第25話「魔装せし者」
何度も
スパークするプラズマを
向こうはこちらが見えないからか、無差別に落雷を落として蔵を揺らした。
「出てこいっ! 我が父ベオウルフの
まだ幼い、あどけないとさえ言える声だ。
その
「アーケン、あたし難しいことはわからないけど……ようするに、生きた勇者から刻印を移植すると、生き返るって話でしょ?」
「あ、ああ」
「ジャンヌの息子は最初は勇者じゃなかった、なら
そう言いかけて、突然リーアムはその場に突っ伏した。
自分でも不思議な顔をしているが、足元には
「あ、あれ? あたし、身体が……」
「リーアム! 動くな、もう無理だ。これ以上の出血は」
「ありゃりゃ……は、はは。大丈夫よ、平気。さ、二人で、勇者を、殺し、て――」
徐々にリーアムの
今、
慌ててアーケンは、上着の
いよいよ覚悟を決めなければいけない、その時だった。
悲痛な声が蔵の中に
「おやめなさい、ロト! いけません、これ以上は……わたくし達は間違っていたのです」
「ママ! 大丈夫だよ、ほら……僕は勇者になったんだ」
「ああ……ああ、ロト。生き返ってくれたのに、わたくしは……どうして、こんな気持ちに」
「勇者の力って凄いね、ママ……あははっ! 僕の電撃で今から、パパの仇を討つんだ」
「こんな
すすり泣くジャンヌの声が、無邪気な笑い声にかき消されてゆく。
ロトは何度も雷を落としながら、徐々にこちらへ近付いてきていた。
これ以上は一刻の
そして、そのことを
「ダーリンッ! あの勇者を殺すのよ……急いでリーアムを手当しないと、この
「あ、ああ……だが、俺は奴の……父の、仇と。そして、サイアムは」
「しっかりして! 確かにダーリンの追う仇は逃げた。あたくしの
「俺の、ため?」
「そうよ! お願い、戦って……今こそ、あたくしの本当の力を使う時よ!」
その言葉を聴いた瞬間、アーケンは
そして、腰から外したダレクセイドを握り締める。
目の前を走った電撃が、積み上げられた
揺れる影を見て、ロトが笑いながら近付いてくる。
「あははっ! 最高だよ! 最高の気分だ……僕は今、勇者なんだ!」
ロトの顔には、
そして、その顔が徐々に狂気に染まってゆく。
「僕はねえ、ずっと! ずっと、気にしてた! パパとママが勇者なのに、僕はただの人間……何の取り柄もない、普通の人間だったんだ! モンスターと戦うのも、やっとで……無力だったんだよ、僕は!」
「ロト、違います……それは違います。
「ママは黙っててよ! 僕はねえ、
アーケンの隣に再び落雷が
いよよ燃え始めた蔵の中で、一度だけリーアムを振り返る。
彼女は苦しげに呻きながら、物陰に身を横たえていた。
時間がない。
急いで連れ出し手当しなければならない。
アーケンは一度空気を吸って、全て吐き出す。
意を決して彼は、ロトと闘う決意を固めた。
勇者を殺す覚悟を、再び自分の中に確かめたのだ。
「新たな
「はは、何だって? 僕は、力を手に入れた……これこそ、神が祝福した
「……一つ、昔話をしてやろう」
ダレクセイドを手に、ゆっくりとロトへ近付く。
嬲るような雷撃が次々と、周囲で石像や
「人間の世の堕落が、魔界への門を開き……世界に魔族が飛び出した。その中の一人が、闇の軍勢を従える魔王となったのだ」
「ははっ、今更それがどうしたってのさ!」
「魔王は人間達を苦しめる中で……とある王家が命欲しさに差し出した
そう、魔王を倒して人間を救うべく、神が無数の異世界から勇者を転生させた。
全ての勇者には、特殊な力を
魔王と闇の軍勢を駆逐すべく、救世主として勇者が世に放たれたのだ。
「とある勇者が仲間と共に、魔王の城へと迫った。当時から悪名高い勇者だ、魔王も姫君も死を覚悟した。そして……息子だけはと隠し部屋へ
「へえ? じゃあ……君は魔王の息子! 魔族と人間の
「今、両親の無念を晴らす。その第一歩として、貴様を殺す」
「やれるもんならやってみろっ!」
アーケンは剣を抜くなり、それを放り捨てる。
もともと折れていた剣は、乾いた音を立てて床に転がった。
火の手が回る中で、アーケンは左手にダレクセイドを握ったまま、右手を振り上げる!
「やるぞ、ダレクセイド……奴を殺す!」
「いいわよ、ダーリン! さぁ……その
「
強烈な
大きく広がりたわみながら、まるで生き物のようにダレクセイドがアーケンの右腕を飲み込む。そして、そのまま広がって全身を包み込んだ。
そのおぞましいまでの異様さに、ロトもジャンヌも言葉を失う。
だが、即座に剣を抜いたジャンヌが叫んだ。
「ロト、逃げなさい!」
「何を言ってるの、ママ……あいつは、パパの仇だ! 僕が殺すんだ! 勇者として、刻印の力で!」
「
「へえ? じゃあ、あいつが」
あっという間にアーケンの全身を、強固な鎧が
その姿はまさしく、悪魔……地の底より這い出した魔族そのものだ。ダレクセイドは本来、魔剣ロンダルギアとセットの魔鞘である。強力過ぎる魔剣の力を封じるため、圧倒的な防御力を持たされているのだ。
そしてそれは、アーケンの
アーケンにはもう、自分の四肢以外に武器が必要なくなっていた。
「勇者死すべし……さあ、祈れ。
「くっ、お前なんかッ! 黒焦げになっちまえっ!」
だが、昆虫にも似た強固な甲殻はびくともしない。あらゆる力を無効化する、鉄壁の防御力がそのまま攻撃力になる。
瞬時に間合いを詰めたアーケンは、握る鉄拳を迷わず叩き込んだ。
ロトの腹部に拳がめり込み、
ジャンヌの悲鳴が響いたが、
今、ここにいるのは……魔王と恐れられた父の気高さ、誇り、そして最強の力を引き継いだ戦士。母が優しく、時に厳しく育てた魔王の子としてのアーケンがいた。
「やめてください、アーケン! ロトが……ロトッ!」
「終わりだ! 死ね……死ねっ! 死に尽くせえええええっ!」
半分ながら確かに受け継いだ魔族の血が、その肉体に全筋力の躍動を命じた。
先程の強打で浮かんだロトが、体勢を崩しながらも着地しようとする、その瞬間……真っ直ぐ縦に、アーケンは己の右手を振り下ろす。
ただの暴力でしかない、圧倒的な
まるで
ベシャリ! と床に汚い染みとなって、先程までロトだった肉塊が落下した。
口に手を当て、ジャンヌが崩れ落ちる。
「おお……神よ。我が子ロトは……
だが、全身の鎧がシュルシュルと解けて鞘へと戻る中、アーケンは冷たくジャンヌの涙を突き返す。
恨んでくれて結構だが、勇者を殺して仇を追うのがアーケンの宿命だ。
だから、優しかったジャンヌを冷たく突き放して、祈る。
どうかもう、彼女がこれ以上勇者として振る舞わないように。
勇者として自分の敵にならないように。
「勇者であるだけで、殺すに値する十分な理由になる。悪の勇者ならば、な」
だが、彼の言葉にジャンヌは涙を
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