第3話 はじめての殺し合い

俺の中には何かがある。

そんな厨二的考えがあったのはいつの時だっけ…。

しかし、それは事実なのかもしれない。

あの日、覚えていないけど、たしかに聞いたのだ。

自分の中から聞こえてくる無数の死者の声を…。


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俺は目を覚ます。


「いてて、首を二回も強打されれば痛いよな…」


そう、気絶する前のことを思い出して俺は苦笑する。

勝ち目は最初から無かったが、もう少しいいところまで行きたかったと思う。


「やっと、起きたか…」


「ん、あ、ギルドマスターですか」


「敬語とギルドマスター呼びはいらん。

アルギと呼べ」


「分かったアルギ。

それで模擬戦の結果は?」


「そうだったな、お前さんは試験内で獲得できるランクはD〜Hで魔物などの討伐依頼を受けられるのはFランクからだと考えて、お前は見事にEランクだ」


「へ?」


今この人、なんて言った?

Eランク?

それって結構高くない?


「妥当だ、魔力無しという点を考慮するとDランクにはできないが、魔力を使用していない状態の俺を追い詰めたんだ。

Eランクが一番の妥当な範囲だよ」


なるほどな、ギリギリ討伐できる範囲ということか。


「あと、ランク一つ上のクエストを受けられるが、お前の場合はEランクのクエスト以外だとキツイから気をつけろよ」


「ああ、分かった」


そして、アルギは何か取り出して俺に投げる。


「これは?」


「ギルドカードだ。

身分証にもなるから無くすなよ」


「分かった」


そうして、俺は冒険者になったのだった。


「では、ランクの説明は何となくわかると思うので省かせていただきます。

依頼のに関してはあそこにある掲示板から取ってきて下さい」


俺は受付の人が指した掲示板を見て頷く。

ランク別に掲示板が分かれているようで、かなり分かりやすそうだ。


「では、依頼の受注をお待ちしております」


そう言われて俺は早速掲示板の方に行く。

俺が召喚されたのは朝のようで、まだ少しだけ日が高く、大体3時とか2時くらいかな?

俺は依頼内容を見て、一つの依頼に目が止まる。


ーーーーーーーーーー

ゴブリンの討伐

最低 8体

報酬は一体当たり鉄貨4枚

ーーーーーーーーーー


命懸けなのに報酬が約400円…世知辛い世の中だ。

でも、この依頼を受けようか。

俺はこの依頼を剥がして受付に持っていく。


「ゴブリン討伐ですか。

最近、あまり受ける人が少なくて助かります。

今なら報酬が倍額になりますよ」


「それはラッキーだな」


「それは、他の依頼と比べると得じゃありませんしね…」


な、なるほどな。

たしかにスライムはスライムの核やスライムの粘液の納品を同時に受ければかなりいい額になるが、ゴブリンはそういったものが無く弱い魔物なので報酬が少ないのか…。

需要が無いのも悲しいものだな…。


「そういえば、討伐証明はどうするのですか?」


「あぁ、言い忘れていましたね。

ギルドカードというのは一種の魔道具でして、討伐した魔物を記録することができるのです。

更に少ないですけど、持ち物も入れることができるので、討伐、納品関係無く使えるスーパーアイテムなんですよ!」


「なるほど、御都合主義か…」


「え、えっとごつごう?

まぁ、いいでしょう。

ですのでギルドカードの提出だけで大丈夫ですよ」


俺はそれに納得して頷く。


「んじゃ、行ってくる」


「はい、ご無事で戻ってきて下さい。

ギルドの管理責任は負いたく無いので」


俺はそんな言葉を後ろから聞こえてるが無視してギルドから出る。

そうして、町に出る為の出入り口に着く。


「見かけない顔だな、どこに行くんだ?」


門番の人に捕まり、俺はギルドカードを見せてみた。


「なるほど、依頼か。

この歳でEランクか優秀なんだな。

頑張れよ」


そう言って俺を通してくれた。

意外とすんなりで拍子抜けだったが、別に悪いことでは無いので気にしないことにした。


俺はすぐ近くの森に入り、ゴブリンを探し始める。

思った以上に早く見つかり、三体のゴブリンが行動していた。

どうやら、採集を行なっているようだ。

とりあえず、戦ってみるか…。

俺は地面を蹴り、ゴブリン達に向かう。


「もらった!」


そう言って俺はゴブリンを一体切る。

重みのある一撃のため、真っ二つにゴブリンが切り裂かれる。

その際に肉の感触や血などをみて気持ち悪さを感じるが、気にしたら死が待ってる気がして次の動作に入る。

そして、俺は残り二体の混乱しているゴブリンの首を刈り取る。


「ふう、終わった。

しかし、意外と何とも思わないんだな。

人型のものを殺したのに…」


少し感慨にふけってしまうくらい、俺は驚いていた。

ひょっとしたら、普通の生き物なら殺しても何とも思わないかもしれないな。

とは思ったが、まさか人型に対しても何も思わないとは思ってもみなかった。


「あと、最低5体倒さなければな」


そう思い、俺は剣を鞘に納めて再び探索行動に出る。


少し経ち、大量のゴブリンの群れを見つけた。

約30から40くらいかな?

そして、真ん中には一回りデカイゴブリンがいる。

俺はカモを見つけたと思い切り掛かる。

最初に反応したのは一回りデカイゴブリンだった。

すぐに鳴き声をあげて、周りに警戒させる。

俺はそれに合わせて横に跳び、相手がギリギリ防ごうとしたポイントを避ける。

無防備となっている横側に一撃を放つ。

しかし、デカイゴブリンにより邪魔される。


「チッ、どうやら見てくれだけじゃなさそうだな」


ゴブリン達はしっかりと隊列を整えて俺と向かい合う。

どうやら、あの大きいのはリーダーのようだな。

俺はしっかりと隊列を組んだところにサバイバルナイフを一本投げる。

見事に目に命中して、前衛に穴ができるがノコノコとそこに突っ込むほど馬鹿では無い。

後衛には魔法を使えると思われる個体と弓を持った個体がいる。

下手に突っ込むのは得策では無い。

リーダーがある以上、囮を使う可能性もある。

どんな集団も指揮系統がいると圧倒的に強くなる。

俺はそれを知っている。


「少し面倒いな」


サバイバルナイフを投げたのは元々、リーダーを狙ったのだが、狙いが外れた。

投げる用に作られていないナイフなので上手く投げることができないのは当たり前だが、悔しいものである。


「さっさと来やがれ有象無象共よ」


ゴブリンに言葉が分かるのか甚だ疑問だがとりあえず挑発をする。

ていうか、何で有象無象?

まぁ、いいか。

それによって、数体のゴブリンがこちらに向かってくる。

それに対して俺は剣を振るい、簡単に仕留める。

矢が飛んでくるがその速度なら避けれないことはない。

魔法の詠唱をしているのか、杖持ちゴブリンは目を瞑っている。


「流石に、魔法は撃たせなねぇよ!」


俺は地面を蹴りゴブリン達の方へ向かう。

その際に盾持ちが俺の前に立ちふさがる。


ドンッ


やはり、簡単には通り抜けられないようで盾で簡単に防がれてしまう。


「木の盾ってそんなに頑丈な物か?」


俺は盾をしっかりと見て木目を確認する。

木目に沿って切れば、後は剣の重みで簡単に砕けるだろうと思い、俺は再び盾を切る。


バコッ


と音がして盾が砕ける。

薪割りみたいだ。

でも、そのおかげでこの剣の使い方が分かってきた。

自分で頼んでおいてなんだけど、全然使い方が分からなかったからな。

けど、これで戦える。

瞬間、炎や水、土などが飛んでくる。

俺はそれに対して冷静に避ける。

そして体を低くして、上半身を上げる力を利用して振り上げて切る。

それを振り下ろして、更にもう一体と倒していき、残すところ、リーダーと俺しか立っている状況である。


「来やがれ、負けねぇぞ!」


俺は気合を込めてそう言うと、直後ゴブリンに変化が起きた。

突如として巨大な魔力を纏い始めたのだ。

黒く、歪な魔力…。

いや、正確には色は黒では無いと思う。

おそらく、瘴気と混ざり合って黒くなっているだけだ。

しかし、それがどんどんと増えていき、目の色や体の色が変色し始める。


「変身時に攻撃をしてはいけないというお決まりはあるけど、これは無視できないよな!」


俺は全力の一撃を叩き込む。


ズドンッ


と音が響く。

これで勝ったと普通は思うが剣の位置が異常だ。


「これは…防がれた?」


砂煙が晴れると、そこにはゴブリンが立っていた。

黒い肌、赤い目、そして特徴的なのは魔力と瘴気で出来た翼である。


「魔王因子…」


俺はその言葉を自然とつぶやいていた。

しかし、俺はこの現象を知っている。

これは強力なエネルギーを肉体の中に入れた際に発生する状態である。

おそらく、翼の部分は扱い切れない魔力と瘴気を留める為にあるのだろう。

しかし、こんな情報どこで…。

どこかの研究室だったかで聞いたような。

やはり、思い出せない。

それに今はそれどころじゃなさそうだな。


俺は一度下がり、ゴブリンと対峙する。

この状態を仮名するなら魔王因子型ゴブリン略称して魔王ゴブリンといったところか…。


「ふぅ、何でもいい魔力を使用しない戦闘系スキルを発動しなければ…」


キィィィンと響く。

これは耳鳴りだ。

スキル名『スラッシュ』

スキル名『踏み込み切り』

などとスキルが思い浮かぶ。

おそらく、加護による恩恵だろう。


「スキル『踏み込み切り』‼︎」


ドンッ、と音を立てて踏み込み剣を振るう。

体の力が自然と補うように働く。

しかし、踏み込みが少しあまい気がする。

スキルって改良できるのかな?


カンッ


とお互いに剣がぶつかる。

俺は再び耳鳴りが起きる。

どうやら、スキルの作成は可能のようだ。

あくまでスキルはイメージであるが故にそれ以上のイメージを行うことにより上書きも可能。


「スキル『スラッシュ』」


俺がそう言って剣を振るい、それをゴブリンは止めようと剣を構える。

しかし、それは悪手だ。

俺は本来の位置より、半歩後ろにいる。

要するに当たらないのだ。


「スキル『返し切り』」


スッと入った一撃は当たらなかった。

ゴブリンは笑ったような表情をして後ろに跳ぶ。

先程までには無いほどの身体能力で…。


この時、俺は対処できずにバランスを崩す。

本能がギリギリのところで押さえてくれたが、これは完全に舐めていた。

強者はあちらで弱者は俺だったのだ。

どうやら、爪があまいのは俺の方のようだ。


「でも、負ける訳にはいかないんでね!」


何とか持ち直して、ゴブリンが攻撃してくる瞬間に間に合わせて剣を振るう。


カンッ


と俺の剣が弾かれる。

やばいと反射的に動く。

拳でゴブリンを…


「があっ!」


殴打をやられて思わず、叫び声を上げてしまう。

しかし、これを反応されるのは予想済みだ…。

殴ろうとしたところに今、思いっきり殴り返されたのだ。

まぁ、こちらは殴れてもいないけど…。

俺は転がり、何とかガブリから距離を取る。

ゴブリンは相変わらず笑みを浮かべている。


「諦めるかよ…まだ終わる訳にはいかないんだ!」


俺は無意識で叫ぶ。

俺は多分この時、死ぬと思ったんだろう。

無意識なんだろう。

だって、この時の俺は意識がないのだから…。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今、私は驚愕していた。

監視の任に就いてからの戦っていたゴブリンが突然変異したのだ。

これは異常なことで、すぐに報告したいことだ。

もし、彼が死にかければ最大限助けるつもりであるが、彼はとんでもない動きで生き残っている。

そして、そろそろ限界が来たと思い飛び出そうとした瞬間。


「諦めるかよ…まだ終わる訳にはいかないんだ!」


そう叫んでいた。

その瞬間、私は見た。

彼に纏う光を…。

魔力に見える。

でも、彼には魔力が無い。

なら、あれは何なんだ?


彼が動き出す。

先程までの動きが嘘のように速い。


カンッ


と響いた時には既に次の攻撃に入っている。

流石にゴブリンも重い攻撃の後にその速度は対応し切れないようで、何とかガードする。

しかし、その際に武器を落とす。

ゴブリンは何とかしようと彼の利き手に一撃を加える。

彼も武器を落とす。

この時点で勝者は先に武器を拾った方である。

しかし、予想外のことが起きる。

先程、投げたナイフと全く同じものを服のポケットから取り出してゴブリンの首に切りつける。

必死に抵抗するゴブリンを抑え込み、ゴブリンの首を切り落とした。


それと同時に彼はプツンと糸が切れたかのように倒れてしまった。

私は姿を現して彼の状態を確認する。

どうやら、死んではいないようだ。


「あなたは…何者なの?」


私は無意識のうちにつぶやく。

私は彼のことを認めつつある自分がいることに気付き頭を振る。

彼を認めてしまったら私の意味が無くなる。

なぜなら、私は本来この世界に選ばれた勇者なのだから…。

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