第5話 魔王因子型オーガ

「うう、頭痛え」


昨日からうなされており、かなり頭が痛い。


「魔王とか暁とかうるさい」


今も聞こえてくる声の正体には俺は気が付いている。

これは霊などの精神生命体と呼ばれる存在だ。

オカルトチックな話となるが、この存在について分かっているということは俺は昔にも悩まされたことがあるということだ。


「早く、記憶を取り戻したい」


暁とは何者か…それを知るには記憶が必要だ。

暁と言ったらあの時名乗った名前でもあるから怖い。

なぜなら、暁という奴は魔王と呼ばれているのだから…。

魔王と対になる勇者である俺は一体何者なのか分からない。

とりあえず、俺はベットから這い出て着替える。

着替えは元から着ていた学生服くらいしか無く、今日くらいにいくつか買おうと思っている。


とりあえず、下に降りて朝飯を貰いに行く。


「あっ、おはようございます。

朝ご飯はもう出来ていますよ」


「ありがとうございます」


ここの看板娘である少女が俺を見てしっかりと挨拶して朝ご飯を用意してくれる。

とりあえず、近くにあるテーブルに座り食べ始める。

今日から一月滞在する予定だ。

お代はその都度、払う予定で今は一週間お願いしている。

宿屋の名前はティルらしい。

一泊朝晩飯有りで鉄貨20枚くらいで設備はかなり良い。

因みに破損などは即弁償、払えなければ奴隷落ちらしい。

この世界の闇を見たような気がする。


「ごちそうさま」


俺はそう言ってお盆を持っていく。


「お客さん、ありがとうございます」


とニッコリ笑ってくれる。

まぁ、可愛いとは思うけどあまりドキッとはしないな。

部屋に戻り、剣を肩に掛けて服屋に行く。


「いらっしゃませ」


俺は服屋に入り、服を漁る。

昔から勇者を召喚していたのか、日本のような服もある。

俺はそういうのを5、6着選んで会計をする。


「上が6着、下が5着、下着が6着で銅貨3枚と鉄貨40枚となります」


営業スマイルと共にとんでもない金額を叩きつけられる。

何で服ってそんなに高いんだろう?

とりあえず、会計を済ましてギルドカード御都合主義収納を行う。

そして、そのまま冒険者ギルドに向かう。


「おはようございます。

なんか眠そうですね?」


「よくわかりましたね。

少し夢見が悪くて…」


受付の人の質問に俺はそう言って依頼の紙を渡す。


ーーーーーーーーーー

オーク討伐

最低18体

一体当たり鉄貨20枚

ーーーーーーーーーー


「やっぱり、結構報酬が違いますね」


「それはそうですよEランクの依頼は最低ラインですからね」


「なら何でEランク以下があるんですか?」


「それはその最低ラインすらクリアできていない方々のなるランクです。

普通なら最低でもFランクを取ってもらうことが理想なんですよ。

お陰でEランク以上の人がお使い系依頼を受けなくて一部の納品依頼が失敗するという事態が起きるんですよ」


「それは、大変そうですね。

そういえば、もしも依頼内容以外の魔物を討伐したらどうなるんですか?」


「それはその人のランクに合った換算をしっかりと行われて報酬として支払われますよ」


なら、強くなるためにひたすら戦ってもお金は稼げるということか…。


「んじゃ、行ってきます」


「気をつけて下さい」


俺は冒険者ギルドを出て町を出る。

門番の人とも軽く挨拶をして森に入る。


「さて、始めるか。

今日の予定はレベル20だ」


そう言って俺は知識だけあるRPGゲームを思い出す。

通常のゲームだと出てくるまで歩き回るだけど最近のは自分から呼び出す技とかあるな。

とりあえず、昨日はずっとレベルしか確認していなかったし、細かいステータスをしっかりと見よう。


ーーーーーーーーーー

名前 unknown LV12

天職 勇者1.03

魔力量無し

ジョブ

ファースト 無し

セカンド 無し

サード 無し

フォース 無し(解放条件を達していません)

スキル

魔力吸収 不明

天神達の加護 1.11

女神アルレイヤの加護 0.97

ーーーーーーーーーー


やはり、少し強くなっているが、一つだけ問題がある。


「ジョブ変ってどうやってやるの?」


そう、今まで使わなかったジョブを使おうと思ったのだが、どうやってやるかわからないのだ。


キィィィン


と耳鳴りがすると同時に再びスキル名が浮かぶ。

スキル名『ジョブ変更』

どうやら、問題は解決したようだ。


「スキル『ジョブ変更』」


そう言うと同時にステータス画面と似た画面が現れる。


ーーーーーーーーーー

対象 unknown


ファーストジョブの変更

セカンドジョブの変更

サードジョブの変更


獲得可能ジョブ

下級ジョブ

剣士

魔法使い

拳士

槍士

弓士

鎚士

斧士

錬金使い

物作り

治療使い


中級

なし


上級

無し


最上級

無し


超級

無し


伝説級

無し


幻級

無し


天級

無し

ーーーーーーーーーー


大量にあるな。

とりあえず魔法使いとかの魔力を使うものは排除して選ぶか。


ファースト 剣士

セカンド 拳士

サード 物作り


「こんなものかな?」


俺は少し伸びをしてから、歩き出す。

魔物を呼び寄せるにしてももう少し深い場所がいい。


俺は魔物だけを呼び寄せるスキルを念じる。


キィィィン


と再び耳鳴りが聞こえる。

スキル名『魔物寄せ』

分かったことだし、使ってみるか。

大体森に入って一キロくらいの位置だ。

一般人が巻き込まれることも逃げた際に危険なことになることもないだろう。


「スキル『魔物寄せ』」


そう呟くと同時に大量の瘴気と気配が辺りをつつむ。

遠くから来ている魔物もいるが、主にこのスキルは瘴気により引き寄せるまたは魔物の生成ということか。

そう思うと同時に大量の魔物が目の前に現れ出す。


ゴブリン、オーク、スライム、オーガなどなどと協力なものから弱いものまで沸いてくる。


「これは、失敗かな?」


って、やばい。

魔物が増えすぎ。

とりあえず、倒すことだけを考えるか。

俺は剣を抜いて走り出す。


ズドンッ


一撃の衝撃で数体の魔物を同時に屠る。

レベルが上がったことによる恩恵で今までより速くそして強くなっている。

ひたすら、俺は切るという作業を延々と続ける。

しかし、オーガとオークがかなりエグい。

オークなら案外楽に倒せてはいるけど、オーガは肌が固く強い。

オークは数体の倒せたが、オーガは一体も倒せていない。

ゴブリンとオークを少しずつ倒していく。


「グルァァァァァ!」


突如として雄叫びが響き渡る。


「これは…またかよ」


オーガの一体が魔王因子型オーガに変異したのだ。

それに呼応して弱魔王因子型にほかのゴブリンやオーク、オーガが変異する。


「何ですか?

何なんですか?

俺が戦うと必ず魔王因子型に変異する呪いでもあるのですか?」


あまりの動揺に言葉遣いが変になってしまっているが、泣きたいくらいである。

オークとゴブリンが硬くなったせいで倒すのが少し大変になってしまったのだ。


「少し、キツイかな?」


俺はポツリと呟いて走り出す。

死ぬ覚悟で俺は魔物達に突っ込む。


カンッキンッカンッ


と打ち合う音が響き渡る。

俺は敵の懐に入り樋の握りを持ち、切り裂く。

この剣は相手と近くても不利にならない点はかなりいいのだが、本来の間合いの方がやはり強いという点が悲しきことかな…。


「これはまだ練習中だけど仕方ない」


俺は樋の握りのところで逆手持ちにする。

これは、樋の部分を持った戦い方だ。

別段、強いという訳ではないが、攻撃手段が変則的に変わり、格段に攻撃手段が増える。


体を思いっきり捻り、広範囲の敵を切る。

柄の部分で突きを入れ、樋の部分の逆手持ちから樋の部分の普通持ちに戻して剣をふる。

すぐに逆手持ちにして突き刺すように後ろのゴブリンとオークに剣を振る。

オーガに関してはまだ沢山残っているが、ゴブリンとオークは粗方倒した。

そこで俺は初めて魔王因子型オーガを視認する。


真っ黒な肌、三本の大きく伸びた角、紅く光る目。

大量の瘴気と魔力を纏い、大きな翼をはためかせている。

そう、圧倒的な存在の差だ。


俺と目が合うと同時に魔王因子型オーガは動き出す。

黒い翼が大きく動き、俺に向かう。

それは無差別の破壊を撒き散らし、多くの弱魔王因子型の魔物達を巻き込む。


「チッ、一か八かだ。

スキル『魔力吸収』!」


吸収なんて出来ると思っていない、しかし、このスキルで吸収が出来るのならそらすこともできるのではと、昨日打ち立てた仮説である。

案の定、少しだけそれたが、圧倒的な暴力を完全にそらすことはできなかった。


「があっ!」


俺は大きく吹き飛び、近くの木にぶつかる。

口からは血が出ており、体の中のどこかから出血したようだ。


目の前にいるのは大量のオーガと魔王因子型オーガである。

絶望的な状況でも俺は立ち上がる。

俺は最後の最後まで諦める気なんてサラサラ無いんだ。


「『豪雷』」


そう声が聞こえた直後、理不尽な雷がオーガ達に落ちる。

これは魔力の感覚…。


「魔法?」


「助けに入りました。

私はDランク冒険者、ルミアネ=ミストです」


俺の前に突如として一人の少女が降り立つ。

銀髪の髪で三角帽子を被り、露出の少ないローブを羽織っている。

ローブの中は普通の服のようだ。

杖を持っており、いかにも高価そうだった。


「ありがとう、俺はDランク冒険者で名前は忘れてしまってな。

とりあえず、あいつらを倒すことに協力してくれるなら助かる」


俺は再び剣を構える。


「あんたは後ろで魔法を放ってくれ」


剣を構えて俺は静止する。

次の瞬間、数体のオーガが俺を殴りつける。


ドンッ


殴る音が響き渡る。

しかし、それは仲間割れの要因でしか無かった。

そう、俺には一発も当たらなかったのだ。


「え、嘘?」


ルミアネは驚いて固まっている。

俺は左手で剣を握り、右手で樋の部分を持つ。

そして、体をしっかりと回転させて切る。

俺がやったことは簡単だ。

魔力吸収で攻撃をさらしたのと同じ仕組みだ。

本来の使い方ではないので、かなり辛い。

自分から10センチ範囲内でないとそらすことはできない。

今回はたまたま上手くいったに過ぎない。


俺はしっかりと構え直して魔王因子型オーガに向かう。

こいつは俺の獲物だ。

俺はオーガ切りつけながら、魔王因子型オーガに向かう。


俺が近づい行くと再び翼を広げる。

そして、手をあげる。

そこに翼の部分が集まる。

それを魔王因子型オーガは丸呑みにした。

しかし、そんな準備を待つほどお人好しではない。

即座に後ろに周り、剣を振る。


カンッ


やはり硬くて切れない。

オーガ達は既に方向を変えて俺の方に向かおうとしている。

予想通り、ルミアネの方ではなく、俺の方に来たらしい。

当然、今残っている個体は魔力に耐性がある個体だ。

魔法は簡単には通じない分、理解不能な俺に向かうのは当然だ。

俺は魔王因子型オーガを再び見ると、口を開き始めていた。


「それを待っていたんだよ!」


そして、魔王因子型オーガがブレスを吐こうとした瞬間に俺は剣を突っ込む。


「スキル!『魔力吸収』‼︎」


スドォォォォォン


と爆裂音が響き渡る。

その爆発に俺は見事巻き込まれる。

そして…


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


俺は夕暮れの教室の中、親友といた。


「おう、***どうしたんだ?」


「***と言うな、俺はこの女っぽい名前が嫌いなんだよ」


俺は不機嫌そうに顔をしかめて親友の純に向かって言う。


「全く、たしかに嫌な名前だよな。

でも、いいだろ?

親友なんだし」


「お前のような親友は残念ながらいないな」


「酷え!」


俺は少し笑ってしまう。

こいつのノリそのものは俺は嫌いではない。

話も合うし、接しやすくとっつきやすい。


「あれ、二人ともまだ残っていたの?」


教室のドアを見ると一人の女子生徒がいた。


「未亜か、お前こそどうしたんだ?」


「私はノートの忘れちゃって…」


恥ずかしそうに呟く。


「そうか。

そういえば純、あのゲーム貸してくれ」


「要件はそれかよ。

あぁ、いいぜ。

どうせお前は並ぶのも風情だとか言って逃したんだろ」


「うるさいな」


そうやって俺たちは笑い合う。


「そういえば、***、未亜、お前たち二人っていつからの知り合いなんだ?」


「うーん、幼稚園より前じゃないか?」


「うん、大体そのくらいかな?」


「二人して覚えていないのかよ。

そうだ、今度カラオケ行かね!

ほら、光輝や信介、明美に歩美、葉華などを誘ってさ」


「それはいいな。

いつにする?」


俺はこんな日々がいつまでも続くと思った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「う、ううん」


俺は唸り声をあげながら、目を開く。

懐かしの夢を見たがほんの一部分の記憶でしかない。

女っぽい名前ねえ…。

俺は自分の名前のヒントを手に入れることができた。


「あっ、起きました?」


隣には三角帽子を被った銀髪の少女が座っていた。


「えっと、ルミアネさんでよかったよね?」


「はい、どうやら覚えてくれていたようでよかったです」


確か、爆発が起きて…。


「他のオーガ達は?」


「爆発に巻き込まれて吹き飛んでいきました。

おそらくは生きてないでしょう。

にしても、何であなたは生きているんですか?」


「うーん、何でだろうな?」


その言葉にルミアネは苦笑いを浮かべてしまった。

一応、心当たりがある。

爆発も魔力なので、そらすことが出来たのかもしれない。

でも、剣はボロボロで所々消失していた。

服も…。

うん、よくよく見たら俺は今知らない服を着てるわ。


「も、もしかして見た?」


その質問にルミアネは何の話か気付いたのか顔を真っ赤にする。


「だ、大丈夫です。

目はそらしました!

ちょっと、意外と鍛えてるんだなぁとか思ってませんから!」


語るに落ちるとはまさにこのことだろう。

とりあえず、この件はそっと…。


「あの、この服は?」


「あ、この服は予備の服だったので差し上げますよ」


とニッコリと言われてしまった。

俺は日本人ならではの土下座をしたのは言うまでもない。

でも、さすがは勇者達だな。

まさか、土下座まで伝えていたとは…。


その後、何とかルミアネにお礼がしたいと申し出たが、依頼も今ので達成したようでいいと言われてしまった。

なので、俺はルミアネに銅貨3枚ほど贈呈させていただきました。


冒険者ギルドに戻る頃にはすっかり、夕暮れ時になっていた。


「あ、おかえりない。

ルミアネさんもおかえりなさい」


「ただいま、シェーナさん」


とルミアネと受付の人が挨拶を交わす。


「シェーナって名前だったんですね」


「あ、そういえば言ってませんでしたね。

改めて、シェーナと申します。

それではお二人ともギルドカードを…。

にしてもお二人が一緒なんて何が…」


瞬間、シェーナが固まる。


「どうしたんですか?」


「はっ、いえ二人とも少しだけ来てください。

絶対、来てください。

逃げたら、指名手配かけますから!」


「「は、はい」」


気迫に押されて俺たち二人は同じ返事を返していた。


俺たちはシェーナに連れられてとある部屋の前に立つ。


「失礼します。

今回は少し重大な報告があって来ました」


「どうしたんだ、また何か…」


アルギがそこにはいた。

そして、俺を見ると同時にギルドマスターが固まる。

なんか、酷くね?


「また、彼が何かやったのか?」


「ちょっ、アルギそれは酷くないで…」


「はい」


「シェーナも!」


俺は部屋の隅で壁に向かって泣いた。


「えっと、あの大丈夫ですか?」


ルミアネが俺のオアシスだ。


「でも、本当に何をしたんですか?」


「ちょっと、俺は何もしてないよ!」


「あはは、すいません」


この場には誰もいなかった。


「すまない、言い方が悪かったね。

正確には君は何もしてないよ。

ただ、君の周りがね…」


「はい、ギルドマスターこの二人のカードを見てください」


そう言ってシェーナは俺とルミアネのギルドカードを見せる。


「これはまた、沢山の弱魔王因子型魔物と彼に至っては魔王因子型オーガを仕留めたのか」


「え、あの、魔王因子型オーガはわかりましたけど、弱魔王因子型魔物ってなんですか?」


ルミアネはアルギの言葉を聞いて質問をする。


「そうか、普通の人は知らないんだね。

でも、説明の前に…」


アルギは俺に剣を突きつける。


「君は何者だい?

勇者ということはこちらは掴んでいる。

でも、不可解なんだよ。

何で君の周りにはこうも魔王因子型魔物が生まれるんだい?

今回も途中からなんだろう?

本来の世界の勇者サーナ=ミミーリ」


アルギがそう言った直後一陣の風が吹く。


「私にとっては別にいいですけど、あなたがここで彼を殺した場合あなたにも処分が降りますよアルギ=バリエスト」

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