第6話 魔王因子

薄い水色のなびく。

それに呼応するかのように、月明かりが現れる。

彼女の右手には綺麗な銀色の剣が握られている。


「お前は…」


彼女を俺は知っている。

彼女が本来の勇者?

ていうことはあの時感じた嫌悪と嫉妬の目の理由は本来の勇者だったからか?


「なるほど、とりあえずは彼は白ということか」


「お分りいただけたようで」


そう言って彼女は右手に握っていた剣を収める。


「報告としてはたしかに彼と戦っている途中からですが、彼が無意識ではない限り彼が魔王因子化の原因とはなりません」


俺を置いて二人は話を進める。


「あれ、俺って当事者だよね?」


「そうですよ、あなたは当事者です」


「君がいないくても話は進めることはできるけどシェーナ君とルミアネ君も話に混ぜないとね」


そうして、アルギは場所を整えて机と椅子を並べていく。

全員それぞれ座っていき俺とシェーナ、ルミアネは固まって座った。


「それでは、まず話をする前に魔王因子についての説明をしましょう」


サーナが話し出す。


「そうだな、ギルドマスターをやっているが魔王因子について何もわかっちゃいねぇ」


「そもそも、魔王因子そのものがわからないのですが…」


ルミアネがおずおずと言う。


「まぁ、それが普通だよ。

冒険者をやっていくなら知ることになるけどね」


アルギがフォローするかのように言う。


「それであなたは知ってるのですか?

魔王因子について」


サーナが俺に質問してくる。


「俺は、この知識があってるなら知ってる。

あまり覚えていないけど、知識として覚えている」


「なら、説明してみてください」


「わかった。

魔王因子というのは、基礎として外のエネルギーを限界以上に取り込む状態を指す。

特徴としては魔力によりできた翼を持つこと。

そして、これは魔王に沿った形故にその名を刻まれた。

と聞かされたことがある」


「まぁ、概ね合っています。

正確には、初代勇者であり初代魔王であるアカツキ アイバの能力に酷似していた故に魔王因子と呼ばれたのです。

特徴は無限に魔力を吸収し続けるという点です。

おまけにそれら全ての魔力、翼も含めて制御できるのも特徴的です」


「要するに、初代魔王の顕化といったところか?」


アルギの例えにサーナは頷く。


「でも、そんな現象が時折でも発生していたら…」


「そう、簡単に国一つは滅ぶだろうな」


ルミアネの言葉に俺が答える。


「でも、それが起きるのは原因がある。

例えば、特定の因子などの干渉…違うか?」


俺は続けて言うと全員驚いた表情になる。

しかし、冷静さを崩さずにサーナは頷いて答える。


「そう、それが本来の名前の由来で。

初代魔王に関係する力の干渉により、現れる」


やはり、そうか。

おそらく、初代魔王に関係すること全てなのだろう。

魔王の遺物などでも反応して魔王因子型魔物が生まれるというわけだ。


「それにしても意外だな。

お前達がそこまで詳しいなんて…どこで知った」


アルギさんが俺たち二人に問いかける。


「さっきも言ったとおり俺は知識としただけ覚えているだけで出所は覚えていない」


「私は王から教えてもらいました」


俺達二人はそれぞれ答える。

まぁ、一応あちらも勇者だから教えてもらえるのか。


「そういえば、あんたは王子と婚約してるだったか。

それは聞かされて当然だよな」


理由がそっちでしたか。

でも、婚約か…。

こんな可愛い子と…。


「大変不本意ですがね」


あ、この人言い切ったよ。

堂々とおまけに顔色一つ変えずに拒否しちゃったよ。


「嫌なら断ればいいだろう?

別に犯罪者になるわけでもないし」


「好きな人もいないので玉の輿もいいかな?

と思っただけです」


うん、知ってた。


「まぁ、私の話はとりあえずいいです。

とりあえず、今後についてですが、あなたには冒険者としての活動を休止してもらいます」


「ちょっと待て。

それじゃあ、俺の学園入学試験までの暮らしなどはどうするんだよ!」


このままじゃ餓死するし、試験合格できるか…。


「えっ、学園の入学を希望してたんですか?」


ルミアネは驚いたように俺を見る。


「ああ、それが俺の生きる条件だからな」


「それって…」


「それに関しては心配いりません。

今回はこちらの判断なので、最低限の支援はします。

それに、今回の討伐報酬でかなりの額が入ると思いますよ。

試験合格をするための修練についてはここの訓練場を借りて依頼してください」


なるほど、それなら修練もできる。

そして、支援がある以上生活が困ることはない。


「それでいいよ。

こちらとしても生きることができるならなんでもいい」


「賢明な判断です」


俺とサーナの話が纏まったところでルミアネがおずおずと話し出す。


「あの、私が全然話についていけないのですが…」


「そういえば、彼女には説明がまだでしたね。

お父上から報告されませんでしたか?

確かあなたの家は協力した貴族の一人だったはずですが…」


うん?

それって…。

ルミアネが貴族ということ?


「はい、たしかにそうですけど、聞いてはいませんよ」


「こいつは異世界から召喚した勇者で色々な事情があって学園に入らないとかの国から10年の追放されてしまう。

ざっくり説明するとこんな感じです」


たしかにざっくりしてるけど、要点だけは押さえてあるな。

間違ってる部分はなく細かい部分の説明がされていないだけだ。


「なるほど。

でも、勇者という存在は戦闘に不慣れな筈じゃ…」


そう、そこは俺自身も疑問に思っている点だ。

俺は今までで戦闘の不慣れを感じたことがない。

むしろ、慣れているのだ。

相手を殺した時も血を見た時も返り血を浴びた時も俺は冷静に戦っていた。


「そう、そこは私も問題視をしている点で聞きたい部分でもありますが、おそらく記憶が無くて彼も混乱してると思います」


その言葉に対して俺は頷く。

それを見てアルギとサーナはやはりかと言った表情で溜息を吐く。


「となると、何を質問しても分からないと答えそうだな」


アルギは打つ手なしかと苦い表情をする。


「とりあえず、今のところはこの話は終わりになりますね」


先程から黙っていたシェーナが発言する。

それに対して俺達は頷くしか無かった。


「まず、彼は私どものギルドの訓練場にて冒険者達と手合わせをする。

彼は今のところは戦闘系依頼の禁止です。

できるとしたら、盗賊退治とお使い系くらいですね。

そして、こちら側のギルドとしては今回の件で極力彼に協力して優秀な人材が欲しいのでこちらは最大限の協力といつも暇そうにしてるギルドマスターを時折送りつけます。

王様の方は最低限の支援を送る。

でいいですか?」


俺とサーナは頷く。


「ちょっと待て、なんで俺が…」


「今現在、Sランク相当の人材は遠征に行っておりいつ帰ってくるか分からない状況です。

となると、訓練を付けられるのはギルドマスターくらいしかいませんよ」


「うっ…わかった」


渋々と了解するアルギ。

この人は立場がないのだろうか?


「それで私は…」


ルミアネは自分は何があるのか気になるようだ。


「そうですね、ふつうに冒険者をして頂いて結構ですよ」


「なら、彼の訓練依頼を受けるのも?」


「ありです」


「わかりました」


ルミアネはしっかりと頷く。


「とりあえず、こんなところでしょうか?

あ、あとギルドマスター、ついでですから言いますけど、他の国も召喚に手を出そうとしてるところがあります」


「わかった。

こいつみたいなイレギュラーがなければ良いのだがな…」


「少し大事なことのような気がするけど、もう遅いし解散にします」


サーナがそう言って立ち上がり部屋を出る。

俺とルミアネも目を合わせてそのまま立ち上がり部屋を出る。

冒険者ギルドの前で別れた。


「そうか、俺には何かあるのか…」


俺はそう言って感慨にふけっていた。

とりあえず鍛冶屋に行ってから宿屋に戻ろう。


コンコンとノックして反応を待つ。

少しして扉が開かれて覗いてくる男がいた。


「誰かと思ったらお前か…とりあえず入れ」


そう言って俺を中に促す。


「今回は何の用だ?」


俺はそう聞かれて剣を取り出す。

男はそれを持ち眺める。


「酷いな…一体どんな相手と」


「魔力と瘴気のブレスを弾いた時になった」


「なるほどな、一体どんな状況になったら昨日なったばかりの新人がそんな状況に陥るのかは聞かないが、それではこの剣では耐えられないな…」


しばらく俺の剣を見た後に俺の方へ向き直す。


「それで、今回は新しい剣を作ればいいのか?」


その言葉に対して俺は頷く。


「なるほど、明日の朝に来い」


そう言って男は奥の工房の中に入っていく。

俺も疲れたので帰ることにした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「行ったか…。

あいつは俺について知っていて来てるわけじゃ無いようだな…」


男は工房で先程のボロボロになった剣を見てため息を吐く。


「あいつはこの剣の価値を理解してなさそうだな…。

仕方ない、剣の生まれ変わり作業を行うか…。

金は通常価格でいいか…」


男は滅多に見せなくなった笑顔を浮かべて道具を取り出す。


「さて、この剣はこの先どうなるかだな…」


素材のランクを引き上げて彼は自分のできる最大の剣を作る。

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