第2話 冒険者登録

「そういえば、携帯や学生手帳は…」


名前を確認する物を思い出すが、携帯は持っておらず、学生手帳はボロボロで確認不可能だった。


「本当に俺は向こうでどんな生活を送っていたんだ?」


そう悩んでしまうのも当然のことのような気がする。


「しかし、冒険者ギルドってここで合ってるよな?」


そうして、俺は現実逃避をやめて前を見る。

そこには剣と盾、杖などをモチーフとした看板がある。

召喚補正なのか文字は理解できる。

そこにはたしかに冒険者ギルドと書かれていた。


「入る前に武器でも買っておくか」


そう思い俺は冒険者ギルドを後にする。

下手に冷やかしなどと思われても困るしな。

俺は少し歩いて武具屋または鍛冶屋、武器屋を探す。


少しすると鍛冶屋を見つける。

どうやら、武器などを使っているようだ。

俺は扉を開ける。


「失礼します」


カンッカンッとテンプレ音が聞こえてくる。

どうやら、本当に鍛冶屋のようだ。

そして、俺に気付いたのか音が止む。


「あ、客か」


中から出てきたのは一人の男だった。

40代くらいの風貌でガタイが良く、すごく強そうだ。


「何の用だ?」


「えっと、武器を買おうと思って来たのですが…」


「冷やかしか?

武器なら冒険者ギルド前の武器屋があるだろう?」


「そうなんですけど…」


実際、それは知っていた。

しかし、あれは打ちが雑であれでは武器として心配だったのだ。


「あそこの店の武器じゃちょっと不安で…」


俺はおずおずと答える。


「ほう、お前は見る目があるんだな。

大抵の新入りなどはあそこで買うんだが、あそこはわざとグレードを落とした品があるんだ」


「どうして、そんなことを?」


「まずはそうすることによる、提供値段を下げること、あとは目利きの良さを鍛えるためだ」


「なるほど、悪い物をずっと使ったことにより、偶然買った良いものを使った時の感覚の違いを覚えて武器や防具の良し悪しの判断を養うためだったんですね」


「まぁ、一発で見抜く新人はすぐにランクが上がっていくやつが多い」


なるほど、だからこの人はわざわざ試すようなことを言ったのか。


「お前は…新人か?」


「いえ、これから登録する前に持っておくことによる冷やかしではないアピールです」


「なるほど、良い心がけだ。

なら、鉄から鋼までだが、好きなのを一つ持っていけ。

よかったらオーダーメイド品を作る」


「ありがとうございます」


俺は鉄と鋼の武器を吟味する。

剣、弓、槍、棍、斧、鉤爪、両手剣などなど。


「違うな、バランスや重さ的には両手剣が合うけど、やはり剣と比べると扱いにくい。

槍に関してはバランスがもう少し前に寄っていたら良い感じなんだけど。

鉤爪はグローブ型の方が助かるな…」


とブツブツと呟きながら一つ一つ確認していく。


「うーん、そうだ。

オーダーメイド品で細かく武器の形をお願いできますか?」


「一応、できるぞ」


「なら、ちょっといいですか?」


俺がお願いをしたのは大剣だ。

おまけに普通の大剣ではない。

片手用に作っており、リーチのネックを解消するために剣の根元近く剣の樋の根元に近いところに握りを作った形だ。

まぁ、ロマン武器という奴だ。

正式名称は知らん。


「なるほど、おもしろい武器だな。

特に片手でその大きさの武器を操ろうなんて聞いたことない」


「これに関しては重さが欲しかったので」


「なるほど、もしこれを君が使えれば革命的だな」


「そんな大袈裟な…」


「いいや、簡単に二つ名の付くほどの印象を与えられる」


「そういうものですか…」


それに対して男の人は頷いてくれる。


「では、さっさと始めるが、見てみるか?

鍛治を?」


「はい、是非!」


「物好きな奴め」


ふっと笑って俺を作業場に案内してくれる。


「では、始めるぞ。

スキル『真打ち』」


そう言って打った鎚は鋼にしっかりと伝わっていく。

これがスキルの効果…。

でも、この人の技量も相当なものだ。


「スキル『型作り』」


そうして、少しずつ型が出来ていく。


「ここの部分の強度は必要だな。

スキル『合金』」


そう言って、何らかの金属を取り出してスキルを使う。

これは根元部分の構造上今回の剣の最も折れやすいポイントだった。

そこをしっかりと作り、樋の部分の握りを芯の部分を剥き出しにすことにより解決させた。

そして数時間の間、試行錯誤しながらやり直していき完成させた。


「これでどうだ?」


俺は何度か素振りをして頷く。


「これで大丈夫です。

すいません、何度も作り直させてしまって」


「別にいい、おもしろい武器も作れたし、熟練度上げにもなる。

ガードの仕掛けが壊れたら言ってくれ試作段階で出したものだからタダで直してやる」


「何から何までありがとうございます」


ガードの仕掛けとは剣の大きさの問題上、肩にかけないとダメで剣を抜き難いのである。

そこで、剣を抜くために鞘の片方を開いてあるのだが、そこをしっかりと止めるための留め具としてガードを利用したのだ。

スライドスイッチみたいなので、止められるようにしたのである。

それ故にあまり、太さも無く、長いロングソードのイメージが少し強い。

でも、大剣と呼ぶに相応しいだけの太さと重さはしっかりとある。


俺はしっかりと肩から剣を下げて再び冒険者ギルドに向かう。


ギィと音を立てて冒険者ギルドの扉を開く。

俺は周りの視線などを気にせず受付の方に向かう。


「本日はどのようなご用ですか?」


受付の人のスマイルゼロ円が俺に向かう。

俺はそれを気にせずに用件をちゃちゃっと言うことにする。


「冒険者登録に来ました」


「分かりました。

必要事項の記入をこの紙にお願いします」


「は、はい」


俺は紙を受け取り、内容を見る。

そういえば、俺は字は書けるのだろうか?

そこら辺はしっかりと確認しておかないとな。


「ところで、名前なんですけど記憶が無くて記入が出来ないのですが、どうすればいいのでしょうか?」


「なるほど、訳ありですか。

冒険者にはそういう訳ありが多いので名前の記入をしなくても結構ですよ」


「助かる」


とりあえず、一番の不安は消えたからレッツ記入タイムとしますか。

やはり、召喚補正なのか字も書けるようだ。

名前は空欄

武器は剣

適正属性は無し

魔力量は無し

スキルの所持数は3つ

天職は勇者と書いたら大騒ぎになりそうだから剣士でいいかな。

ジョブ数は3つ全部付けてない。

こんなものかな?

そういえば、ステータス偽装ってかなり定番だけど出来るかな?

もし、鑑定された時があって勇者だって言われたらやばいし、やってみるか。


ーーーーーーーーーー

名前 unknown LV1

天職 剣士0.00

魔力量無し

ジョブ

ファースト 無し

セカンド 無し

サード 無し

フォース 無し(解放条件を達していません)

スキル

魔力吸収 不明

天神達の加護 0.01

女神アルレイヤの加護 0.01

ーーーーーーーーーー


どうやら、出来たみたいだな。

思った以上に簡単に偽装が出来てびっくりするが、かなり嬉しい話だ。

俺は紙を書き終えて受付に渡す。


「魔力無しの方ですか…」


「あの、魔力無しは登録できませんか?」


「いえ、そんなことはありません。

魔力無しでも強い人はとっても強いんですよ」


「そうだったんですか」


俺はホッと胸を撫で下ろした。


「まぁ、どうしても魔力無しは実績を残し難いし、魔力の恩恵を受けられない分、辛い部分があるのですけどね。

まぁ、それを言ったら精霊の力を使い、魔力が無いエルフや、己に宿る魔物や瘴気の因子を使い戦う獣人などもいますから一概に魔力無しが弱いわけではありません。

魔力が無い人はみんな何とかして精霊などと契約を交わしたりしますからね。

あと、君は魔力無しだから言っても意味は無いけど魔力を持つ者にとって魔力吸収は必須スキルなのよね」


なるほど、それは初めて聞いたかも。

なるほど、他の種族にはそんなカッコイイ戦い方があるのか。


「ありがとうございます。

いい勉強になりました…って何で泣いてんですか?」


「あ、いや、冒険者ってみんな荒くれ稼業だからさ、うるさくて野蛮な奴が多いわけよ、君みたいな対応の子はこれから先ずっとこんな風でいた欲しいなっていう願望が表に出ただけだから気にしないでいいよ」


「あ、はい」


俺は何とも言えない表情になっているに違いない。

それはもういいか。


「では、発行する前に実力の方を確かめさせてもらいます」


その言葉に俺は固まる。

実力を確認する?

これは今まで殺し合いをしたことの無いような日本人に戦えと?


「あ、大丈夫ですよ。

ちょっとした確認なのでどれだけ弱くても冒険者にならないなんてことはありません」


「なんだ、ビビって損した」


「あはは、説明不足ですいません」


俺は改めて気を引き締める。


「では、付いて来て下さい」


俺は言われるがままに受付の人についてくる。

そして、一つの部屋に出てきた。

広く作られており、丈夫な作りの壁がある。


「ここは…」


「冒険者ギルド内の施設訓練所です!

冒険者内の小競り合いもよく行われていて観客席なんてものもあります!」


スゲー無駄に金使ってる…。

しかし、これは…。

目の前には強者の風格を持った男が一人いる。


「こいつが新人か…」


「はい、ちゃんと手加減はしてあげて下さいね」


二人は少し話し合う。

俺はとりあえず、準備だけしておく。

いつでも剣を抜けるようにロックを解除する。


「わかった、では君には今から俺と模擬戦をしてもらう。

因みに俺はこのギルドのマスター、アルギだ」


アルギは笑いながら言うと受付の人は3歩ほど下がる。


「では、模擬戦を開始して下さい」


そう言った。

俺は握りを掴み、相手の様子を伺う。


「どうした、君から掛かって来たまえ」


俺は剣を抜き地面を蹴り、上から下に振り落とす。


ガンッ


予想通りに止めてきた。

俺は一度離れて構え直す。

しかし、それを許さぬかのように追随してくる。

俺は樋の握りを持ち、振るう。


「なっ!」


どうやら、この武器でこの距離をしっかりと捉えることが予想外だったようだ。

少し遅れてガードする。

俺は無防備になった体に蹴りを叩き込む。

その際に剣を上手く動かして重心などの操作も忘れない。


しかし、ファンタジーはそんなにあまく無いらしく、アルギはまだ立っていた。

俺は反撃を警戒して直ぐに後退…。


ドンッ


首の辺りに衝撃が走る。

俺は意識を失いそうな目で必死で対応する。

剣を支えにして上手く体制を持ち直してもう一度剣を振るう。


ガンッ


しかし、防がれる。

もう、予想通りだ。

相手が防ぐ際に必ずかかる力の方向がある。

しかし、相手が離れる瞬間をしっかりと捉えているアルギに通じるかは一種の賭けだ。

俺は体を回転させる。

アルギのあるのとは逆方向に…。

予想外なのか、アルギは対応できずにバランスを崩す。

俺はそのまま、回転の勢いを利用してアルギを切る…。

とまでは行かなかった。

だって、そんなの無しだろ。

魔力による肉体強化によって俺の後ろに回り込むなんて…。


ドンッ


今度こそ俺は意識を失った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「危なかったな…」


アルギは驚愕していた。

魔力強化無しとはいえでもレベル1の若僧が自分に刃を届かせようとしたからだ。

身体能力は普通のレベル1と同等…しかし、技術面はレベル1にあるまじきものだった。


「この秘密を知ってるのはお前か?」


アルギそっと、すぐ近くに隠れていた奴に呼びかける。


「いいえ、私は知りませんよ。

ただ、言えることは普通の人では無いという点です」


「そうかい、嬢ちゃんが監視してるということはこいつは勇者か?」


「一応はそうなりますね」


「話が違うな、勇者は戦いとは無縁のところから来るんじゃないのか?」


「その筈です。

しかし、これを見ると今までの勇者とは違うようです」


「あの…ちょっといいですか?」


受付嬢の人が少女に呼びかける。


「何ですか?」


「この人は勇者ということは…」


「それに関しては大丈夫ですよ。

彼には特別処置が降り、学園に入学しなければこの国から10年の追放予定となっています」


「それは…この勇者の小僧がそれほど面倒な存在なのか?」


「はい、貴方達も知っての通り、彼は魔力無しです。

そして、スキルの中には魔力吸収があるんですよ」


「待て、それはおかしい。

魔力が無いのになぜ、魔力吸収を…」


「分かりません。

だから、無能の烙印を彼は今、押されているのですよ」


「なるほど、状況は理解した。

この話は内密に、だろう?」


「そうして頂けると助かります。

貴方もくれぐれも話さないように…」


そう言って少女は再び姿を消す。


「全く、厄介なのが勇者として召喚されたな。

もし、こいつが普通の勇者だったら身震いがするな」


アルギは珍しく強さに対して畏怖を抱いた。

彼の戦いは圧倒的な相手に対してとの戦いを行なったことがある。

それは確かだと思う。

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