第8話 合格して、その後?

次の日、俺とルミアネは二人で合否の発表を受け取りに来ていた。


「えっと1753番です」


「136番です」


俺とルミアネはお互いに緊張しながら受験番号を言う。


「えっと、1753番と136番ね」


そう言って俺達二人にそれぞれ渡してくれた。

俺はサッ封を解いて、中身を見る。


ーーーーーーーーーー

受験番号1753番

体術順位2位

魔法順位 順位外

総合順位469位

合格ライン500位

結果 合格

ーーーーーーーーーー


かなりめんどくさい感じに書いてあるが、要するに合格ということだ。

だか、まだ安心するのは早い。


「ルミアネ、お前は?」


「そっちは?」


お互いに見て確認する。


「なら、見せ合うか?」


「そうしましょう」


俺達二人はそっと紙を交換し合う。

そして同時に紙を開く。


ーーーーーーーーーー

受験番号136番

体術順位 順位外

魔法順位1位

総合順位468位

合格ライン500位

結果 合格

ーーーーーーーーーー


「俺より一つ上の順位…。

というか、体術…」


「し、仕方ないです。

伸びしろは不明、Fランク相当の実力と言われて順位外なんですから…」


「な、なるほど…」


そういえば、ルミアネとは一度も近接戦闘を行わなかったな…。

ん、袋の中にもう一枚紙があるな。


ーーーーーーーーーー

寮においての同居者申請

自分の受験番号

相手の受験番号

記入した際は受付まで提出してください。

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なるほどねそうやってなりたい人と同居者になるのか…。

まぁ、俺には関係ないな。

そう思い、俺は紙をしまう。


「あっ、勇者様!」


ふと、後ろから声がして振り返るとそこには金髪の美少女がいた。

確かこの子は…。


「アニーアさん?」


「はい、覚えて頂き光栄です。

あと、さん付けや敬語は無しでお願いします」


「は、はい」


アニーアはその様子を見てクスリと笑うと隣にいたルミアネに目を移す。


「お久しぶりでございますルミアネ=ミスト様」


「こちらこそ、お久しぶりです。

アニーア=ゼンレイド王女様」


そう、形式上の礼節を二人は行う。

というか、俺の周りはやけに敬語を使う奴が多いような気がする。


「それにしても、何でアニーアがここに?」


「それは私も入学試験を受けたからですよ」


アニーアはクスリと可笑しそうに笑い答える。


「てことはアニーアもこの学園に?」


「はい、双子の兄と通うことになっています」


なるほどね兄か、どんな人なんだろう?

まぁ、一応王子であるのだから調べればそのうち分かるか。


「そういえば、勇者様は受かりましたか?」


「ああ、一応受かったぞ」


「それは何よりです」


アニーアは笑顔でそう返してくる。


「それで、アニーアは?」


「…ギリギリ次席合格です」


アニーアは歯切れの悪そうに言った。


「にしては嬉しそうじゃないな…」


「だって、体術4位と魔法3位ですよ。

2位でもないのに次席って…」


「「…」」


瞬間その場は静かになった。

俺達二人は得意な方がずば抜けて高いのだ。

そして、俺達の順位を思い出してみよう。


俺、体術2位

ルミアネ、魔法1位


お分りいただけただろうか?

そう、アニーアの悩みの元凶は俺達にあると。


「あれ、二人ともどうかしました?」


俺達二人はそっと目をそらすことしかできなかった。

そこでハッと何かに思いたったのかアニーアは顔を真っ赤にして慌て出す。


「違うんです‼︎

あの、その今のは気の迷いというか、別にお二人をディスってる訳じゃ…」


「いいんだ…俺はどうせ魔法が使えない劣等生だからな…」


「いいんです、私なんて魔法しか能が無い子ですから」


「だから違うんですー‼︎」


その後、俺達二人の心傷を治すのに小一時間は要した。


「ハァハァ、お二人とも落ち着きましたか?」


「いや、落ち着いたけどあんたが一番落ち着きなよ」


「周りから見られてますしね」


「誰の所為なんですか…」


ルミアネの言葉に泣きそうな声でアニーアは呟く。


「そういえば制服、寮費、生活費、食事代などは約束通りに国が負担します。

それでは…」


アニーアはそう言って去って行った。


「そういえば、そんな話あったな」


「忘れてたんですか?」


ルミアネはため息を吐きながら俺に問う。


「正直、忘れてた」


「はぁ、とりあえずもういいです。

私は家の方にそろそろ戻らないと行けないので、次に会えるのは入学式くらいになりますね」


「おう、じゃあな」


「はい、さよなら」


そう言って俺はルミアネと別れた。

明日明後日とルミアネとは会えないらしく、よくよく考えたらルミアネとは知り合ってから会わない日は無かった。

まぁ、基本模擬戦をやっているだけで甘酸っぱい雰囲気なんて殆ど無かったがな。


「とりあえず、俺の方は学園でも少し見て回るか」


別に特別、歩き回ってはいけないなどの注意書きなどは無いので、校舎には入らないが見て回ることくらいならできる。


「ん、あれはサーナだな」


俺は見知った顔を見つけてそちらに向かう。


「よう、サーナ」


「あ、こんにちは。

今日はどうしたんですか?」


「いや、学園を見て回ろうかと思って…」


「なるほど、私と同じ目的でしたか」


「うん?お前ってこの学園の生徒じゃないのか?」


確か、俺が召喚された時に来ていた服装が制服だったような気がするのだが…。


「ああ、召喚の時の話ですか。

それなら簡単に説明できますよ。

私は元々平民出身なので、正装などは持っていません。

だから、先んじて制服を取り寄せて着ていただけです」


「なるほどな、でもそれってもし受からなかったやばくなかったか?」


「その心配は及びませんよ。

SSSSランクの評価は伊達じゃありません」


そう言って俺に一枚の紙を見せてくる。

どうやら、今日配られた受験合否の紙のようだ。


ーーーーーーーーーー

受験番号3番

体術順位1位

魔法順位2位

総合順位1位

合格ライン500位

結果 合格

ーーーーーーーーーー


それは主席合格の紙だった。

本当に勇者の名は伊達じゃ無いようだ。

多分、勇者と呼ばれるものの中で今のところの最強はサーナだろう。


「魔法が少し残念でしたが多分、ルミアネさんでしょう。

ですので、元より主席合格の可能性しか考える必要がなかったのですよ」


「同じ勇者でもこんなに差があるのか…」


俺は入学だけをひたすら考えていたのに…。

まぁ、俺は落ちこぼれで魔力無し、彼女は元より世界の勇者だ。

比べてはいけない。

初代魔王が初代勇者でなければ、彼女のような世界の勇者が異界の勇者より活躍したのだろう。


「とりあえずは合格したようなのでおめでとうございます。

順位の方は何位でしたか?」


「469位だけど…」


「なるほど、それで一番高い順位の方は?」


「体術で2位だ」


「それなら、特設クラスですね」


「特設クラス?」


「一方の才能が極端に強い場合の人、または潜在能力などがズバ抜けて高いのに弱い人などが入るクラスですね。

そのクラスは主に異界の勇者が入ります。

それに乗じて王族関係者や私のように勇者関係の人が入るクラスです」


何か?

要するに勇者育成クラスなのか?


「でも、何で王族?」


「曰く、勇者を色仕掛けで籠絡して取り込むためだそうです。

私の場合は指南役として入れられるのですが…」


なるほど、要するに勇者という存在はそれだけの影響力があるのか…。


「まぁ、例外としてはあなたのような人くらいですね。

それとこの調子だとルミアネさんも特設クラスに入ると思います。

なので、安心して大丈夫ですよ」


よく分かったな。

ルミアネとの縁はこれで終わりかな〜と感慨深く思っていたことを…。


「自信は持って欲しいですけど、言い寄られても勘違いしないようにしてください。

あなたの場合は実力が無いと分かった途端に離れられてしまいますから」


「分かった、たしかにその通りだ」


俺はそうため息を吐く。


「私はこれから用があるので、今日のところは話もここまでにしましょう」


そう言ってサーナはその場を去って行く。

俺もこれから用があるので丁度良かった。

多分、今日が最後となるであろう冒険者ギルドでの訓練だ。

俺は学園から出て冒険者ギルドに向かう。


「こんにちは」


「こんにちは、今日の訓練も志願者が結構来てますよ」


「まじか…」


「今日が最終日と言ったら、みんな揃って志願して来ましたよ」


「なら、職務怠慢で叩き潰してやろう」


「ほどほどにしてあげてくださいね」


そう言って俺はいつもの訓練場に向かう。

そこには数十人に及ぶ冒険者達だ。

全員が全員知った顔だ。

新人で受けてきて、返り討ちにした奴や、新人育成のために数十度に及ぶ模擬戦を繰り返した人、俺の噂を聞いて腕試しに来た中級から上級の冒険者達…そして、昨日SSランクの冒険者もいる。

いないのはルミアネくらいだろう。


「さて、今日が最終日だし最後はこちらが花を持たせてもらおうか」


「先輩、今日は全力で叩き潰しに行きますよ!

対軍用の戦い方を身に付けたいと言っていたじゃないですか?」


「俺が指揮をとる。

Sランクは基本それぞれの命令系統に回れ。

他の冒険者達はそれぞれSランク冒険者の指示に従うように」


「あんたのお陰で俺はSにまで上がれた。

それでも一度も勝てないのは悔しくてな今回は全員で掛からせて貰うぞ」


殺気も立っているが、これは俺の訓練依頼の真骨頂だろう。

いずれかのような事態になる可能性を考えて依頼をしたのだ。


「なら、こちらも全力で掛かろう」


俺は全力で踏みしめる。

SSランクの冒険者が大元の指揮を執ってる。

そして、それぞれのパーティーなりのやり方をしっかりと活かしてくるだろう。

なら、こちらも全力で答えなくてはならない。

初撃に大量の魔法が飛んでくる。

これは避けるしか無い。

魔力操作は集中力がいる。

こんな混戦状態で使えるような技では無い。


「ハァァァ!」


そう叫んで飛び出してくる前衛の冒険者達、Sランク冒険者は前衛の後ろの方で隙を伺っている。

俺は全力で攻撃をいなして、攻撃をする時間を作る。

少しの間のうちに俺は剣を振るい、吹き飛ばす。


「今だ!

突撃!」


「ちょっと待て…」


今がチャンスだと思ったSランク冒険者の一部が突撃してくる。

そんな中で突撃しない冒険者達は止めようとするがもう既に遅い。

俺は樋の部分を握り、剣を振った後の反動を無理やり修正する。


ドンッ


そんな音を立てて、数人吹き飛ばす。

そのうち何人かは上手く回避を行う。

しかし、この程度で猛攻が終わるならばどれだけ相手にとってよかったのだろう。

なぜなら、この程度で連撃が終わりな訳ないのだから…。

更に言えば、俺の攻撃を防ぐ術は殆ど無い。

Sランクというのは魔力による戦闘をある程度極めないとならないのだ。

要するに魔力による、身体強化などを行っても反応もギリギリで一撃食らえば簡単に吹き飛ぶ。

そんなことが俺は出来るようになっているのだ。

まぁ、これでも未だにサーナのできることの半分くらいの実力なんだけどな。


「化け物かよ。

単純な体術系統の戦闘能力とセンスだけならSSランクと同等、いやそれ以上か…」


ズドンッ


そんな言葉聞こえると同時に大きく大地を揺るがす音が聞こえる。

どうやら、SSランクの男が戦うようだ。

男の周りの地面は酷く抉れている。

これが魔力だけで起こしたことなのは、何となく分かるが信じたくない。

魔力があると無いとでは決定的過ぎる差が生まれているということなのだから…。


男は身を屈めて走り出す。

周りのSランク冒険者達は攻撃するのを止めて、守りに移る。


ガンッギンッガンッ


と剣を打ち合う音が鳴る。

SSランクとは一類の才を持つものが多い。

なら、彼もなんらかの才能を持っていることに他ならない。

しかし、これで俺と同等か…魔力を使わずに俺と同じって、かなりやばいな…。


「チッ、思った以上のステータスだな。

やはり、勇者は他の奴とは違ってレベルだけで強さの判断が出来ないな」


どういうことだ?

いや、この人が勇者だって知ってるのはあの時試験にいたからまだ分かるが、レベルって…。


そういうことか…、この人は相手のレベルを見て判断してるのだ。

故に戦う相手との大きな差が出来にくく、ある程度無茶をできる。

それ故のレベリングと技術などの向上をはかるのが容易なるスキルだ。


「思った以上に厄介な相手だなお前は!」


「お前に言われても皮肉にしか聞こえねぇよ」


俺の叫び声に不敵な笑みを浮かべて返してくる。

俺達は更に早く剣を振るい戦う。

今のところ、俺の方が押されている状況だ。

でも、まだ引くわけにはいかない。

少しずつ考えて、1%でも高い勝つ手段を導き出さなくてはならない。

俺達二人の戦いは激化し始めてSランク冒険者達は戦いに入る隙すら見つけるのを諦め始める。

そう、SランクとSSランクの決定的な実力の壁を彼らは見ているのだ。


しかし、そんな時に変化が起きる。


「ちよっ、ダメですよ!」


「別にいいでは無いか。

今は訓練場でいろんな奴が戦っているのだろう。

私にも混ぜさせてくれ」


少女の声が入り口から聞こえてきたのだ。

しかし、俺ら二人の戦いはそれでも止まらない。

だが、それが…あんなことになるとは思わなかった。


「ほう、面白そうな戦いだな」


そう、微笑みの言葉を俺は最後に聞いた言葉だと後から気が付いた。

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