしてる間にもアニーアが仕切っていく。

先程から話していない人もそれぞれ紹介に入るようだ。


「本日入学していただくのは人族私達含め8名、獣人7名、エルフ3名、吸血鬼1名となっています。

人族は私、アニーア=ゼンレイドと私の兄のルーガス=ゼンレイド、それとその婚約者のサーナ=ミミーリ。

そして、隣国の第一王子のマーグ=トーレイ様とその妹のミレニア=トーレイ様。

勇者召喚を行なっていただいた国から来た第三王子のテルテリア=サルド様とその兄の第一王子のコルド=サルド様。

そして最後に遥か遠方より来ていただいた巫女姫のチカ=ホシカゲ様となっております。


獣人は王女のファンリア=ガモン様、その兄ファングル=ガモン様、その姉のフィアング=ガモン様。

そして、王位継承権の所持者のツバルガ=シムス様、ミィーリ様、クローエム=ウォーテ様、ダーラ=コニー様です」


因みに王位継承権所持者はいずれも男だった。

まぁ、この分だと時期王はファンリアになるだろうと思う。


「続いてエルフの第一王子スィーナム=リィール様、その妹のフィーラム=リィール様、その弟のリューカル=リィール様です。

最後に吸血鬼の第一王女クリアス=ヴァント様となっております。

以上、計19名により会議を進めていきます」


それと同時にこの場にいた人間の雰囲気が変わる。

変わっていないのは私とクリアスくらいだろう。

しかし、彼女の場合は変える必要がないと余裕を持っているように見える。


「その前に聞きたいのですが、アニーア様。

あの勇者は魔王を舐めているのですか?

他の勇者には素質はあるけど、彼を勇者にするのはどうかと思うのだけど?」


ミレニアの発言に私はしまったと思う。

痛いところを突かれた。

彼そのもののスキルは少ない。

更に魔力無しとくれば強い精霊などと契約しない限り弱い。

それなり、そこらの精霊使いと何も変わらないと言いたいのだろう。

私もそう思った。

しかし、彼の強さは目の前で戦いの中の彼を見ないと分からないものである。


「サーナちゃん、その勇者ってひょっとして冒険者してる?」


「え、はいそうですけど…」


「ふーん」


私の言葉にニヤリと笑う。

なぜ知ってるのかと聞こうと思ったがクリアスはそこからは黙ってしまった。


「それと比べて私達の召喚した勇者は優秀よ。

無限に武器を召喚できるのですよ。

そして、他にも魔術師としては一級品の勇者などの複数の勇者の召喚に成功しました」


ミレニアは自慢し始める。

たしかに彼以外の全員の勇者はルックスもいいしスキルにも恵まれている。

しかし、何か足りないのだ。

彼とは違い覇気というか、強さが足りないような気がする。


「姫巫女の方もそう思いませんか?」


ミレニアはチカに矛先が向かう。

男は男で話してるようだ。

というか、私の婚約者は「一番可愛いのはサーナだ」とか叫んでますけど、恥ずかしくなるのでやめてください。

この時ほど婚約しなければよかったと思わなかった。


そうして、王女側も気付けば勇者の中のタイプの話をしていた。

そして話に参加していないのは私とクリアスだけは話に参加せずに会議は終了した。

結論はより早く籠絡した人のものとなっていた。

もう、これは会議の必要があったのかな?


「サーナちゃん、ちょっといい?」


クリアスから会議に終わってから私に話しかけて来た。


「大丈夫ですけど、どうかしましたか?」


「なら、ちょっとこっち来て」


そうして、連れてこられたのは一つの部屋だった。

ご丁寧に防音などの結界を張っていた。


「一つ質問だけど、君のところの勇者君は何者なのかな?」


「私が知りたいくらいです」


「なるほど、君も知っているんだね。

彼の実力を…」


それはそうだろう。

これの実力は結構見て来たのだ。

大体S+からSSのランクおそらく今回の異界の勇者の中では今のところは最強だろう。

しかし、それがどうしたのだろうか?


「君はSSランク代だと考えているよね?

なら、聞くけど…」


クリアスの表情が変わった。

先程までとは明らかに違う圧が出ていた。


「どうかしたのですか?」


私が聞くと同時にニヤと笑い方を開く。


「どうして、私に傷を付けることができるのかな?」


瞬間、私の頭が真っ白になった。

目の前にあるのは彼女が見せて来た腕の傷、この切り口を私は知っている。

これは彼の切り方…。

でも、彼ではなく似たような切り方をする人が…。

いない…私はSSSSSランク以上の人間を全員把握しているが、クリアスに傷をつけられてこの切り口の出来る者は一人もいない…。


「どういう、こと?」


「やっぱり、君は彼の実力を見誤っていたんだ…」


そうして、彼女はこの傷を自分の再生能力で完全に治して経緯を話し始める。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ほう、面白そうな戦いだな」


クリアスはそう呟いて少年達の前に躍り出る。

そして、一振りで吹き飛ばす。

身体能力に制限をしており、死なないようにしている。

それでもSSSSランクでも昏倒する一撃である。


「やばっ、やり過ぎた…え?」


瞬間、不思議なことが起きた。

一人の少年が立ち上がったのだ。

目は虚で気を失っていることは確かだ。


「彼は確か…勇者の…」


クリアスは一瞬頭によぎったが、今は楽しむことが一番と考え直して少年に向かって走り出す。

瞬間、更に不可解だった。

すぐ近くにだ。

瞬間移動でもしたかのように剣を握った少年が立っているのだ。


「うそ…魔力も感じないのに…その速さ…」


その瞬間、剣が振るわれる。

咄嗟にクリアスは腕で防御の行動をとる。

SSランクの攻撃くらいなら傷一つ付くことがない。

その油断が間違っていた。


ズサッ


体が切れる音が聞こえる。

その瞬間、クリアスは思いっきり地面を蹴り何とか大事にならずに済ませた。


「…負けられない…終わ……」


少年は呟き続ける。

最早言葉になっておらず、それは本能による動きであることを示していた。


それと同時にクリアスはこの時、初めての恐怖があった。

故に加減を忘れた一撃を放った。

究極の魔力による放射、光線と呼ぶにふさわしい赤黒い魔力の砲撃が発射された。


ズドドドドドドドドドドドッ


「何で?

何でそれを避けることができるのかな?」


クリアスは強者が好きだ。

しかし、目の前にいる少年は未知なのだ。

そこには確かな恐怖と同時に憧れも入り混じった。


「いいわ、私の全力で…」


ドサッ


クリアスが全力を使おうとした瞬間、突然糸が切れたかのように少年は倒れたのだ。

クリアスは少年に近寄り、傷を治そうとした直後だった。


「これは…魔力の残滓?」


とても微量ながら少年は魔力を纏い、強化をしたことを示している。


「面白い…彼は一体何者なのかな〜。

ふふふ、フフフフ」


クリアスは楽しそうにしながら周りの冒険者達のきずも治してその場をは去った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「…ということがありました」


「なるほど、そういった理由で遅れたのですね」


私の言葉にクリアスは頷く。


「にしても、魔力の残滓ですか…」


「私の予想だけど、言っていい?」


「言ってみて下さい」


彼女の予想は馬鹿にはならない。

かなり的確なことを言うので私としてもお願いしてでも聞きたいものだ。


「彼の能力って覚醒をしてないのではなくて、その逆で、本来の能力を分かっていないんじゃないの?」


「となると、鍵を握っているのは…」


「そう、魔力吸収だよ。

それが魔力吸収とは別の能力の仮初めの名前だと私は思ってるよ」


もし、そうならばこれは私達の判断ミスということだ。

私は畏怖と同時に喜びが込み上がってくる。

何故、私はこんなにも喜んでいるのかは分からない。

でも、他の勇者と比べて思入れがあるというふうに自分で納得させた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『それが貴様の答えだ』


うるさい


『あなたが憎いのは人なのでは?』


黙れ


『憎いであろう、自分の仲間を殺してきた人が』


黙れ…黙れ


『いつまでそんな笑いで取り繕っておる』


うるさい…黙れ


『貴様は憎いのだろう?我々と同じように裏切られて…』


お前に俺の何が分かる…


『分かるさ…今私達は君の目を背けているところまで見ているのだから』


俺は何も覚えていない


『何をおっしゃりますか、目を背けているのでしょう?これ以上憎まない為に』


そんな事実は…


『あなたは目覚めるべきなのです』


何を言っているんだ


『あなたは魔王になる素質を持っている』


俺は勇者だ


『フフフ、笑えない冗談ですね。

あなたは勇者であり、魔王でもあるのですよ』


意味がわからない


『さぁ、その憎しみを解放しなさい。

あの日のように…』


俺は…俺は


『さぁ、再びあなたは君臨するのです。

全てを失った死神として』


俺は…俺は…俺は


『さぁ、早く』


俺は…ならない


『何を今更…』


俺はお前の求める暁 藍葉じゃない。


『はい、その通りです。

ですからあなたは…』


俺は、** ***だ!


『そうですか、ではまたいずれ…』

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