召喚されて俺tueeeと思ったら?

ARS

プロローグ

第1話 プロローグ

「恥ずかしくねぇのかよ…召喚された勇者なのに最弱って…」


「俺だったら外にすら出れねえよ」


声が聞こえる。

俺はゆっくりと目を開ける。

どうやら寝ていたようだ。


「噂によると魔力なしだってよ」


「うわー、それだったら俺、自殺するわ」


と聞こえてくる。

俺だって好きで魔力なしであるわけじゃねぇよ。

でも、俺は言い返せない。

本来なら俺は今死んでいるのだ。

しかし、王族の計らいにより、俺は今この学園にいる。

王族にも体裁があるはずなのに頭を下げて俺に謝ってきた。

そして、俺を生かしてこの学園に入れた。


そんなの迷惑かけたのだから当たり前だろ?と言う人もいるかもしれないが、それは違う。

たしかに俺が被害者だから当然の権利がある。

日本なら…。

しかしここは異世界であり、会話などの主導権も向こうが握っている、にも関わらず頭を下げたのだ。


召喚するのも多くの準備やお金が必要だったはずだ、故に貴族はもちろんそれに協力した貴族にとってはよく思わないだろう。

だから、俺は言い返せないのだ。


でも、俺はもう弱者じゃない。

この数ヶ月で俺は変わった。


「有象無象共よ…」


俺は学園で見返すために俺は練習を始める。

そして、召喚されたあの日を思い出す。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


俺は気付けばそこにいた。

ここが何処かは分からない。

何となく、俺が本来いるべき場所はわかる。

しかし、先程まで何をしていたのか、知り合いや家族の顔や名前は思い出せない。

父母健在、兄一人と弟一人、友人は八人。

それしか思い出せない。


「はじめまして、勇者様」


ひとりの少女が俺の前に立ち言葉を放つ。

この人は何を言ってるのだろう?

これではまるで小説のようだ…。


「戸惑っておられるようですが勇者様、場所を変えてお話をさせていただきます」


そう言って少女は踵を返して付いてくるようにと少し首を動かす。

どうやら、付いて行くの他に無いようだ。

そう思い俺はゆっくりと歩き出す。

とりあえず、自分の名前を思い出そうと歩きながら考える。

思い出せない。

そう、ありきたりでは無い名前だったのは覚えている。

しかし、何一つして思い出せないのだ。


「勇者様、こちらでございます」


少女は大きな扉の前に立ち、手招きするようにして言った。


「できれば、入る前に名前を教えて頂けると嬉しいです」


「すまない、名前を思い出せないんだ。

ちょっと記憶が曖昧で多分、そのうち思い出せると思う」


「では、形式上だけでも名前を」


形式上だけでもか…。

名前が無いとやり難い事情があるのかな?

勇者と呼ぶだけでも…。

余計に頭がこんがらがる。

もう、いい。

とりあえず名前だな。


「なら、…暁……藍葉かな?」


「アカツキ アイバですか?」


「深い意味は無いよ。

ただ、パッと何故か思いついた名前だから案外本名かもな」


「そ、そうですか」


少女は顔を引きつり出しだ。

俺、なんか変なことを言ったかな?

でも、この名前…よく馴染むけど友人や家族の名前のような気はしないんだよな。

でも、自分の名前と言われても…分からん。

そうのような気がするし気がしないでも無い。


「とりあえず、アカツキ アイバ様、こちらへ」


そう言って少女は扉を開く。


ギィーという音を立てながら開く扉は幻想的だ。

まるで物語の一部を引用したように…。

そして、中に入ると真ん中の奥の玉座に王と思われる人が座っている。

そして真ん中を避けて数十人にも及ぶ人が立っている。

それら全ての視線は刺さってくる。


「失礼します。

勇者様をお連れしました。

名前はお忘れになっておりますが形式的にアカツキ アイバを名乗ってもらっています」


そこはしっかりと報告するんだな。

しかし、周りの奴らがうるさいな。

「彼が今回の勇者」「名前を忘れてるとは実は無いだけでは無いか?」「所詮は身の程もわきまえることも知らない下賤の者か」

などと聞こえる。

ていうか、あんたらの物差しで勝手に決めるな!

まぁ、この場で俺が何か言うのは違うな。

俺には権利は無い。

今の俺の殺生与奪は彼らが握っていると言っても過言では無い。

しかし、まただ。

王と思われる人が少女と同じ顔の引きつり方をしている。


「よ、よろしい。

アニーアよ前へ連れて来い」


「はい、お父様」


どうやら、ここはテンプレ通りのようだ。

少女は王女様のようだ。


俺は少女に促されて玉座の前にあるちょっとした段差の前に立つ。

よく思うんだが、何でここに段差あんの?

ほら、漫画とか見ても…。

まぁ、今はいいか。

どうせくらいが高いからとかだろう?


しかし、先程から視線が痛い。

そういえば、少しだけ他とは違う視線があるな。

不安や好奇心、疑心や羨望、期待や恐れとは違う。

嫌悪や嫉妬目が一つだけある。

騎士か何かかなと思い目だけそちらに向けると予想とは違った。


ひとりの少女だった。

白に近い薄い水色の髪でサファイアというのかな?そんな色の目をしていた。

服装はおそらく相当高いものなのかな?

この世界での価値がわからないのでなんとも言えない。

しかし、ゲームやアニメでよくある可愛かったりカッコいいけど絶対ない制服みたいだな。


それに比べて俺の服装は…。

ボロボロでくたびれたブレザーなどの制服である。

にしても、ボロボロ具合がすごいな。

確か俺は16歳の筈だけど一年やそこらでボロボロになるってどういう生活を送っていたんだろう?

やっぱり、記憶がないのは厄介だな。


「突然の呼び出しすまないな。

勇者アイバよ」


「え、あ、はい」


俺は突然声を掛けられて何とか反応する。

そういえば藍葉と名乗っていたんだった。


「やはり、このような場は珍しいのかな?」


「はい、機会があまり無いもので…」


「もう少し砕けた感じで良い」


「分かりました…分かった」


俺は口調を何とか変える。


「フハハ、そちらの方がいいやすかろう?」


「まぁ、確かにそうだが戸惑うな」


周りの目は更にキツくなった。

でも、この場で王の機嫌を損ねることをしたくないのか何も言わない。


「では、自己紹介から入ろうか。

私の名前はデンロード=ゼンレイドだ。

一応、この国の王となるな。

そして、先程君に案内させたのが…」


「アニーア=ゼンレイド、王のデンロード=ゼンレイドの娘となります。

一応、この国の第一王女となります」


「は、はい。

俺は名前を忘れて実名じゃありませんが、暁 藍葉と言います。

できれば名前で呼ぶのをやめてくれ。

本名じゃない分、混乱する」


「確かにな、形式上だけでもこの場では名があった方が良いので無理矢理名乗らせてすまないな」


「いえ、こういう形式上のものはあまり無視してはいけないから気にしてないよ」


「ふむ、それもそうであるな。

にしても、落ち着いているな」


「いえ、記憶が欠落しているので順応しやすいだけかと思います。

向こうの常識が残っているので少し戸惑いますが…」


実際その通りなのだ。

名前や記憶など色々と欠落しており覚えていない分、逆に今、生まれたばかりだと言われても納得できてしまう。

世界五分前仮説ではなく人生五分前説なんちゃって。

…これはシャレにならない。

本当にそうかもしれないと頭によぎった。

でも、今考えても仕方ないことだ。

しかし、今までの常識が残っているのは確かだ。

流石に記憶喪失だからって言葉から何から何まで忘れるのは珍しいらしい。


「それもそうであろう。

まぁ、話もこれくらいにして本題に入ってもいいかな?」


「別に大丈夫だ。

おかげで緊張も解れたからな」


多分この人は緊張を解す為に先程までの話をしていたのだろう。

この人は計算高いのかそれともいい人なのかの判断はまだ出来ていない段階だ。


「まずはすまないがこの水晶に触れてくれないか?

王家に伝わる勇者用の鑑定水晶なのだ」


アニーア王女が水晶を持ってこちらに来る。

言葉の節々に嘘は感じられない。

というか、自分が嘘を見分けられるかも不明だ。

でも、やっておいて損はない筈だ。

それに拒否権はこちらには無い。

先程も思ったが殺生与奪は彼らが握っている。


「分かりました」


そう言って俺は水晶に触れる。

その瞬間、頭に様々な情報が一度よぎり、整理される。

そして、数秒が経ち目の前にゲームのような画面が現れた。


ーーーーーーーーーーー

名前 unknown LV1

天職 勇者 0.00

魔力量 無し

ジョブ

ファースト 無し(解放されています)

セカンド 無し(解放されています)

サード 無し(解放されています)

フォース 無し(解放条件が達していません)

スキル

魔力吸収 不明

天神達の加護 0.00

ーーーーーーーーーー


「これは一体…」


「待っておれすぐに説明が入る」


俺はそれを聞いて少し待つと次にloadingの画面が現れる。

まるでゲームだ。

それが終えるとloadingの画面は消えて新しい画面が現れる。


ーーーーーーーーーー

名前欄について


名前欄には自分の名前と現在のレベルが表示されます。

あなたの場合はunknownと表示されていますがそれはあなたの記憶がないのが原因です。

それなので名前が無いということはないです。


天職欄について


これは強力なパッシブスキルと考えてください。

勇者の場合は成長補正が少々と剣術と魔力操作に補正ですね。

因みに横にある0.00は熟練度です。


魔力量について


これはその名の通り、自分の魔力量を示します。

魔力は基本的に戦闘に必須となります。

あなたの場合は魔力は無しとなっており戦闘に使えるか微妙です。

魔力量はレベルアップや訓練で上がりますが、無い人は上がるかと言われると不明です。


ジョブ欄について


ジョブとは天職と似ていますが少し違います。

天職と比べると弱いパッシブスキルという印象ですが、解放さえしていればその都度変えることが出来ます。


ファースト 剣士1.45

セカンド 魔法士1.23

サード 無し(解放条件が達していません)


↓ ↓ ↓


ファースト 剣士1.45

セカンド 拳士0.00

サード(解放条件が達していません)


みたいにできます。

横の数字は天職の時と同じです。

熟練度が上がると無いと大変というレベルになるので付けることをオススメします。



スキル欄について


面倒なのでスキルの説明


魔力吸収


実質、死にスキル。

魔力の無いあなたには必要のないスキル。

ひょっとしたら何か別のことに使えるかも?

横の不明は熟練度の話です。

不明の意味は分かりません。


天神達の加護


これは珍しいこのスキルは天神達に好かれたまたは興味を持たれたもののみが持つスキルです。

成長補正がかかります。

スキル無しでもスキルの使用可能などなど。

ただし、スキルの取得が難しくなります。

ついでに私の加護も入れておきますね。


女神アルレイアの加護


全属性適正

全属性耐性

状態異常耐性

スキル成長率ダウン

取得経験値ダウン

必要経験値アップ

成長補正中


このくらいで終了です。

頑張ってください。

ちなみに今までの勇者と比べると地味ですね。

流石に天神達の加護持ちはいませんでしたが、女神や神の加護を複数持ち、強力なスキルを十や二十持ちが殆どでしたので頑張ってください。


天神達の加護の効果をしっかりと纏めると。


成長補正大

必要経験値アップ大

取得経験値ダウン大

能力強化率アップ大

耐性獲得率アップ大

武の才

魔の才

創の才

支の才

守の才

知の才

治の才

肉体再生

体力増加

スキル補完 全


ーーーーーーーーーー


とんでもねぇな。

というか、これ女神が管理してるの?

思った以上に天神達の加護は凄そうだな。

これは思った以上に使える…のか?

魔力がないのは厄介だ。

これが無いと何も出来ないと考えておかしく無いと思う。


「うむ、終わったようだな。

少しすると公開されるから心してくれ」


公開?なんの話だ。

そう思ううちに王の目の前や王女の目の前他にもそこにいた全員に画面が現れる。


「これは…」「なんともまぁ…」「私達はこんなののために…」


そう聞こえてくる。

これは周りで見ていた奴の声だ。

何がおかしいのかわからない。

しかし、軽蔑、侮蔑、嘲笑を含んで俺を見ている。


ー今、俺は何を?ー


気付けば俺は手を後ろに回していた。

しかし、背中などには何も無い。

それに対して俺は違和感を感じる。

どうしようもない不安が湧き上がるが、少しすると落ち着いた。


「お父様、これは…」


「うむ、これは…。

アイバ、いや勇者よ。

少し謝罪せねばならないことがある」


「何ですか?」


俺は身構える。

魔力が無いというのに俺はどうしようもない不安を覚えている。

だからだろう。

俺はブレザーの内ポケに手を突っ込み市販で売っているサバイバルナイフを手に取る。

何故、持っているかはこの際どうだっていい。

数本は持っているし、何本か投げれば逃げれるだろう。


「そう、警戒するのも分かる。

周りが酷すぎるからな。

だが、その感覚忘れるではないぞ。

私はひょっとすると、このままお主を殺さなくてはならない」


「殺す?」


俺は殺すと言われてもあまり心に来なかったしかし、一瞬…一瞬だけだ。

血だらけで倒れた男子の姿が浮かぶ。

あれは友人だったと思う。

だから、俺は明確な敵意を表されたら確実に一人は殺す覚悟と準備をした。


「実はお主の魔力が無いのと同時にお主の魔力吸収というスキルが問題なのだ」


「問題?」


俺は先程から言葉反復し続けて裏を読むようにする。


「魔力なしの魔力吸収だけだったらよかったのだ。

しかし、魔力吸収というスキルは研究が進んでおり、魔力が少ない人ほど効力が薄いということが発覚しておる。

故に、お主には魔力吸収が使えないのだ。

故に誰もがこう思う。

お主は無能者だと」


やっぱりか、ある程度予想は出来た。

要するに使えない勇者は…。


「それだと体裁が悪い。

お主は非は無いのだが、周りも納得しない。

故にお主には何らかの処置を与えねばならないのだ」


「要するに大量の金や国が動いて召喚した勇者は使えないなら、不必要とみなして抹殺ということか?」


「まぁ、普通ならその判断になるだろう。

勇者召喚の件は公表をせずにお主は葬り去られる。

しかし、これはこちらの失態でもある。

すまない」


そう言って王は頭を下げる。

この人は本当に王の器なのか?

この状況で殺されても使えない俺が悪いと割り切れる筈だ。

しかし、この人はいい人すぎないか?

いや、それを決めるのは早計か?

でも、嘘も何も無い本心で言っている。


「俺は、どうすればいいんだ?

ここから逃げればいいのか?

それとも、処刑されるか抵抗すればいいのか?」


「貴様、何を!」


俺の言葉と同時に周りは騒めく。


「お主は何故それを聞く?」


「あんたの発言から本心では殺さないように配慮をすると聞こえるんだが?

違うか?」


「うむ、その通りだ」


「な、王よ!

こんな男を生かしておく価値が…」


そうか、この人が王になったのはこの気迫なのか。

そう、王に対して俺を殺そうと意見を出した男は王の気迫により、黙り込む。


「ひょっとしたら、途中で覚醒するやもしれん。

故に彼を王立アルデミアス学園に入れようと思っておる」


この場の全員が言葉を失った。

そう、この人は反論する言葉を消したのだ。

もし、本当に途中で覚醒するのなら優秀になり得る勇者を失ったことになる。

そして、ここで反論しようものなら、それこそこれまでの否定となる。

ならば、元より勇者などに手を出すなという自分が悪いという結果に貶めることになる。


「あんたはそれでいいのか?

ここの法律は知らないが、俺は大罪人と言ってもいい程の損失を出したのかもしれないぞ」


俺を召喚するのもこれを見る限りかなりの投資をしている筈だ。

更に学園に入れるとなればこれからの損失もバカにはならない。


「もちろん、君には学園の試験を受けてもらう。

受からなければこの国から10年の追放をさせていただく」


「なるほど、あくまで生かすという手段を取るわけか」


「しかし、試験まであと一月だ。

学園に入ったなら支援はするが、それまでの一月の間はすまないが私が仕事を紹介するので自分の力で何とかしてくれ」


たしかに、実力も無いのにタダ飯は流石に体裁が悪すぎるか。

そう考えると破格の条件だな。

学園に合格すれば俺は可能性があるということなのだから。


「ありがとうございます」


俺は笑う。

これは面白い。

何にしても生きる為には努力をしなくてはいけないのだから。


「素直に受け取っておこう。

では、これで解散とする。

勇者はこの場に残れ。

他の者は退出をしてくれ」


その王の一言に渋々と周りの人達は退出する。

その時、あの時の少女と再び目が合った。

明確な敵意だ。

しかし、俺はそれに気付かないふりをして王と向き合う。


「では、試験内容について言おうか」


「は?」


「いや、試験内容と言っても騎士などの育成校だから筆記は無い。

ただ単純な戦闘能力を試す試験なのだ」


その言葉を聞き俺はホッとする。

まさかのカンニングかと思った。


「故に私が紹介する職は冒険者だ。

これはお主から10代ほど前の勇者が作ったもので主に魔物の討伐を生業としておる」


「なるほど、そこで強さを磨けというんですね」


「物分かりが良くて助かる。

餞別として銅貨10枚を渡そう。

これでどんな高いところでも3泊はできるだろう」


「なるほど、因みに通貨についての説明を頼む」


「そうだな、銅貨というのは鉄貨100枚で1枚の価値だ。

最低の貨幣の次と言ったところだろう。

次に銀貨だが、これは銅貨100枚で1枚だな。

そして、金貨だが銀貨1000枚となっておる。

更に高い貨幣もあるがこのラインが何とか手にできるラインだと思ってくれ」


なるほど、物価そのものは安いのかもな。

そして、金貨より高い価値のものがあるが、発行数が少なく、使われることはない。

おまけに金貨も同じだと思う。

銅貨で宿があるのなら、そんなに銀貨は出回らないのだろう。

要するに日本のお金で表すと


鉄貨=約100円以上?

銅貨=約10000円以上?

銀貨=約100万円以上?

金貨=約10000000000円以上?


と考えるのが妥当だろう。

たしかに、何とか手にできると言えるのか?

いや、王族の方で金貨が何とかレベルなのかもしれない。


「金貨何枚国で保有してるんだ?」


「年にもよるが裕福な国ではないので10枚から100枚程度だな」


「やっぱりか」


「まぁ、国や商業グループによっては何千枚何万枚も持っていたりするのだがな、それ故にこれ以上高い貨幣が生まれたのだがな。

貴族とは言えでも我が国の貴族は皆貧乏なのだよ。

何とか学園で存続出来ているだけで…」


うん、国って大変なんだね。

でも、そうするとこの銅貨が大変貴重なものに見えてきたな。


「…な」


「いま、お主は何と…」


「いや、なんでもない」


無意識のうちに呟いてしまったようだ。


「とりあえず俺は行くよ」


「おう、合格してこい!」


「ああ!」


俺は返事して走り出す。


ーああ、強くなりたいー


切実に願った。

もう、あんなことは嫌だから。

あんなこと?なんだったっけ?

思い出せない。

でも、たしかに俺はこの世界で重大な一歩を踏み出していると思う。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「やはり、お主は聞いておったか」


私は柱を見て呟く。

すると、一人の少女が柱の影から現れた。


「王はやはり私の存在に気付いておられましたか」


「当たり前であろう。

あのように殺気をぶちまけておいて気付かぬわけが無いわ」


この少女は笑う。

しかし、その表情はどこか悔しそうだった。


「どうかしたのか?」


「いいえ、でも彼は私の存在に気付いてことに悔しく思っただけ」


「なんだと?」


勇者はそんなそぶりは一つもしていなかった。

気付いていた?


「何を根拠に?」


「彼、出て行く一瞬だけ、私の方を見たの…。

おそらく、あれは無意識の行動だけど、あれはたしかに認識していた」


「無意識だと?

今まで召喚されて来た者の記録では戦闘に全く無縁でそんな行動が取れるはずが無い…。

少し頼みがある…」


「なんでしょう」


「お前に勇者の監視を頼みたい。

少しでも何か分かれば報告して欲しい」


「分かりました、不本意ですがいざという時は守れというのでしょう?」


私は頷く。

それを見て少女は呆れながらため息を吐き、去って行く。

本当に彼は一体、何者なのだろう?

記憶を失くしたのでは無く、自ら記憶を封鎖したのでは?

とよぎるが、いくら考えても仕方ないことだ。

あのボロボロの服も今までの勇者とはかけ離れている。

今までの勇者は清潔感が溢れた服を着て召喚されたのだから…。

どことない違和感…ひょっとしたら勇者が元いた世界で何かが起きていたのかもしれない…。

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