第4話 力の片鱗

「…」


俺はうめき声をあげながら目を開ける。

すぐ近くにはゴブリンの死体がある。

どうやら、何とか勝ったようだ。

最後の方の記憶が殆ど無い。

とりあえず、何とかなったようで安心する。

しかし、これはどういうことだろう。

一瞬だけ、俺の体に魔力の残滓が感じた。

悩んでも仕方ない。

もう暗くなり始めており、周りが見えなくなってきている。

どうやら、かなり時間が経ったみたいだ。

よく、襲われなかった。

レベルアップしたかは、後で宿をとってから確認しよう。

今回の件でもっと強くならないといけないと思ったからな。


「とりあえず、剣とナイフをしっかりと回収しないとな…」


ていうか、このナイフもうダメだな。

俺は手に持っていたナイフを見てため息を吐く。

刃はもうボロボロで使い物になりそうに無い。

剣と投げたナイフに関しては大丈夫そうだ。

俺は死体を集めてマッチを取り出す。

本当にマッチを携帯している高校生は一体何人いるのだろうか?

おまけに数箱持ってるし…。

とりあえず、火を付けて死体に投げ込む。

周りに火が飛ばないように見て、火の後処理をして帰る。


町の入り口に行くと先程と同じ門番さんがいた。


「帰ってきたか、心配したんだぞ。

新人だから無理していないか」


「ありがとうございます。

少し無理したかもしれません」


俺は苦笑しながら返事する。

行きの時よりボロボロになっている俺を見て本気で心配してくれているようだ。

俺はそうして、冒険者ギルドに向かう。


「ふわぁ、おかえりなさい。

ギルドカードをお預かりします」


「ありがとうございます。

まだ、お仕事中ですか?」


「いえ、あなたが中々帰ってこないから途中で死んだんじゃと心配でね」


本当に心配してくれているようだ。

かなり嬉しいことだな。

少し俺は苦笑いをしてしまう。


「何がおかしいんですか?」


「いえ、ちょっと嬉しくって…。

心配されるのは何年振り…えっ?」


「どうしたんですか?」


「いえ、何でも…」


今、俺はなんて言おうとしたんだ?

心配されるのは何年振り?

だって、俺の父さんも母さんも優しくて生きているはず…だよな?

友人も幼馴染がよく…。

思い出せないけど、そういったことがあった。

それだけは思い出せる。

しかし、何かが引っかかる。

自分の発言が何か、鍵を握っていることは確かだ。

でも、思い出すことが出来ない…。

でも、たしかに…。


一度、考えるのをやめよう。

このままだと壊れそうだ。


「あの、すいませんが魔王因子型ゴブリンを倒したって本当ですか?」


「はい、多分倒したと思います。

実際、必死で覚えていないです」


「そ、そうですか…。

これはDランクに昇格ですね…」


「え、はい?」


いきなり昇格って…一体どうして?


「とりあえず、レベルの確認をお願いします」


俺はそう言われてレベルを確認するとそこにはレベル12とあった。

…って12!

いきなりどうして?


「どうでした?」


「えっと12です」


「思った以上に低いですね」


そ、そうなのか?

いや、でも魔王因子型ゴブリンを倒したということはそれだけ経験値が入るのか?

それだと、たしかにレベルが低い感はあるけど絶対これ普通の12より強いよな…。

だって成長補正があるわけだし…。

でも、これでレベルの問題は少し解決できたな。


「でも、強くなれただけいいです」


「そうですか、それならいいです」


とりあえず、今回の成果はDランクに昇格出来た事かな?

でも、俺は本当に何者なんだ?

だって、何で魔王因子型のことを知っていたんだ?


「では、今回の報酬は普通のゴブリン40体鉄貨8枚ですが現在は倍額なので銅貨6枚、鉄貨40枚となります。

そして魔王因子型ゴブリンは本来ならC〜Bのレベルに含まれるので銅貨10枚ですね」


「そんなに…」


「いいえ、正式なランクの人が倒せば30枚が妥当ですが一つ上のランク以外の依頼は報酬が下がるのです」


「そうなのか…」


どうやら俺が無知らしい。

でも、確かにあのランクに指定されるだけの強さはあった。

俺自身、どうやって勝ったのか覚えていない。

そこが残念なポイントか…。

でも、今も残る魔力の残滓は一体…。


「とりあえず、ありがとう。

また明日もお願いします」


「はい、さよなら」


俺は冒険者ギルドを出て宿屋を探す。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ギルドマスター室の扉が開かれる。

そこに入ったのは受付の人だった。


「ギルドマスター、彼が魔王因子型ゴブリンの討伐をしました」


「意外と早かったな。

にしても、魔王因子型ゴブリンなんてものどこで…。

チッ、めんどいな…あんたが報告してくれねぇのか?」


「私はあなた方に雇われた冒険者じゃありませんよ。

まぁ、後々面倒なので報告に来ましたが…」


アルギの声に反応するかのようにひとりの少女が現れる。


「んで、実際どういう状況なんだ?」


「そうですね、彼と戦っていたゴブリンリーダーが急に変異したとしか説明しようがありません。

あと、もう一つ報告するなら彼は確かに魔力を纏っていました」


アルギが怪訝そうな表情をする。


「何?

急に変異したはいい。

可能性としてはゼロではない。

しかし、魔力を纏っていただと?

あいつは魔力を持っていないんじゃないのか?」


「確かにその筈です」


「謎しかない状況か…」


「それに、彼は戦闘慣れもしているようでしたね」


余計、アルギの顔が怪訝な表情になる。

それもそうだろう。

これまでとは確実に違う勇者なのだ。

今までにないタイプで驚きを隠せない。


「とりあえず、報告は終えたんで私は王様のところに行きます」


そう言って少女は再び消える。


「ギルドマスター、彼は本当に何者なんでしょうね…」


「あぁ、俺が一番問いたい…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


王の執務室でひとりの少女が入ってくる。


「報告に参りましたよ」


「来たか、どうであった勇者は…」


「彼はやはりどこかおかしいです。

確かにあの時、彼は魔力を纏いました」


その言葉を少女が言った瞬間、王は書類を落とした。


「どうしたんですか?

らしくもないですね」


「そ、そうだな…。

君には話しておこう。

私の息子との許婚ではあるからな」


「大変、不本意ですけど」


「もし嫌なら断ってくれていいと前から言っておるがな…」


「今のところ好きな人はいないので玉の輿もいいかと」


「そうだな、本題に戻そう。

初代勇者と初代魔王の話だ…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「不可解だな…」


俺は宿屋の一室で呟く。

晩御飯も貰えてお腹は程よくいっぱいになっている。

しかし、俺は眠れる気がしなかった。

自分にこびり付いている魔力の残滓、そして魔王因子型を知っている理由…。

他にもなぜゴブリンがこうも都合よく魔王因子型に変異したのかも謎だ。


「魔王因子型…」


それは魔王の存在を意味している。

なら、俺はこれをどこで…。


「っ…」


頭が割れるような痛みが走る。

どうやら、もうしばらくは思い出せそうになさそうだ。

なら、俺に残った魔力の残滓は一体…。

あの時、確かに俺は意識を失った。

なのに、なぜあの時俺は…。

ダメだな、分からない。

俺は歯ぎしりをする。

悔しいのだ。

結局は自分の力じゃない気がして…だから俺は決意する。

絶対強くなると…。

時折、俺には声が聞こえる。


目覚めろと急かしてくるのだ。

ずっと昔から…でも最近それを聞いていなかったような気がする。

記憶のないことだが何となくだが覚えてる記憶もある。

そっと俺は目を閉じる。


「今日はもう疲れた」


俺は深く深く眠りに落ちる。

月だけが俺を照らして俺は静かな眠りに落ちる。


ー暁様、お目覚め下さいー


俺は目を開く。


「誰だ?」


声が聞こえる。

これは何の声だ?


ー暁様、あなたを裏切った人間をー


ー王よ、我が宿願の時をー


頭が割れるように痛い。

状況情景は分からない。

でも、これは記憶だ。

声だけが聞こえる。

恨みと怨念の怨嗟。


ー暁様、いえ魔王様あなたがこの世に目覚める時ですー


俺は脳が耐えきれなくなり気絶をした。

その日から俺はうなされるようになった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


母さん?父さん?


これは夢だ。

でも、母さんと父さんと再び会えた。

俺は二人のもとに行こうとする。

そして、夢から覚める。

再び、恨みと怨念の怨嗟を聞き続ける。

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